「うわっ、え!?」
突然ぐい、と後ろから手首を掴まれたのと同時に、ガタっと音がしたと思えばたけぴーは、なぜか気を付けの姿勢で固まっている。
振り返ると、すぐ近くに壱星が立っていた。
めちゃくちゃ不機嫌じゃん。さっきまでの爽やかスマイルはどこにやったんだよ。
「来て」
壱星に強引に手を引かれるまま、引きずられるように歩き出す。
たけぴーたちの「修羅場……?」と困惑した声を背中に浴びながら教室を出て、どんどん人気のない場所へ連れて行かれる。
ようやく壱星の足が止まったのは、人気のない校舎の端――壱星が告白してきた場所だった。
壱星は俺の手首を掴んだまま、何も言わずに黙っている。
ただ、繋がれた指先がかすかに震えているのが伝わってきて、どうしたらいいか分からなくなる。
「……どうした?」
たまらず声をかけると、壱星はようやく俺の方を向いた。
その顔を見て、息が止まる。
なんで、そんな泣きそうな顔してんだよ。俺、泣かせるようなことした? だとしたら重罪だ。
「……あれ、やめて」
「えっ、なに?」
「距離近いやつ」
距離が近い……?
思い当たる節がまったくな……あ、さっき肩が重かったのは、たけぴーが俺の肩に腕でも乗せたのか。って、それだけで?
「いや、普通じゃね? 友達だし」
「普通でも嫌」
即答だ。そんなに嫌だったのか。じゃあ、それってもしかして……。
「嫉妬?」
「……そうだよ。晴が他の奴と話してるだけで嫌だ。晴が笑うのも、隣に並ぶのも、同じ時間を過ごすのも、全部俺だけでいい」
俺の手首を掴む壱星の手にぎゅっと力がこもった。
痛くはない。けれど、絶対に振りほどけないくらい強くて、そこから壱星の体温が浸透してくる。
「他の奴にそんな顔見せないでほしい。俺だけを見ててほしい……って、ごめん。重いよね」
言い切ってから、壱星は掴んでいた手首の力を緩めて、気まずそうに視線を泳がせた。
――重い。
重すぎる。吐き出された言葉の熱量に気圧されて、心臓がドクドクと音を立て始める。
完璧で、女子にも男子にも優しくて、誰からも愛される学校の王子様が。
俺がたかが友達と喋っていただけで――いや、俺自身が壱星のことばかり気にしてモヤモヤしていた裏で、壱星もこんなにも余裕を無くしていたなんて。
「俺、も……嫌じゃない、といいますか」
「……ほんと?」
「……うん」
「でも、晴のこと束縛したくない。……あの日、大事にするって決めたから」
ギュオ、と心臓が聞いたこともない音を立てた。
『大事にする』という言葉も、今までの『好き』も全部。壱星は冗談でも、気まぐれでも、一時の熱でもなかったんだ。
ううん、違う。本当はずっと分かっていたのに――壱星の熱量に見合うものを何一つ返せないからって、俺が勝手に怖くなって、目を背け続けていただけだったんだ。
それなのに、壱星はずっとずっと俺に向け続けてくれていた『好き』よりも、もっと大きな熱を自分の中に押し込めて、俺の隣で笑っていてくれたんだ。
現実が急激に膨れ上がって頭が追いつかない。
夢……なわけないな。だって今、めちゃくちゃ心臓が痛い。
どうして、今までの薄っぺらい恋愛と同じだと思ってしまったんだろう。
――俺、壱星にもの凄く愛されてる。
手首は掴まれたまま。お互いの熱が皮膚を通じて混ざり合っていく。
静かな廊下の端で、俺と壱星の浅い呼吸音だけがやけに耳に届いていた。
いつもなら、ここで怖くなって一歩引くはずだった。
もしこの温もりに縋ってしまったら、二度と戻れなくなるって分かっているから。
でも、今は逃げたくない。
いつか無くなることを考えたら、やっぱり怖いけれど、今この瞬間、腕から伝わる温もりは手離したくない。
その時、頭上で唐突に鳴り響いた昼休みの終わりを告げるチャイムが、遠い世界の出来事みたいにこもって聞こえた。
その音を合図に、手首を掴んでいた指が一本ずつゆっくりと解かれていく。
「……戻ろ」
少しだけ掠れたその声は、無理やりいつもの『榊壱星』を繋ぎ合わせようとしているみたいだった。俺はただ小さく頷くことしかできない。
す、と離れていった手首。
それなのに、残された体温は冷めるどころか、じわじわと皮膚の奥へと染み込んで熱を増していく。
……ずるい。
そんなふうに優しく引き下がられたら、離れたぶんだけ、もっと熱くて息が苦しくなる。
突然ぐい、と後ろから手首を掴まれたのと同時に、ガタっと音がしたと思えばたけぴーは、なぜか気を付けの姿勢で固まっている。
振り返ると、すぐ近くに壱星が立っていた。
めちゃくちゃ不機嫌じゃん。さっきまでの爽やかスマイルはどこにやったんだよ。
「来て」
壱星に強引に手を引かれるまま、引きずられるように歩き出す。
たけぴーたちの「修羅場……?」と困惑した声を背中に浴びながら教室を出て、どんどん人気のない場所へ連れて行かれる。
ようやく壱星の足が止まったのは、人気のない校舎の端――壱星が告白してきた場所だった。
壱星は俺の手首を掴んだまま、何も言わずに黙っている。
ただ、繋がれた指先がかすかに震えているのが伝わってきて、どうしたらいいか分からなくなる。
「……どうした?」
たまらず声をかけると、壱星はようやく俺の方を向いた。
その顔を見て、息が止まる。
なんで、そんな泣きそうな顔してんだよ。俺、泣かせるようなことした? だとしたら重罪だ。
「……あれ、やめて」
「えっ、なに?」
「距離近いやつ」
距離が近い……?
