ある日、ゾンビを助けたら。2


アハハ~……
こんなことってあるんですねぇ……

うっすら開いた目の先に、部屋の天井がぼんやりと揺れている。
窓の外へ目線を流す。
「……なんとも眩しい青である。」

――ショックです。
人生初の風邪を引いてしまいました。

枕をぶん投げたい。
残念ながら、そのような余力はございません。

「う~……なんでだぁ~……俺は今日も風太に会いたいんだ~……う~……う~……」


“俺、お前が初恋だわ。”


「ぐぁぁ……俺も、俺も、驚いてないで言いたかった~……今日、言いたかった~……風太の言霊がまだホカホカなうちに~……風太~……」


ひょこっ。
俺の視界に遥人の顔。

「よう。初風邪の感想は?」

「最悪ですぅ~……」

「ブハッ!こんな真冬になんでワイシャツ一枚で帰ってきたんだ?お前は小学生か。」

「俺の予想ではさぁ……風邪を引くのは風太で~……風太ん家までお見舞い行って~……おでこコッツンやって~……一人寂しく留守番の風太にお粥をコトコトして~……ふぅふぅして~……あーん♡って~……う~……」

「え。風太んちってそうなの?」

「俺の勝手な……はぁはぁ……想像なんですけど~……お粥をね~……ふぅふぅって……」

「お前は相変わらず気色悪い奴だな。我が弟ながら引くわ。」


ペタッ!!
遥人が投げつけるように俺のおでこにひんやりシートを貼る。

「ひゃっ!冷てっ!」

「それ貼って寝てろ。そのまま召されてもいいぞ。風太は俺に任せろうん。安心して逝け。」


ズルッと布団から上半身から這い出る。

ベチャッ……液体のように落っこちる。

ズズズズ……スライムのようにほふく前進。


「遥人ぉぉ……待ってぇぇ……」

「うわっ!気持ち悪っ!寄るな触るな!なんだよ!!」

「風太に……余計な情報は……与えるべからず……儂が死んだら……3年は伏せろ……」

クタッ。
俺の意識よサヨウナラ。



「あーもう、めんどくさい奴。よいしょっ……と!!」


遥人は俺を担ぎあげ、ベッドに転がすと布団をかけ直し部屋を出ていった。


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「おはよーっす。」
「おー、遥人おはよー。」

「なぁ、課題やった?」
「今日小テストあるらしいぜ。」
「えーー!」
「昨日さぁ……」
「マジ!?俺もさぁ……」

朝の教室ってのは賑やかでいいな。
目を細め、自分の席に荷物を置く。


――ダダダダッ!!
うるさい足音が来たな。

――ダンッ!!
静かに止まれないのか?

なあ、牙ハムちゃんよ。


「遥人ぉっ!!」

「はい、おはよう。てか、待ちぼうけしてなかったんだ。非常につまらんな。」

「気持ちいいほど嫌な奴だな。煌人がそんなことするはずないし~、朝イチの連絡来たし~。」

「ふーん。アイツ、そこはちゃんとしてるんだな。で?なんて?」

風太を目だけで見ながら、水筒のお茶をひと口飲む。

「なんか変なんだよ。“負けられない闘いがあるので休みます”って。」


――ブボーッ!!

「ゲェホッ!!ゲホッ!!」

「うわぁ!!遥人どうした!?大丈夫か!?ほら、ゆっくり息しろ!!」

「はぁっ……はぁっ……し、死ぬかと思った……。」

風太が俺の背中をさすっては、小さくトントンとたたく。
心配そうに、俺の顔を覗き込みながら。

あーもー
しょうがねーなー

《《今日は》》、風太の味方しよっと。


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“きーらとっ♡”


――あれ?
――風太の声?

いや、そんなはずはない。
風太は今、学校だ。

いやしかし、嬉しい♡

神よ、生物に“夢”スキル付与なんて!
アナタは最高の創造神。

「風太、どこにいます?今日も……すごく……
会いたかったです。」

なんてことだ。
天井の色がサイケデリック。ピンクや黄色がぐねぐねと踊っている。
そんな中から風太を探し出せるのだろうか。

「おいおい、大丈夫かよ。」

「う~……顔を見せてください。近くにきてください。」

「なーに言ってんだ。すぐ近くにいるぞ。」





「“夢”スキルは……そこまで自由は効かないです……全力で走ってるのに全然進まなかったり……思い切りキックしてもふにゃんってなったり……素敵なスキルなのに若干のポンコツなんですよ……」

俺の視界は

ぼやけてサイケデリックで

――熱いのです。


ひやっ……
おでこにクリアな冷たさ。

気持ちいい。


ぼーー……


その冷たさが、じわっと俺の目にも届いてくる。


ぼーーー……


ああ、いつもの俺の部屋だ。
さっきのはヤバかった。
綺麗ではあったがあれはヤバいな。

ふふっ……


「おっ。チャンス!ほら!!飲み込め!!」

少し笑った俺の口になにか押し込まれた。
じゅわっと溶ける。

――甘い。

「……ラムネ?」

「まぁそんなもんだ。よし。もう寝ろ。」

「嫌だ。まだ起きてたい。風太の声とお喋りしたい。」

「寝るまで、な。」

「ぐぬぬぬ……絶対寝るものか!絶対、絶対、絶……。……すぅ……すぅ……」

“夢”スキル、自分でオフにしてしまいました。

無念である。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


寝息を立てる煌人のそばに、
風太の姿。


あぐらをかいて頬杖をつき、時折小さなまばたきをする。
「うん。顔色もまあまあだな。」
ベッド脇の置時計を手に取る。
「おっと……タイムリミット!」

立ち上がり様に、煌人の髪をさらっと撫でる。
「昨日、ブレザー、サンキュな。ゆっくり休めよ。」
置時計のタイマーを明日にセットし、そっと戻す。
「早く良くなりますように。」


――パタン。


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――パチ。


ガバッ!!


「う……頭が痛ぇ!!」
こめかみを抑えながら、窓の外に顔を向ける。
「一日が終わってしまいましたね。――何時だ?」
ベッド脇の置時計を振り返る。

――ちょこん。

「ぬわっ!!お前は……風太のヤドカリ!?いつの間に侵入を!!」

“これ、俺の宝物なんだ”

「えっと、ヤドカリよ、お前どうやってここへ?」


――。


なんか、風太と喋ったような。

あ、そうだ。夢の中の風太からラムネもらったんだ。あーん♡って。

「あんな夢みちゃうなんて照れますね♡」

視界の端に、小さな白い袋が見える。

「――あ。これ!!……薬の袋。」

ガサッ。
解熱剤が入っている。

「……口で溶けるやつだ。」

ひとつ、口に入れる。

「甘い、な……」

スン……

スンスン……

スンスンスン!!

「風太の香りだ!!え?うん。夢、ヤドカリ、ラムネ。そうか……風太……ここに居たんだ……」

風太が居たって気づいた瞬間から
――その香りしかしねぇ!!

スマホでググる。

「えっと、その場の空気を全部吸い込む方法は……と。」

トトッ……

「“不可能ですが、イメージとしてなら……“。はぁ?イメージだと?ふざけんな。風太の尊い空気をイメージにしてたまるか。何とかしろよ、先生よ。」


ベシッ!!頭をはたかれる。
「いてっ!」
顔を上げると、呆れた顔の遥人がお粥を持って立っている。
「アホ弟、明日は熱が40度あっても学校行け。あと、このお粥はお前みたいな変態にはやらん。」

えーー……
俺、超~腹減ってますけども。