誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 別の休み時間、俺の席の周りにはたけぴーたちが集まり、馬鹿げた雑談に花を咲かせていた。
 榊と小向井と川出の三人セットはアウトだけど、榊単体ならセーフ、ということらしく、最近は窓際のこの席が雑談会場に選ばれることが多い。ちなみに俺から言わせれば、榊単体がダントツで一番アウトだ。

 「ギャグしまーす!」

 たけぴーが動画サイトで見つけたという、どうしようもなくくだらない一発芸の真似をして、笑いのボルテージが最高潮まで高まった。俺も同じように笑ったが、隣からの視線ビームが痛い。ほら、やっぱりこいつが一番アウトだろ。

 このまま放っておいたら休み時間中このビームを浴びるハメになる。榊の方を向くと、あいつはパッと顔を輝かせた。

 「晴の笑ってる顔、好き」

 唐突に何を言い出すかと思えばこれだ。
 息をするのと同じテンションで「好き」なんて投げてくるな。
 顔面国宝にドストレートにそんなこと言われたら、誰だって動揺するだろ。心臓の奥がざわざわすんのはそのせいだ。……って俺は一体、誰に対して言い訳してるんだか。

 「急になに言ってんの」
 「本当のことだし」

 即答だった。あまりに力強い肯定すぎて、上手く受け流せない。
 それで言いたいことは済んだのかと思えば、榊は俺の顔を見つめたまま。それから、指先で自分の左頬をなぞった。

 「晴、笑うと左だけえくぼできんの好き」
 「…………は?」

 気づいたら、自分の頬に手が伸びていた。
 えくぼ。
 そんなもの、自分で意識したこともなかった。鏡を見る時だって、笑った自分の顔のなんて確認したことがない。
 親だって、これまでに付き合ってきた奴らだって、そんな指摘をしたことは一度もなかった。
 ……こいつ、どこまで見てんだよ。

 同じ教室で同じ日常を過ごしているはずなのに、榊だけが、他の誰にも見えていない俺の断片を拾い集めて、勝手に特別な価値をつけていく。そうやって深入りされたって、俺の中身は空っぽで、何ひとつ返せるものなんてないのに――それを暴かれていくみたいで、なんだか怖い。