青く、淡い、フィルターの向こう側  -あの頃、好きと言えなかった君と大学で再会した-

あれから噂の内容が少しだけ変わった。

どうやらこの構内には吟遊詩人だけでなくゴシップ好きの探偵までいるらしい。

翌日からなんと、『夏希が由紀を口説いている』と噂になっていたのだ。

教えてくれたのはやはり西条悟。人の噂が大好きな彼のおかげで欲しくもない情報が筒抜けである。

しかも今回ばかりは悟の誇張した話ではないようで、由紀が歩いていると時折ちらちらと複数の視線を受けた。それも女の子ばかりというのだからみな酔狂なものだ。

いや、女の子だけじゃなかったか。

「実際、由紀ちゃんもまんざらじゃないって感じ?夏希ってイケメンになったもんなぁ」

酔狂な男がここに一人。

奈那を二人で待っている間、興味津々といった様子で悟に聞かれた。

「勘違いやと思うよ」

「ん?」

「……確かに聞き方によったらそれっぽいなぁって思わせるとこあるけど、私が言われたんは一緒に映画作ろうって話やし。勘違いやろ」

正式には口説いているのは映画の主役をという話で、付き合ってくれなどと告白されたわけじゃない。

あの時の現場を聞いていた誰かが、脚色つけて広めてくれたらしいが落ち着いて整理すると、夏希が言いたいのはそれなのだ。

擦り合わせがしやすい、気楽な女子と一緒にロマンス映画を作りたい。

「本当にそれだけやろか?」

「なんで?」

「俺やったらよこしまな気持ちで誘うけど」

「それが悟やん。比べたらいかんよ、汚さんといて」

なにせ当事者の夏希は相変わらず普通だったのだから。

変に意識してまた肩透かしを食らいたくはない。もう三年以上前になるが、学校で話しかけて無視されたのは結構身に染みたのだ。

すると悟がぽつりと言った。

「由紀ちゃんて、夏希のこと聖人かなんかと思っとるん」

「そんなことないし」

「お。噂をすれば……」

少し入り組んだ校舎の一角に大きな木が一本。八月の日差しを遮るような木陰と小さなベンチが一つ。

その前に夏希ともう一人、女優志望で初めに声をかけてきた子。二人が立ち話ししていた。