誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 雨の日、俺たちは何本の電車を見送っただろう。

 あの日から、俺たちの関係は確実に変わった。

 ファミレスでくだらない話をしながらドリンクバーでおかわりを重ねたり。男二人で入るには少々気恥ずかしいおしゃれなカフェで、壱星にお薦めされた限定スイーツを食べさせられたり。休日の映画に誘われたり。
 どこかへ行くわけじゃなくても、お互い電車の方向は反対なのに、駅のホームのベンチで何本も電車を見送りながら話す時間。
 もともとお互い口数が多い方じゃないから会話は途切れ途切れだったけれど、その沈黙すら心地よかった。

 家に帰ってベッドに寝転んでも、スマホの通知欄には必ず壱星からの連絡が入っている。

 『テレビ観てたら晴に似た猫いた』

 添付されていた写真を見て「なんだよそれ」と思わず口元が緩んでしまう。

 『壱星に似た犬』

 SNSで見つけた大型犬の画像を送り返すと、すぐに犬のスタンプが返ってくる。それだけで俺の口元はまた勝手に緩んでしまう。
 そんな他愛のないやり取りを、俺たちは毎日繰り返していた。

 どうせいつか、全部綺麗さっぱりなくなる。ずっとそう思って生きてきたはずなのに、壱星といる時間だけは、不思議と終わる気配がちっともしない。それは壱星が、毎日変わらず俺にたくさんの「好き」をくれるからだろうか。

 お互いの名前を呼ぶ回数は、いつの間にか数え切れないほど増えていった。
 何も特別なことなんてしていないのに、お互いの名前を呼び合うだけで、胸の奥がじんわりと満たされていく。

 だけど、そんな心地よさに甘えそうになるたび、嫌でも頭をよぎってしまう。いつかこれが全部なくなったら、俺はどうなるんだろう、って。