青く、淡い、フィルターの向こう側  -あの頃、好きと言えなかった君と大学で再会した-

「――やけど俺、映画は撮りたいんよな」

傍に居ることが増え、意識して追っていくと学内で夏希は目立っていることが分かった。

どうやらクール系イケメンキャラが定着したらしい。

映画と関係ない会話に関しての言葉は少なめだが、態度自体は分け隔てないので自然と人が集まっている。

その中には当然女の子もいて、「夏希ぃ」と呼び捨てて響く甘い声を何度も聞いた。

「映画撮るの?私、主演女優に立候補するけどなぁ」

急に話に割って入ってきた女優志望の女の子が、さりげなく夏希の筋肉質な腕に触れる。

その技術、いくらで買い取らせてくれるのだろう。しかし習得しても由紀に活かせる度胸はないので、所詮はないものねだり。

眇めた視線と共に、積極的で羨ましいという感情も捨てた。

なぜなら焦る必要はないからだ。

夏希が誰かに盗られるなんてことは心配無用。だって相手は映画オタク。

今だって夏希が由紀とつるむのは映画の感性が同じだから。いわば同志、いわば研究者と助手。

それは由紀自身、痛いほど分かっていること。

「ありがと。でも撮りたい奴もう決まっとるから」

ほらね。可愛げだけでは通用しないのだ。

夏希は映画に対して真摯で合理的。

コンセプトを重要視する彼が思いつきで何かを決めるわけがない。

映画を愛し、監督を目指す夏希には、特に色恋の字は画面の奥の世界。

そういう“ジャンル”として脚本や構成に興味はあっても、自分自身のことには興味がないはずで、そもそも中学時代はそれ以前に他人に興味すらなかった。

「えぇ、私けっこう演技に自信あるのにな〜」

「なんかやってたん?」

「高校は演劇部、って冗談。なんもしとらんけどやる気はあるよって話やん」

「なんだ。そのやる気は別のことに使ってやって」

一瞬だけ興味を光らせた夏希の瞳にドキリとしたが、しかし今日も女優志望のひとりに不採用通知を出していて、ちょっとだけほっとする。

女優志望はなにも彼女だけではない。

大学はあの狭苦しい中学時代と違って、人がもっともっと沢山いる。

美人や可愛い子たちが寄り集まって夏希にちょっかいを掛ける姿を、話しかけられるたびに由紀は一歩引いて見つめていた。

しかし夏希が撮りたい人って誰だろう。

子供か、おばあちゃんか、年頃の女の子じゃないといいな。

撮影が始まったら、きっと二人で居られる時間は消えてゆくだろう。

そしてある日突然「俺の作品どう思う?」なんて、その子と一緒に聞かれるのだ。

せっかく奇跡的が起きて友達になれたのに、なんだかちょっと面倒な気持ちを持ってしまったものだ。