青く、淡い、フィルターの向こう側  -あの頃、好きと言えなかった君と大学で再会した-

「ゆっくんってさぁ、イケメン監督と付き合っとる?」

講義が終わり奈那と構内を歩いていると不意に問われた。

先ほどまでフランス語の講義を受けていたため、真っ先に浮かんだのはフランス出身のサッカー監督。
その次に過ったのが夏希の顔だった。

「監督……夏希くんか」

「そう、噂の彼ですよ。イケメン監督夏希くん」

「付き合っとらんよ」

そういえば噂の彼は最近、”イケメン監督”と呼ばれている。

夏希自身は映画を撮りたいという話を吹聴してはないのだが、この大学内には吟遊詩人でもいるらしい。

女優志望のあの子がきっかけか、それとも他の誰か知らないが、夏希を”イケメン監督”と呼びはじめ通り名になりつつある。

そして第二第三の女優志望の女の子達が、主演立候補という名の恋の切っ掛け掴みに躍起になっていた。しかし暖簾に腕押し、愛嬌も色気も打っても夏希には響かない。

「みんな断られるし、よう一緒に居るからゆっくんが彼女なんじゃ?ってみんなに疑われとるらしいよ。悟が言いよった」

みんなって一体どこの皆さんだろう。

「あり得んって、普通に友達。趣味友?みたいな」

悟が見聞きして持ってきた話は少し大袈裟なので信用しない方がいい。

不信感丸出しの顔のまま神妙に答えると、大きな影と共に聞き慣れた声が降ってきた。

「――由紀借りてっていい?」

その言葉は奈那に向けられたものらしく、夏希は一切こっちを見ず尋ねている。

「イケメンにお迎えされとる。いいなぁ〜」

「かまんの?どっち?」

「良いよぉ、いってらっしゃい。私は悟とランチでもするし~」

ふわふわとした感じで奈那が答える。
奈那は相変わらず、由紀が捕まらなければ次点で悟を選ぶらしい。

二人は仲がいいが男女の仲でなく、西洋貴族風で言えば姫と従僕といった感じで、気軽に呼びつけられるとでも思っているのだろう。決定事項のようにランチに行くと告げて立ち上がる。

「じゃあ行こや」

そこでようやく夏希と視線が合い、由紀も続けて立ち上がった。