思い当たる節がまったくな……あ、さっき肩が重かったのは、たけぴーが俺の肩に腕でも乗せたのか。って、それだけで?
「いや、普通じゃね? 友達だし」
「普通でも嫌」
即答だ。そんなに嫌だったのか。じゃあ、それってもしかして……。
「嫉妬?」
「……そうだよ。晴が他の奴と話してるだけで嫌だ。晴が笑うのも、隣に並ぶのも、同じ時間を過ごすのも、全部俺だけでいい」
俺の手首を掴む壱星の手にぎゅっと力がこもった。
痛くはない。けれど、絶対に振りほどけないくらい強くて、そこから壱星の体温が浸透してくる。
「他の奴にそんな顔見せないでほしい。俺だけを見ててほしい……って、ごめん。重いよね」
言い切ってから、壱星は掴んでいた手首の力を緩めて、気まずそうに視線を泳がせた。
――重い。
重すぎる。吐き出された言葉の熱量に気圧されて、心臓がドクドクと音を立て始める。
完璧で、女子にも男子にも優しくて、誰からも愛される学校の王子様が。
俺がたかが友達と喋っていただけで――いや、俺自身が壱星のことばかり気にしてモヤモヤしていた裏で、壱星もこんなにも余裕を無くしていたなんて。
「俺、も……嫌じゃない、といいますか」
「……ほんと?」
「……うん」
「でも、晴のこと束縛したくない。……あの日、大事にするって決めたから」
ギュオ、と心臓が聞いたこともない音を立てた。
『大事にする』という言葉も、今までの『好き』も全部。壱星は冗談でも、気まぐれでも、一時の熱でもなかったんだ。
ううん、違う。本当はずっと分かっていたのに――壱星の熱量に見合うものを何一つ返せないからって、俺が勝手に怖くなって、目を背け続けていただけだったんだ。
それなのに、壱星はずっとずっと俺に向け続けてくれていた『好き』よりも、もっと大きな熱を自分の中に押し込めて、俺の隣で笑っていてくれたんだ。
現実が急激に膨れ上がって頭が追いつかない。
夢……なわけないな。だって今、めちゃくちゃ心臓が痛い。
どうして、今までの薄っぺらい恋愛と同じだと思ってしまったんだろう。
――俺、壱星にもの凄く愛されてる。
手首は掴まれたまま。お互いの熱が皮膚を通じて混ざり合っていく。
静かな廊下の端で、俺と壱星の浅い呼吸音だけがやけに耳に届いていた。
いつもなら、ここで怖くなって一歩引くはずだった。
もしこの温もりに縋ってしまったら、二度と戻れなくなるって分かっているから。
でも、今は逃げたくない。
いつか無くなることを考えたら、やっぱり怖いけれど、今この瞬間、腕から伝わる温もりは手離したくない。
その時、頭上で唐突に鳴り響いた昼休みの終わりを告げるチャイムが、遠い世界の出来事みたいにこもって聞こえた。
その音を合図に、手首を掴んでいた指が一本ずつゆっくりと解かれていく。
「……戻ろ」
少しだけ掠れたその声は、無理やりいつもの『榊壱星』を繋ぎ合わせようとしているみたいだった。俺はただ小さく頷くことしかできない。
す、と離れていった手首。
それなのに、残された体温は冷めるどころか、じわじわと皮膚の奥へと染み込んで熱を増していく。
……ずるい。
そんなふうに優しく引き下がられたら、離れたぶんだけ、もっと熱くて息が苦しくなる。



