アハハ~……
こんなことってあるんですねぇ……
うっすら開いた目の先に、部屋の天井がぼんやりと揺れている。
窓の外へ目線を流す。
「……なんとも眩しい青である。」
――ショックです。
人生初の風邪を引いてしまいました。
枕をぶん投げたい。
残念ながら、そのような余力はございません。
「う~……なんでだぁ~……俺は今日も風太に会いたいんだ~……う~……う~……」
“俺、お前が初恋だわ。”
「ぐぁぁ……俺も、俺も、驚いてないで言いたかった~……今日、言いたかった~……風太の言霊がまだホカホカなうちに~……風太~……」
ひょこっ。
俺の視界に遥人の顔。
「よう。初風邪の感想は?」
「最悪ですぅ~……」
「ブハッ!こんな真冬になんでワイシャツ一枚で帰ってきたんだ?お前は小学生か。」
「俺の予想ではさぁ……風邪を引くのは風太で~……風太ん家までお見舞い行って~……おでこコッツンやって~……一人寂しく留守番の風太にお粥をコトコトして~……ふぅふぅして~……あーん♡って~……う~……」
「え。風太んちってそうなの?」
「俺の勝手な……はぁはぁ……想像なんですけど~……お粥をね~……ふぅふぅって……」
「お前は相変わらず気色悪い奴だな。我が弟ながら引くわ。」
ペタッ!!
遥人が投げつけるように俺のおでこにひんやりシートを貼る。
「ひゃっ!冷てっ!」
「それ貼って寝てろ。そのまま召されてもいいぞ。風太は俺に任せろうん。安心して逝け。」
ズルッと布団から上半身から這い出る。
ベチャッ……液体のように落っこちる。
ズズズズ……スライムのようにほふく前進。
「遥人ぉぉ……待ってぇぇ……」
「うわっ!気持ち悪っ!寄るな触るな!なんだよ!!」
「風太に……余計な情報は……与えるべからず……儂が死んだら……3年は伏せろ……」
クタッ。
俺の意識よサヨウナラ。
「あーもう、めんどくさい奴。よいしょっ……と!!」
遥人は俺を担ぎあげ、ベッドに転がすと布団をかけ直し部屋を出ていった。
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「おはよーっす。」
「おー、遥人おはよー。」
「なぁ、課題やった?」
「今日小テストあるらしいぜ。」
「えーー!」
「昨日さぁ……」
「マジ!?俺もさぁ……」
朝の教室ってのは賑やかでいいな。
目を細め、自分の席に荷物を置く。
――ダダダダッ!!
うるさい足音が来たな。
――ダンッ!!
静かに止まれないのか?
なあ、牙ハムちゃんよ。
「遥人ぉっ!!」
「はい、おはよう。てか、待ちぼうけしてなかったんだ。非常につまらんな。」
「気持ちいいほど嫌な奴だな。煌人がそんなことするはずないし~、朝イチの連絡来たし~。」
「ふーん。アイツ、そこはちゃんとしてるんだな。で?なんて?」
風太を目だけで見ながら、水筒のお茶をひと口飲む。
「なんか変なんだよ。“負けられない闘いがあるので休みます”って。」
――ブボーッ!!
「ゲェホッ!!ゲホッ!!」
「うわぁ!!遥人どうした!?大丈夫か!?ほら、ゆっくり息しろ!!」
「はぁっ……はぁっ……し、死ぬかと思った……。」
風太が俺の背中をさすっては、小さくトントンとたたく。
心配そうに、俺の顔を覗き込みながら。
あーもー
しょうがねーなー
《《今日は》》、風太の味方しよっと。
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“きーらとっ♡”
――あれ?
――風太の声?
いや、そんなはずはない。
風太は今、学校だ。
いやしかし、嬉しい♡
神よ、生物に“夢”スキル付与なんて!
アナタは最高の創造神。
「風太、どこにいます?今日も……すごく……
会いたかったです。」
なんてことだ。
天井の色がサイケデリック。ピンクや黄色がぐねぐねと踊っている。
そんな中から風太を探し出せるのだろうか。
「おいおい、大丈夫かよ。」
「う~……顔を見せてください。近くにきてください。」
「なーに言ってんだ。すぐ近くにいるぞ。」

「“夢”スキルは……そこまで自由は効かないです……全力で走ってるのに全然進まなかったり……思い切りキックしてもふにゃんってなったり……素敵なスキルなのに若干のポンコツなんですよ……」
俺の視界は
ぼやけてサイケデリックで
――熱いのです。
ひやっ……
おでこにクリアな冷たさ。
気持ちいい。
ぼーー……
その冷たさが、じわっと俺の目にも届いてくる。
ぼーーー……
ああ、いつもの俺の部屋だ。
さっきのはヤバかった。
綺麗ではあったがあれはヤバいな。
ふふっ……
「おっ。チャンス!ほら!!飲み込め!!」
少し笑った俺の口になにか押し込まれた。
じゅわっと溶ける。
――甘い。
「……ラムネ?」
「まぁそんなもんだ。よし。もう寝ろ。」
「嫌だ。まだ起きてたい。風太の声とお喋りしたい。」
「寝るまで、な。」
「ぐぬぬぬ……絶対寝るものか!絶対、絶対、絶……。……すぅ……すぅ……」
“夢”スキル、自分でオフにしてしまいました。
無念である。
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寝息を立てる煌人のそばに、
風太の姿。
あぐらをかいて頬杖をつき、時折小さなまばたきをする。
「うん。顔色もまあまあだな。」
ベッド脇の置時計を手に取る。
「おっと……タイムリミット!」
立ち上がり様に、煌人の髪をさらっと撫でる。
「昨日、ブレザー、サンキュな。ゆっくり休めよ。」
置時計のタイマーを明日にセットし、そっと戻す。
「早く良くなりますように。」
――パタン。
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――パチ。
ガバッ!!
「う……頭が痛ぇ!!」
こめかみを抑えながら、窓の外に顔を向ける。
「一日が終わってしまいましたね。――何時だ?」
ベッド脇の置時計を振り返る。
――ちょこん。
「ぬわっ!!お前は……風太のヤドカリ!?いつの間に侵入を!!」
“これ、俺の宝物なんだ”
「えっと、ヤドカリよ、お前どうやってここへ?」
――。
なんか、風太と喋ったような。
あ、そうだ。夢の中の風太からラムネもらったんだ。あーん♡って。
「あんな夢みちゃうなんて照れますね♡」
視界の端に、小さな白い袋が見える。
「――あ。これ!!……薬の袋。」
ガサッ。
解熱剤が入っている。
「……口で溶けるやつだ。」
ひとつ、口に入れる。
「甘い、な……」
スン……
スンスン……
スンスンスン!!
「風太の香りだ!!え?うん。夢、ヤドカリ、ラムネ。そうか……風太……ここに居たんだ……」
風太が居たって気づいた瞬間から
――その香りしかしねぇ!!
スマホでググる。
「えっと、その場の空気を全部吸い込む方法は……と。」
トトッ……
「“不可能ですが、イメージとしてなら……“。はぁ?イメージだと?ふざけんな。風太の尊い空気をイメージにしてたまるか。何とかしろよ、先生よ。」
ベシッ!!頭をはたかれる。
「いてっ!」
顔を上げると、呆れた顔の遥人がお粥を持って立っている。
「アホ弟、明日は熱が40度あっても学校行け。あと、このお粥はお前みたいな変態にはやらん。」
えーー……
俺、超~腹減ってますけども。



