誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 駅の改札を抜けると、少し離れた柱の近くに必ずあいつが立っている。

 俺と榊の関係は、相変わらず変わっていない。
 恋人らしいことなんて一つもしていないのに、ただ毎日隣にいて、榊が一方的に「好き」をぶつけてくる。ただそれだけ。

 制服を完璧に着こなしてスマホを眺めている榊の周りには、他校の女子生徒からも視線が集まっていた。
 相変わらずの顔面国宝ぶりだ。あれだけ視線を浴びても平然としていられるメンタルはすごい。そりゃ毎日これだけ視線浴びてるんだから、学校で注目されるくらい大したことないわけだ。

 けれど――。

 「晴、おはよ」

 俺が改札を通った瞬間、榊は顔を上げ、目に見えて表情を和らげる。
 ……またそんな顔して。
 さっきまでつまんなそうにスマホ見てただろ。なんで俺を見つけただけで、そんなに嬉しそうにできるんだ。
 変わり身が早すぎて毎回ビビる。人間って一瞬でそんな顔変えられるもんなのか?

 「毎日待ってなくても、先行けばいいだろ」
 「だめ。晴と一緒に行きたいし。それに……また事故ったらどうすんの」

 まだそんなこと言ってんのか。
 俺が車とかすったことなんて、お前以外誰も覚えてないだろ。
 事故った数日後から、こいつは毎朝改札で俺を待つようになった。道を歩く時も、絶対に俺を歩道側に入れて自分は車道側を歩く。過保護にもほどがある。

 「そんな何回も事故るわけないだろ。行くぞ」

 ん、と頷きつつもどこか不満そうな顔のまま、榊は当たり前のように俺の隣に並んだ。そうして自然に歩調を合わせてくる。

 並んで歩く道すがら、俺たちの肩は触れ合うか触れ合わないかの微妙な距離を維持していた。俺の右手のすぐ近くに、榊の左手がある。
 歩幅が変わるたび、指先がかすかに掠めそうになる。そのたびに胸がキュッと締め付けられるようで呼吸が浅くなってしまう。

 ……大切にされている。それは、嫌というほど分かってる。

 『好きなら、もっとちゃんと求めてよ』

 不意に、脳内でかつて付き合った誰かの声が生々しく再生された。
 彼女たちはみんな、付き合った瞬間にスキンシップを求めてきた。手を繋ぎたい。キスをしたい。もっと奥まで、もっと深く触れたい。
 流されるまま身体を預け、そうやって欲しがられることで「俺はちゃんと恋人をやれている」って安心できた。同じ好きを返せなくても、中身が空っぽなのを、誤魔化せていたんだ。

 だからこそ、触れ合っても誤魔化しきれなくなった時、俺の空っぽさに気づいた相手から振られる――それがいつものお決まりのパターンだったのに。

 なのに、榊は何を考えてんだ?
 好きな理由を聞いても曖昧なことしか言わないくせに。その言葉のわりに、そういう普通のことだって全然してこねえし。
 ……ていうか。こいつ、本当に俺のこと好きなのか?

 俺の頭の中はわけのわからない不安でいっぱいで、今日一日をどう過ごしたのかまともに覚えていない。