「あ、俺、ジュース買ってくる」
昼休み。このままだと俺の心臓が爆発しそうだから、一旦席を離れてクールダウンしようとしたのに。
「まって」
俺が立ち上がるより早く手を掴まれる。
「ミンティアコーラあるよ」
「まだ持ってんのかよ。飲まねえって言ってるだろ」
朝の劇物をまさかカバンに忍ばせていたなんて。
いつもなら四時間目が終わった瞬間に購買へダッシュしてパン争奪戦に参加するはずなのに、今日はコンビニで壱星が劇物とともに俺のパンまで買っていてくれたらしい。
おかげでジュースを買いに行くくらいしか離れる口実がないというのに、それすら速攻で潰された。
「なに仲良く揉めてんの?」
呆れ顔で近づいてきたのは、小向井と川出。
川出が俺たちの机に視線を落とし、「うわ!」と好奇心に満ちた顔で目を輝かせている。
「出た、ミンティアコーラ! それ、新作なのにすでにめちゃくちゃ不味いってネットでバズってるやつじゃん。俺気になってたんだよな。一口くれよ榊」
「無理」
食い気味の即答だ。
不味いと分かっていながら自ら志願してきた勇者に、一口くらいあげたほうがいいんじゃないか?
「なんでだよ!」
「晴にしかあげたくない」
それを爽やかスマイルのまま、さらっと言うんだから恐ろしい。そんなの不意打ちで言われたら俺の心臓が持たない。
「榊ってほんっと鳴海ラブだよな。よくもまあ、毎日毎日そんなベったり一緒にいられるわ」
「ほんとそれ。一瞬でも離れたら死ぬんか?」
ニヤニヤしながら茶化してくる二人。壱星に笑顔できっぱり断られたというのに、全くダメージを負っていない川出の鋼メンタルには感心するが、まあいつものノリだ。俺も適当に聞き流していたら。
「今さら? 俺の晴だし」
「……は?」
壱星のあまりに堂々とした言いぶりに、小向井も川出も、そして俺も完全にフリーズした。
「違う?」
当の壱星はといえば、小首を傾げ、俺の方をじっと見つめてきた。こいつ、自分の顔面をフル活用してやがる。俺に回答を委ねるなよ。
でも──間違ってはない……のか?
ここで過剰に否定したら壱星を傷つけるし、だからって照れて認めたら本格的に収拾がつかなくなる。
……くそ、まさか今まで適当な軽いノリで生きてきた経験が、こんなところで試されるとは。
「そー。壱星の晴なんよ、俺」
いつものヘラッとしたノリで乗っかってみせると、ふたたび静寂が流れた。
……え、もしかして俺、乗っかり方間違えたか? 冗談として受け取られてない感じか!?
冷や汗が背中を吹き出そうになったところで、数秒遅れて小向井たちが「ぎゃははは!」と爆笑し始めた。
「うーわ、ガチか!? マジでデキてんの!?」
危ない。あのまま静寂が続いたら、焦って余計なことを口にして墓穴を掘るところだった。
祭り状態になった二人の様子に胸をなでおろしつつ、俺は「さあね?」と適当にはぐらかしながら、今度こそ席を立つ。
「じゃ、俺ジュース買ってくるから」
小向井たちの大爆笑を背中に浴びながら、教室を抜け出す。
小向井たち相手なら、いくらだって軽いノリで受け流せるのに。なんで壱星といる時だけ、こうも調子が狂うんだ。
……なんて一人で頭を抱えそうになっていたが、すぐ後ろから当然のように足音がついてくる。
「なんでついてくんの」
「一瞬でも離れたら死んじゃうから?」
さっき川出が言った言葉をそのまま使って、壱星は首を傾げて微笑んだ。
「……お前、ほんとずるいぞ」
「晴には言われたくないよ」
だめだ。ただでさえ国宝級の顔面なのに「好き」が加わったせいで、普段の三割増しでかっこよく見える。
結局、壱星を突き放すこともできず、俺たちは並んで歩き出した。
