誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 教室に入り、自分の席に腰を下ろしても、俺の心臓はちっとも落ち着いてくれない。

 「好き」って、こんなにやばい感情だったのか。

 机の間隔も、一センチだって変わっていない。壱星が授業中だろうがなんだろうが、隙さえあれば俺の方を向いて熱烈な視線ビームを送ってくるのも変わっていない。
 全部今までと同じで、とっくに慣れていたはずだった。

 ──なのに。

 壱星が教科書に目を落としていて俺を見ていない瞬間、なんで俺は壱星のこと何回も見ちゃってんだよ。

 ふとした瞬間に、昨日の夕方を思い出してしまう。
 触れた唇の驚くような柔らかさ、強く抱きしめられたときの腕の感触。

 ……最悪だ。気づいたら壱星のことばっかり見てる。昨日全然寝れなかったんだから、いっそ睡魔でも襲ってきてくれよ。

 目はバキバキに冴えたままで、ぶんぶんと頭を振って心を無にしようとするも。

 「晴、意識しすぎ」

 ……は!?
 椅子から転げ落ちそうになるのを必死で抑え、隣を睨みつける。が、小声で囁いてきた犯人はすでに涼しげな顔で黒板を見つめていた。

 なんでこいつだけそんな余裕そうなわけ?
 ……あー、分かった。女子からの告白も絶えない学校一のモテ男様だもんな。
 だから、こういうことにも慣れてるんだ。経験豊富だから、キスくらいでいちいち動揺しないんだ。

 一人で勝手にモヤモヤしていたら。

 「授業始まってから、晴が俺のこと見たの、今ので十四回目だよ」

 ……くっそムカつく。先生にバレない絶妙な小声なのもなんかムカつくし、回数までカウントしてんのかよ。俺ばっか意識しまくりでバカみたいじゃん。

 あまりの恥ずかしさに俺が何も言えないでいると、あろうことか壱星は机の下で、俺の制服の裾をキュッと引っ張ってきた。

 「ごめん。晴がかわいすぎてちょっと意地悪しちゃった。俺も晴と同じだから。……昨日のキス忘れらんなくて」
 「っおま……!?」

 真っ赤になって固まる俺を見て、壱星は満足そうにふっと笑うと、何事もなかったかのように姿勢を戻した。
 でも、制服の裾を掴んだ指だけは、決して離そうとしない。

 ……やっぱりこいつ、絶対にドSだ。
 そして俺は、一生こいつの手の上で転がされる運命なのかもしれない。

 それも悪くない、なんて思ってしまっているんだから──「好き」って、本当に恐ろしい。