誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 めちゃくちゃ声は低いし、いつも見せている爽やかな笑顔は、影も形もないし。
 ……さっきまでの完璧王子と、なんか雰囲気違くね!?

 「なに、カツアゲ?」

 思わず、自分でも驚くほど軽い場違いな声で、そんな言葉が口を突いて出た。
 でも、そうやって冗談に変えてしまわないと、榊が放つ異常な熱量に喉を押し潰されそうだ。

 「榊がカツアゲとかおもろ」

 たけぴーたちがいまだに戸惑いつつも少し笑ってくれた。
 よし、空気が和らいだ。助かった。

 「じゃあリンチ? あ、やるなら放課後にしてくんね?」

 どうかお手柔らかに、と顔の前で両手を合わせておどけてみせる。そうすれば、大抵の面倒事は笑いの中に霧散していく。
 案の定、たけぴーたちが「放課後ならいいんかい!」というツッコミとともにどっと笑い転げる。
 ……だが、榊だけは、にこりともしない。

 「いいから、来て」

 これ以上の冗談なんて到底許されないガチの瞳が、確実に俺一人だけを突き刺している。

 なんだこれ……怖っ……!
 背筋に走るゾクッとした寒気に思わず怯んでしまって拒否する言葉が出てこず、俺は吸い寄せられるように椅子を引いて立ち上がっていた。

 「生きて帰ってこいよ~」

 背中越しに飛んできたたけぴーの呑気な声に「香典よろしく」といつものノリで返しても、俺を先導して歩き出した榊の背中は、ぴくりとも動かない。
 前を行く榊の背中は、他人の接近を一切拒絶するような張り詰めたオーラを放っていた。

 近くで見ると、思っていたより背が高いな。っていうか、後ろ姿すらこんなに絵になることあるんだ。なんて、榊の背中を見つめながらどうでもいいことばかり考えてしまう。
 だって、適当な雑談を投げかけてもこいつさっきから全然笑う気配無いし。理由をつけて逃げ出したら走って追いかけてきそうだし。

 そもそも、なんで俺? なんか怒らせることしたっけ? 話したことすらないはずなんですけど……。

 とりあえず、できる限り言うことを聞いて早く解放してもらおう。
 ……どうかリンチじゃありませんように。