誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 「さーかきー、五分で終わるからちょっとこっち――」
 「無理」

 放課後。教室の入口の方から手招きされているのを、榊は見事なまでにあっさり切り捨てた。
 そうしてすぐに甘い笑顔を俺に向けてくるんだから恐ろしい。

 「晴、帰ろ」
 「すぐ終わるって言ってんだから行って来いよ」
 「やだ。すぐ終わったことないし。晴と帰れなくなる……」

 それだけで捨て犬みたいな顔すんなよ。

 「あーもう、分かった分かった。待ってるから早く行ってこいって」

 ん、と一瞬で満面の笑みに切り替わった榊は、小向井たちの方へ軽やかな足取りで向かった。
 愛想よく笑ってはいるものの、視線はがっつり俺に向けられたままだ。俺まであいつを見返していたら、教室の端と端で見つめ合う、という謎の構図が出来上がってしまう。
 あいつの視線をシカトしてスマホをいじっていた、その時だった。

 「あの、鳴海くん。……ちょっといい?」

 上から遠慮がちな声が降ってきた。
 見上げると、他クラスの女子がスカートの裾をぎゅっと握りしめて立っていた。真剣すぎる表情。
 ……これ、完全にアレじゃん。

 「あー、廊下行く?」

 教室を出るとき、榊とバッチリ目が合った。ドクッと心臓が嫌な跳ね方をしたけれど、気づかないフリをして女子の後を追う。

 「鳴海くんの優しくてかっこいいところが好きです! 付き合ってください!」

 女子は顔を真っ赤に染めながら、一世一代の覚悟を絞り出すようにまっすぐな好意をぶつけてくる。

 受け止めようとしたが、俺の心は驚くほど平坦なまま。悲しいくらいに胸が躍らない。
 それどころか、女子から言われた「好き」という言葉が、どうしようもなく薄っぺらく聞こえてしまった。
 榊がぶつけてくる言葉と同じはずなのに、なんでだ? 名前も知らない子に告られたらそんなもんか。
 ていうか――なんでこんな時にまで、あいつの顔が浮かんできてんだよ。

 でも、これでいい。
 『優しくてかっこいい』なんて、空っぽな俺を定義するお決まりの常套句。
 エンディング丸見えの、いつもの恋愛。これなら、俺でも恋人のフリをしていられる。

 「別にいいよ」
 「……え?」

 女子が信じられないというようにパッと顔を上げた。
 ――だけど、その嬉しそうな顔が一瞬で引きつって青ざめる。