誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 「はる――」
 「さーかーき。お前、昨日どこ行ったんだよ。ついにサボりか?」

 休み時間、俺に話しかけようとした榊を遮って、小向井と川出がやってきた。

 「晴のとこ」
 「は? マジ? お前、そういうキャラだっけ?」

 完全に面白がっている二人に「そうかも」なんて適当に愛想よく笑って返しているが、さっき小向井たちが来た時に盛大に舌打ちしたの、俺には聞こえたからな。普段のこいつからは想像もつかないんだが。
 当の小向井たちは気づいていないのか気にしていないのか、一軍特有の浮ついたノリで絡み続けている。一軍メンバーの中でも特に目立つこの三人が揃うと、キラキラオーラでなんというか、圧がすごい。

 川出が「学校サボってイケメン二人でどこほっつき歩いてたんだい?」と、なおも絡み続けているが、榊はそれ以上会話するつもりはないらしい。

 「晴」

 迷いなく俺を呼ぶと、榊の顔から小向井たちに向けられていた飾りの愛想が綺麗に消え去る。

 「ちゃんと水飲んだ?」
 「え……? あ、うん」
 「痛くない?」

 さっきの適当な対応はどこへやら、遠慮なく俺の顔を覗き込んでくる。すごく、近い。
 「榊が鳴海にラブコールし始めたぞ!」と小向井たちが揶揄い始めても、本人は完全スルーだ。それをガン無視できるんだから、榊のメンタルはえげつない。
 だいたい小向井たちも、なにがラブコール、だ。朝からこんな調子なんだぞ。俺の身にもなれ。

 「平気だって昨日から言ってるだろ」

 注目の嵐から抜けたくて、それだけ言って前を向いても榊は止まらなくて。

 「絶対無理しちゃだめだよ。少しでもおかしいと思ったらすぐに言って」
 「大丈夫だって。……それよりお前こそ、昨日大丈夫だったのかよ」
 「え……? 俺?」

 不意を突かれたように榊が目を瞬かせる。

 「昨日、学校サボって親に怒られてねえかなって」

 おそらくサボりとは無縁そうな榊を連れまわしてしまった責任もあるし……。
 だけど榊は一瞬ぽかんとしたあと、急に口元をゆるめてふっと笑った。

 「晴は本当に優しいね。それでは怒られてないよ」
 「ん? それ、では?」

 妙な言い回しに思わず聞き返すと、榊の表情がとびきり甘いものに変わる。

 「晴からのメッセージが嬉しすぎて暴れたら、怒られちゃった」
 「……暴れる、って……お前が?」
 「うん。晴がかわいすぎて」
 「はいはい、そうですか」

 マジで意味が分からん。暴れる榊なんて全く想像できないし、こいつが喜ぶようなメッセージを送った覚えもない。だいたい、なにが「晴がかわいすぎて」だ。調子のいいことばっかり言うな。

 他人には鉄壁のガードを張るくせに、俺にだけは自分からパーソナルスペースをぶち壊して踏み込んでくる。そういうのを、榊自身は全く隠せていない。というか、隠す気なんて最初から無いんだな。
 ……ほんと、なんで俺なんだよ。
 小向井たちも、いつまでもニヤニヤ見てないでどっか行ってくれ。

 その直後、前の席の女子が「課題終わってない。補習確定じゃん……」と嘆いているのが聞こえてきた。

 「俺の見る?」

 俺が肩をつつくと、女子が満面の笑みで振り返った。たしかに、補習になったら嫌だもんな。

 「え、いいの!?」
 「うん。終わったらテキトーに置いといて」
 「ありがとー! 今度お礼させて!」
 「いや、いいよ。大したことじゃないし」

 そう答えた瞬間、隣の空気が一瞬で極寒に冷え込んだ。
 さりげなく視線を向けると、さっきまで過保護モードだったはずの瞳が、今は俺の机に身を乗り出す女子を視線で射殺しかけている。
 ……そんなに睨むなよ。というか、榊が女子に、いや、他人にそんな顔するところを初めて見たんだけど。
 え、なに? 俺がそうさせたの? ノート貸しただけだぞ?
 でも隣のやつは、それすらも絶対に許せないらしい。
 ……もしかしてこいつ、めちゃくちゃ嫉妬深いタイプなのか?
 だとしたら、この先こいつと付き合うやつは苦労しそうだ。……俺には関係ないけど。