昼休み。このままだと俺の心臓が爆発しそうだから、一旦席を離れてクールダウンしようとしたのに。
「まって」
俺が立ち上がるより早く手を掴まれる。
「ミンティアコーラあるよ」
「まだ持ってんのかよ。飲まねえって言ってるだろ」
朝の劇物をまさかカバンに忍ばせていたなんて。
いつもなら四時間目が終わった瞬間に購買へダッシュしてパン争奪戦に参加するはずなのに、今日はコンビニで壱星が劇物とともに俺のパンまで買っていてくれたらしい。
おかげでジュースを買いに行くくらいしか離れる口実がないというのに、それすら速攻で潰された。
「なに仲良く揉めてんの?」
呆れ顔で近づいてきたのは、小向井と川出。
川出が俺たちの机に視線を落とし、「うわ!」と好奇心に満ちた顔で目を輝かせている。
「出た、ミンティアコーラ! それ、新作なのにすでにめちゃくちゃ不味いってネットでバズってるやつじゃん。俺気になってたんだよな。一口くれよ榊」
「無理」
食い気味の即答だ。
不味いと分かっていながら自ら志願してきた勇者に、一口くらいあげたほうがいいんじゃないか?
「なんでだよ!」
「晴にしかあげたくない」
それを爽やかスマイルのまま、さらっと言うんだから恐ろしい。そんなの不意打ちで言われたら俺の心臓が持たない。
「榊ってほんっと鳴海ラブだよな。よくもまあ、毎日毎日そんなベったり一緒にいられるわ」
「ほんとそれ。一瞬でも離れたら死ぬんか?」
ニヤニヤしながら茶化してくる二人。壱星に笑顔できっぱり断られたというのに、全くダメージを負っていない川出の鋼メンタルには感心するが、まあいつものノリだ。俺も適当に聞き流していたら。
「今さら? 俺の晴だし」
「……は?」
壱星のあまりに堂々とした言いぶりに、小向井も川出も、そして俺も完全にフリーズした。
「違う?」
当の壱星はといえば、小首を傾げ、俺の方をじっと見つめてきた。こいつ、自分の顔面をフル活用してやがる。俺に回答を委ねるなよ。
でも──間違ってはない……のか?
ここで過剰に否定したら壱星を傷つけるし、だからって照れて認めたら本格的に収拾がつかなくなる。
……くそ、まさか今まで適当な軽いノリで生きてきた経験が、こんなところで試されるとは。
「そー。壱星の晴なんよ、俺」
いつものヘラッとしたノリで乗っかってみせると、ふたたび静寂が流れた。
……え、もしかして俺、乗っかり方間違えたか? 冗談として受け取られてない感じか!?
冷や汗が背中を吹き出そうになったところで、数秒遅れて小向井たちが「ぎゃははは!」と爆笑し始めた。
「うーわ、ガチか!? マジでデキてんの!?」
危ない。あのまま静寂が続いたら、焦って余計なことを口にして墓穴を掘るところだった。
祭り状態になった二人の様子に胸をなでおろしつつ、俺は「さあね?」と適当にはぐらかしながら、今度こそ席を立つ。
「じゃ、俺ジュース買ってくるから」
小向井たちの大爆笑を背中に浴びながら、教室を抜け出す。
小向井たち相手なら、いくらだって軽いノリで受け流せるのに。なんで壱星といる時だけ、こうも調子が狂うんだ。
……なんて一人で頭を抱えそうになっていたが、すぐ後ろから当然のように足音がついてくる。
「なんでついてくんの」
「一瞬でも離れたら死んじゃうから?」
さっき川出が言った言葉をそのまま使って、壱星は首を傾げて微笑んだ。
「……お前、ほんとずるいぞ」
「晴には言われたくないよ」
だめだ。ただでさえ国宝級の顔面なのに「好き」が加わったせいで、普段の三割増しでかっこよく見える。
結局、壱星を突き放すこともできず、俺たちは並んで歩き出した。



