誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

~榊side~

 朝のホームルーム前。俺が席に着くなり、パーマヘアに金のメッシュを入れた小向井(こむかい)とミルクティーブラウンが色落ちして金髪になった川出(かわで)がダル絡みにやって来た。
 二人とも一年から同じクラスで、小向井にいたっては中学も同じだ。中学の時はほとんど関りはなかったはずだが、高校で同じクラスになってから、同中というだけでやたら絡んでくるようになった。

 そんな派手な二人は、入学初日に互いの髪色で意気投合し「ハイトーン同盟」とかいうやつを組んだらしい。川出の「盟友の友はマブダチ!」という謎の暴論に巻き込まれ、なんとなく俺も二人とつるむようになった。
 ちなみに、二人とも今のところ生徒指導の雷は食らっていないらしいから、この学校に身だしなみに関する校則はあってないようなものなのかもしれない。
 俺は特にこだわりがないから染めていないが、晴がもし染めるとなったら話は変わってくる。

 「なあ、榊は黒髪清楚かハイトーンギャルどっち派?」

 二人の問いに「どっちも」と返す。

 「お前さぁ、よりどりみどりだからって贅沢すぎんだよ」

 贅沢なわけあるか。今のさらさら黒髪の晴もいいけれど、ハイトーンの晴も見たい。晴なら何色でもどんな髪型でも似合うに決まっている。

 小向井と川出はダル絡みの頻度こそ改めてほしいが、基本的に自分たちのノリで勝手に盛り上がってくれる。適当に相槌を打って笑っておけば満足してくれるから、変に気を使ったり無駄に距離を詰めようとしてくる他の奴らといるよりは、ずっと気楽だ。
 こうして適度な距離感で誰にでも愛想よく振る舞うのが、この場所で平穏に過ごすための俺なりのやり方だった。

 小向井たちと適当に話を合わせながらも――俺の意識は、隣の空席に釘付けだった。
 晴が、まだ来ない。
 晴は決して真面目なタイプではない。五分前、もしくはチャイムと同時に滑り込んでくることも珍しくはない。大抵俺の方が先に来ている。
 それなのに、晴のいない隣の席の空白が、嫌な予感となって心臓をじわじわと締め付けてくる。

 スマホを取り出し、晴とのトーク画面を開く。昨夜、俺が送った『おやすみ』のメッセージでやり取りは終わっていた。
 電車の遅延だろうか。それとも、風邪でも引いたんだろうか。
 少し迷ってから『今日休み?』とだけ送信してみる。が、送ってから数分経っても、既読はつかない。
 晴は自分から連絡をくれることはないけれど、返信だけはいつも早いのに。
 喉の奥に苦いものがせり上がってきたその時だった。

 「鳴海が事故ったらしいぞ!」

 廊下からの騒ぎ声が聞こえてきた。

 「マジ?」
 「駅前で車とドカンと……ってさっき職員室の前で先生たちが話してて」

 ――その瞬間、世界から一切の音が消えた。

 ガンッ!!
 鼓膜を劈く激しい音が響いて、自分の椅子が派手に後ろへ倒れたのだと、数秒後にようやく気づく。

 「榊!?」

 誰かが驚いて声を上げたが、それを無視して気づいた時には、階段を駆け下りていた。
 すれ違う誰かと肩がぶつかりそうになったが、振り返る余裕すらない。視界がぐにゃりと歪む。心臓が暴れて痛い。

 職員室に飛び込むと「榊? どうした」と担任が驚いた顔で立ち上がった。

 「晴……鳴海、どこの病院ですか」
 「お前、なんでそれを……。まあまま、とりあえず、もうすぐホームルーム――」

 なんでそんな呑気にしてられるんだよ。

 「いいから教えてください」

 爆発しそうになる怒りを押し殺して、喉の奥から絞り出した声は、自分でも驚くほど低く震えていた。