「……ぜんっぜん眠れなかった」
昨夜、壱星と別れて家に帰った瞬間から、胸の奥がずっとバックバクとバカみたいな音を立てていて、ベッドに潜り込んでも全然治まってくれなかった。
今まで誰かと手を繋いだってキスしたって、いつもどこか他人事みたいで、こんなふうに胸が焼けるみたいに熱くなったことなんて一度もなかったのに。初めてじゃないはずなのに。
壱星が相手だと簡単に俺の心臓は暴れ狂ってしまうんだ。
激混みの満員電車の中、ぎゅうぎゅう押しつぶされないようにするのに必死で、うるさすぎる心臓も幾分マシになっていたのに。
改札を抜けた少し先。見慣れた長身の姿が目に入った瞬間、一発で元のバカみたいな鼓動に引き戻された。
壱星は俺の姿を見つけるなり、ぱっと顔を輝かせて手を振ってくる。あいつの頭の上に、いよいよ犬の耳まで見える勢いだ。
昨日、息が混ざるくらい触れ合ったのに。壱星は朝からいつも通りの笑顔でそこに立っている。
なんだよ。あんなことしといて、お前は通常運転かよ。
俺なんてほとんど眠れなかったんだぞ。
「晴、おはよ」
「……はよ」
挨拶を交わした瞬間、壱星の視線が一瞬だけ俺の唇に落ちて、すぐに泳いだ。いつもなら蕩けそうな顔で俺の顔見てくるくせに。
なんだ、やっぱり意識してんじゃん。
そう思ったら、なんだかおかしくて、肩の力が抜けた。
「ね、晴、これ飲んで」
ホッとしたのも束の間、ドヤ顔で目の前にぐいぐい押し付けられたのは、見慣れない派手なペットボトル。
ラベルには『爽快! ミンティア風味コーラ!』とデカデカと印字されている。……どう考えても嫌な予感しかしないチョイスだ。これを選んでくる壱星のセンスはどうなってるんだ。
「いやだ。飲みたくねえ」
「めっちゃ不味いから飲んでほしい」
「不味いもん共有しようとすんな」
「だって新作なんだよ?」
「知らねえよ。だいたい、そんな見るからに爆死確定なもん、どこで買ったんだよ」
「さっきコンビニで買った。晴、よくミンティア食べてるでしょ? だから見つけた瞬間、晴の顔が浮かんで気づいたら買ってた」
ずるいんだよマジで。
そんなこと言われたら断り切れない。っていうか、捨てられた犬みたいな顔でしょんぼりするなよ。俺にその顔したら何でも許されると思ってんだろ。
……実際、その顔に弱い自分が一番腹立つけど。
「……分かった、一口だけ――」
俺が渋々手を出そうとしたら、壱星は音速で満面の笑みに切り替わって『プシュッ』と快音を立てて蓋を開けた。
「あ、おい! やめろって!」
そのまま俺の口元にペットボトルを押し付けてくる。
くそ、こいつ……意外とドSなのかもしれない。
「ほら、口開けて? はい、あーん」
「あーん、じゃねえよ! 近い! 鼻にミンティアの刺激臭が直撃してんだよ」
「一口飲んだら絶対『うわっ』てなるから。一緒に『うわっ』てなろうよ」
「どんな絆の確かめ合い方だよ」
ぐいぐい押し付けられる劇物を押し返し、壱星の腕をベシベシ叩きながら、俺たちはどちらからともなく歩き始める。
いつもの歩幅。いつも通りの他愛のないくだらない会話。昨日までと同じようなやり取りのはずなのに、胸の奥が熱くてたまらなくなる。
昨夜、壱星と別れて家に帰った瞬間から、胸の奥がずっとバックバクとバカみたいな音を立てていて、ベッドに潜り込んでも全然治まってくれなかった。
今まで誰かと手を繋いだってキスしたって、いつもどこか他人事みたいで、こんなふうに胸が焼けるみたいに熱くなったことなんて一度もなかったのに。初めてじゃないはずなのに。
壱星が相手だと簡単に俺の心臓は暴れ狂ってしまうんだ。
激混みの満員電車の中、ぎゅうぎゅう押しつぶされないようにするのに必死で、うるさすぎる心臓も幾分マシになっていたのに。
改札を抜けた少し先。見慣れた長身の姿が目に入った瞬間、一発で元のバカみたいな鼓動に引き戻された。
壱星は俺の姿を見つけるなり、ぱっと顔を輝かせて手を振ってくる。あいつの頭の上に、いよいよ犬の耳まで見える勢いだ。
昨日、息が混ざるくらい触れ合ったのに。壱星は朝からいつも通りの笑顔でそこに立っている。
なんだよ。あんなことしといて、お前は通常運転かよ。
俺なんてほとんど眠れなかったんだぞ。
「晴、おはよ」
「……はよ」
挨拶を交わした瞬間、壱星の視線が一瞬だけ俺の唇に落ちて、すぐに泳いだ。いつもなら蕩けそうな顔で俺の顔見てくるくせに。
なんだ、やっぱり意識してんじゃん。
そう思ったら、なんだかおかしくて、肩の力が抜けた。
「ね、晴、これ飲んで」
ホッとしたのも束の間、ドヤ顔で目の前にぐいぐい押し付けられたのは、見慣れない派手なペットボトル。
ラベルには『爽快! ミンティア風味コーラ!』とデカデカと印字されている。……どう考えても嫌な予感しかしないチョイスだ。これを選んでくる壱星のセンスはどうなってるんだ。
「いやだ。飲みたくねえ」
「めっちゃ不味いから飲んでほしい」
「不味いもん共有しようとすんな」
「だって新作なんだよ?」
「知らねえよ。だいたい、そんな見るからに爆死確定なもん、どこで買ったんだよ」
「さっきコンビニで買った。晴、よくミンティア食べてるでしょ? だから見つけた瞬間、晴の顔が浮かんで気づいたら買ってた」
ずるいんだよマジで。
そんなこと言われたら断り切れない。っていうか、捨てられた犬みたいな顔でしょんぼりするなよ。俺にその顔したら何でも許されると思ってんだろ。
……実際、その顔に弱い自分が一番腹立つけど。
「……分かった、一口だけ――」
俺が渋々手を出そうとしたら、壱星は音速で満面の笑みに切り替わって『プシュッ』と快音を立てて蓋を開けた。
「あ、おい! やめろって!」
そのまま俺の口元にペットボトルを押し付けてくる。
くそ、こいつ……意外とドSなのかもしれない。
「ほら、口開けて? はい、あーん」
「あーん、じゃねえよ! 近い! 鼻にミンティアの刺激臭が直撃してんだよ」
「一口飲んだら絶対『うわっ』てなるから。一緒に『うわっ』てなろうよ」
「どんな絆の確かめ合い方だよ」
ぐいぐい押し付けられる劇物を押し返し、壱星の腕をベシベシ叩きながら、俺たちはどちらからともなく歩き始める。
いつもの歩幅。いつも通りの他愛のないくだらない会話。昨日までと同じようなやり取りのはずなのに、胸の奥が熱くてたまらなくなる。



