誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 学校での俺は、いつだって余裕のある『爽やかな榊』を演じられているはずだった。誰に何を言われても愛想笑いは崩さずに、適当にいなして、他人に深入りもさせない。
 なのに、晴の前でだけそのすべてが綺麗に消えてなくなる。

 晴が他の奴と楽しそうに喋ってるのを見るだけでイラつくし、めちゃくちゃ嫉妬する。俺だけを見ていてほしい。本当は俺以外の奴と話すのすら嫌だ。
 いっそ部屋に閉じ込めて、俺の手が届くところに縛り付けておけたら――なんて、最低な妄想が頭をよぎることすらある。
 だけど、そんなことをしたら晴を苦しめるだけだし、傷つけるなんて絶対に嫌だ。大事にしたいのに、独占したい。

 誰かを好きになるって、もっと綺麗で、お互いにちゃんと笑い合えるまともなものだと思っていた。
 けれど、実際は全然違った。
 相手が、よりによって『晴』だからだ。
 大切で、愛おしくて、でもどこか遠くて届かない晴だからこそ、制御できないくらいの独占欲で胸が苦しくなる。
 こんなの知らなかった。好きなのに、こんなに苦しいなんて。

 男を好きになるなんて自分でも予想外だったし、最初は戸惑いがなかったわけじゃない。
 同性から告白されてキモがられたら? 軽蔑されて、クラスメイトとして喋ることすらできなくなったら? そんな不安でいっぱいで、告白なんて怖くてできるわけがなかった。
 だけど、晴以外の奴を好きになるなんて絶対に考えられない。
 このまま何もしなかったら、晴はモテるから流されるまま誰かと付き合ってしまうに決まってる。俺の知らないところで誰かを好きになって、俺の手の届かない場所へ行ってしまう。
 それだけは、想像しただけで正気を保てそうにない。

 軽蔑されて完全に終わる恐怖と、他の誰かに奪われる恐怖。
 天秤にかけたら、後者の方が圧倒的に耐えられない。
 だから告白したのは、気持ち悪がられるリスクも覚悟の上でぶつけたわけで。ダサいくらい声が震えていたと思う。

 本当は、触れたい。今すぐ前を歩く晴の華奢な肩を後ろから強く抱きすくめて、俺のものだと確かめたい。
 だけど、できない。
 触れ合って熱が冷めていつか終わるような、ありふれた恋愛と同じ扱いにしたくない。
 もし欲望のままに触れたら、俺の醜い独占欲が全部バレて、晴に嫌われる気がする。自分を雑に扱う脆い晴を、俺の重さで壊してしまう気がする。晴の笑顔を穢してしまう気がする。
 傷つけたくない。壊したくない。怖くて、手を繋ぐことすらできない。

 ――『へえ、よかったじゃん』

 さっきの晴の乾いた声が、もう一度頭のなかで反響する。
 あの日俺を照らしてくれた春の陽だまりは、俺だけに与えられたものなんかじゃなかった。
 ……ずっと言えなかった『お礼』すら、晴にとっては覚えてもいない日常の一コマでしかなかったんだ。

 だけど。
 晴にとっての俺がその他大勢の一人でしかなくても。晴に選ばれなくても。
 それでもいい。
 俺が、俺の意志で、勝手に晴を特別に選んでいる。
 それだけでいい。
 どんなに他と同じように扱われようと、俺は晴を手離すつもりなんて、一ミリだってありはしない。

 「なにしてんの」

 視線を上げると、数歩先で、晴が足を止めて振り返っていた。
 さっきから俺がちゃんと後ろをついてきているか、数メートルおきにちらちらと振り返って確かめていたことくらい、俺だって気づいている。
 さっき俺の心をズタズタに引き裂いたくせに、そうやって優しさをくれるんだから本当に質が悪い。
 ……まあ、それでも晴のことが好きなんだから重症だよな。

 「今行く」