Not only かわいい but also…

夜の旧校舎は昼間より賑やかになる。
 学校に住まう怪異たちの時間だ。
 旧校舎の一角にある、一際古い『志延館』と呼ばれる建物に、花凜が弾むように入ってきた。
「もーどういうことー?悠ニャンの意識を全然こっち引き込めないじゃない?」
花凜はスライムのような十三階段と、刃物を持った黒い影、赤い紙青い紙を睨んだ。
「邪魔をするモノがいるんだ」
「私は殴られた」
それぞれが答える。
「えーそんなの、言い訳だよーだらしないぞー」
花凜はニッコリと笑顔を作りながら、冷ややな目を2つの怪異に向けた。
「音楽室のピアノはどこかなー?」
掌を目の上にかざすようにして、きょろきょろと探すような仕草をする花凜に、
「あれは、あの場所を好んでいる」
十三階段が答える。音楽室で呪いの調べをピアノで奏でる怪異は、音楽室そのものだと言ってもいい存在だ。
「場所に縛られる怪異は不便だね」
花凜が少しバカにしたように言うと、ピリっと十三階段が震えた。
「トイレの花子、言葉がすぎるぞ」
自由に形を変えて、階段の一部になる十三階段は、顔などはないが、体をゆすって不快を露わにした。
「なぁに?今なんて言ったのかなー?」
十三階段の不快を気にも止めずに、花凜がアイドルのような笑顔を張り付かせて十三階段を見た。
「私は花凜ニャン!名前にトイレが入ってるなんてかわいい私に相応しくないし、花子なんて古くさい名前で呼ばれるのも嫌なのよ!花凜ニャンよ!そう呼びなさい」
 学校に住まう怪異たちは、その古さによって力が変わる。トイレの花子・花凜は学校の怪異の中でも古参だ。その圧に十三階段は後ずさりながら、
「わ、わかった。しかし、か、カリン…にゃん…このままではお前の望むようにはいかんぞ」
「そうねーもう日にちもないもんねーどうしたらいいかなー?花凜ニャン困っちゃったなー」
十三階段の言葉に花凜は、すぐに機嫌を戻して、伸ばした人差し指を口の横に当てて、何度も首を傾げる。
「私は抜けるぞ」
ふいに、赤い紙青い紙が言った。
「えー?なぁに?殴られて怖くなっちゃったのぉ?ダサーい」
花凜が何言ってるの、という半笑いの表情で、赤い紙青い紙を見た。
「違う。筋を通すだけだ」
赤い紙青い紙は、静かなきっぱりとした口調で言った。
「スジ?」
花凜はかくんと首を横に倒して、赤い紙青い紙に覚めた目を向けた。
「先ほど、私を殴ったヤツの仲間が詫びを入れに来た」
「は?それで許したの?やっぱり怖いじゃないのよ」
「違う。向こうは向こうの契約のもと、あの人間を守っていた。私は私がそのように存在しているから襲った。そこで私が撃退されたのは、しょうがないことだ。詫びにくる必要もないこと。」
黒い影ではあるが人型の赤い紙青い紙は、腕を組んで、詫びに来た金髪の男との会話を思い出しながら、言葉を続ける。
「だが、向こうは向こうのやり方として、殴るのは正しくなったからと詫びを入れた。さらには正式な申し出として、あの人間から手を引いて欲しいと言ってきた。私はその礼を受けたいと思っただけだ。」
「ちょ、バカなの?今どき、契約とか礼とか筋とか?そんなこと言ってるから、こんな旧校舎でくすぶることになるのよ!」
赤い紙青い紙の言葉に花凜はヒステリックな声を上げた。かわいいを作る余裕がなくなっている。
「トイレの花子、私は手を引く」
そういうと赤い紙青い紙の姿も気配も消えた。
 志延館にもともと集ってそれぞれ過ごしていた怪異たちが一瞬静かになって、その視線が花凜に向けられる。
 花凜はギリっと歯を鳴らして、
「花凜ニャンって呼べっ!」
叫ぶと、自分を見ている怪異たちを、きつく睨んだ。
 静かになっていた怪異たちは、「私たちは聞いていませんでしたよ」とでも言うように、いつも通りに、ひそひそ話を始める。
 はぁ…と花凜は息をついて、何度か笑顔を作ってから、かわいらしい表情に戻すと、十三階段に向き直った。
「どうすればいいかニャン?」
「お前の願いを叶えるには、力が足らんな」
十三階段は静かに答えた。
「力かぁ。うーん…力…ねぇ」
花凜は呟きながら、くるくるとその場で回って、ふと動きを止めた。
「力はここにあるじゃない」
いいことを思いついたと声を弾ませた。
「はな…花凜ニャン…これは、使うには」
「わかってるよぉ使う為にはお願いがいるんでしょ。それもちゃんと考えてまーす。忙しくなってきたなー。十三階段、あんたも力を蓄えなさい。もう階段増やさなくていいよ」
「…わかった…」
花凜に言われて十三階段は少しぶるぶると体を震わせて消えた。
「ふふっ楽しみ。待っててねー悠ニャン」
前髪から顔周りの髪を整えると、踊るような足取りで闇に消えた。