お詫びに奢るはずだったラーメンは、俺がトイレに行っている間に二人分の会計を榊が済ませてしまっていた。
いったいどこまでスマートなんだ、あいつは。
結局、帰りも「送らせて」と譲らないあいつに家まで送ってもらった。大した会話はなかったけれど、妙に居心地のいい時間が流れていた。
榊と別れて家に入ると、中はしんと静まり返っていた。
玄関には脱ぎ捨てられた兄貴のランニングシューズ。父親は昨日から兄貴の遠征のサポートに行っているし、母親も今頃合流しているはずだ。
キッチンには、自分以外の誰かのために作られたであろう惣菜のタッパー。
別に、寂しいとは思わない。物心ついた頃から俺にとっての家はこういう場所で、これが普通だから。
ベッドに寝転がると、シーツの冷たさが頭の傷にじわりと響く。
目を閉じれば、すぐに寝つけるはずだった。なのに、まぶたの裏には、なぜか今日の景色がこびりついて離れない。
いつも涼しい顔をしているあいつが病室に飛び込んできたこと。あんなに焦った様子のあいつは初めて見た。
それに――。
『じゃあ、俺が大事にする』
ラーメン屋を出たあとに言われた言葉が、頭の中で何度も再生される。
……おかしなやつだ。
親でさえ俺の事故より兄貴の試合を優先するのに。そんな俺を、出会って間もない他人が『大事にする』なんて。
嘘がないことくらい分かってる。
だけど俺は、あいつの熱量に見合うものを何一つ持っていないんだ。
好きとか、特別とか。そういう不確かな感情をどうやって自分の中に飼い慣らせばいいのか、分からない。
何も返せない自分に申しわけなさが募るばかりで、どうすればあいつと同じものを返せるのか、いくら考えても答えは出てこない。
これまで付き合ってきた奴らが俺に同じ熱量を求めてきた時、俺はいつも逃げるように終わりを選んできた。
だからこそ、何も強いてこなかった榊との曖昧な関係が居心地よかったはずなのに。
もしこの先、榊が俺に何かを期待し始めたら? そして俺が、それに何も返せなかったら?
待っているのは、いつもの終わりだ。
枕元のスマホをずるずると引っ張り出す。
今朝届いていた『今日休み?』という榊からのメッセージに既読を付ける。今日は珍しくそれ以上何もメッセージが来ていない。サボらせちゃったし、親に怒られてたら悪いことをしたな。
『今日はごめん』
一度打って、消した。なんか違う。
『今日はありがと』
いったいどこまでスマートなんだ、あいつは。
結局、帰りも「送らせて」と譲らないあいつに家まで送ってもらった。大した会話はなかったけれど、妙に居心地のいい時間が流れていた。
榊と別れて家に入ると、中はしんと静まり返っていた。
玄関には脱ぎ捨てられた兄貴のランニングシューズ。父親は昨日から兄貴の遠征のサポートに行っているし、母親も今頃合流しているはずだ。
キッチンには、自分以外の誰かのために作られたであろう惣菜のタッパー。
別に、寂しいとは思わない。物心ついた頃から俺にとっての家はこういう場所で、これが普通だから。
ベッドに寝転がると、シーツの冷たさが頭の傷にじわりと響く。
目を閉じれば、すぐに寝つけるはずだった。なのに、まぶたの裏には、なぜか今日の景色がこびりついて離れない。
いつも涼しい顔をしているあいつが病室に飛び込んできたこと。あんなに焦った様子のあいつは初めて見た。
それに――。
『じゃあ、俺が大事にする』
ラーメン屋を出たあとに言われた言葉が、頭の中で何度も再生される。
……おかしなやつだ。
親でさえ俺の事故より兄貴の試合を優先するのに。そんな俺を、出会って間もない他人が『大事にする』なんて。
嘘がないことくらい分かってる。
だけど俺は、あいつの熱量に見合うものを何一つ持っていないんだ。
好きとか、特別とか。そういう不確かな感情をどうやって自分の中に飼い慣らせばいいのか、分からない。
何も返せない自分に申しわけなさが募るばかりで、どうすればあいつと同じものを返せるのか、いくら考えても答えは出てこない。
これまで付き合ってきた奴らが俺に同じ熱量を求めてきた時、俺はいつも逃げるように終わりを選んできた。
だからこそ、何も強いてこなかった榊との曖昧な関係が居心地よかったはずなのに。
もしこの先、榊が俺に何かを期待し始めたら? そして俺が、それに何も返せなかったら?
待っているのは、いつもの終わりだ。
枕元のスマホをずるずると引っ張り出す。
今朝届いていた『今日休み?』という榊からのメッセージに既読を付ける。今日は珍しくそれ以上何もメッセージが来ていない。サボらせちゃったし、親に怒られてたら悪いことをしたな。
『今日はごめん』
一度打って、消した。なんか違う。
『今日はありがと』



