ある日、ゾンビを助けたら。2


――よし。もう、話そう。

そっと、腕の中の風太を離す。

キミの丸くて綺麗な目。
そこに映る俺がそんなにイケメンならば、こっちの俺もきっと話せる!

「俺、ずっと大変なんです。」

「うん。」

「好きすぎて。触れたくて。抱きしめたくて……愛しくて……風太のまばたき一つで、俺の心臓が暴れてしまうんです。」


「うん。」

「その髪が風にゆれるだけで独占したくて、閉じ込めたくて、それから……えっと……俺、抑える自信ないです。」







「そか。」

俺を見つめる風太の目がふっと和らぐ。

その目に、俺は正直戸惑ってる。

俺の想定では、風太は丸椅子から立ち上がり、申し訳なさそうな顔をして「教室戻ろう」って俺に言うはずなんだ。

そしたら、俺も、頭をかきながら「うん。なんかすみません。」ってベッドからおりて……

えっと。それで。


「――煌人。」

吐息のような静かな声にハッとする。
変わらず風太の目は丸くて綺麗で、そこに映る俺は、不安そうに寄ってる眉毛ですら《《サマ》》になってる。

変な感じだ。

「お前さっきさ、俺の目に映る自分がイケメンだって言ってたよな。」

「……それ、今も思ってました。」

「クスッ……思ってたんかい!あのな、それ当たり前なんだよ。だって、俺から見てるお前は、マジ素敵なド変態なんだから。自分に逆らって、賢者モードになろうとするからおかしくなるんじゃねぇの?」


「風太……。」


「俺が惚れたのは――“洞 煌人”なんだよ。今更ロマンチックな理由をつけようとしても、もう遅いぞ。」

腕組みをしてる、その細い腕。
ちゃんと筋肉もあって決して弱いわけじゃない。
いや、むしろ強い。
さっきも、結構マジで頬掴んだのに俺の力に負けてなかった。

結構な力持ちの風太さん。
いつもはゆるふわしてるのに、今はその欠片もない。

なに、その貫禄。

何が言いたいかと言いますと。



――カッコイイ♡



「煌人?聞いてんのか?」

「はい。聞いてます。俺、受けでもいいです。――あ。いや、違うんです。そうじゃなくて、風太が眩しい……です。」


目を伏せる。


カサッ……
傍に座ってる風太の服が擦れる音がする。


「……どうした?」

風太の優しい声に、ギュッと強く目を閉じる。

「は、早くしてください。勇気をだして“待ち”してんです。」

「は?」

「ん~~……ムチュゥ……♡」

唇を少し出す。

閉じたまぶたの向こうがスッ……と暗くなる。

すぐ近くに、風太を感じる。


――ふわっ


うわーっ……風太の唇って、フカフカしてて柔らかい……

あぁ、サヨウナラ。俺のファーストチュー。

本当は俺からやりたかったやつ。

少し悔しい。
少し心残り。
少し――後悔。

あーん、やっぱり俺からやりたかった。

そろっと目を開ける。
ニヤニヤとした風太がいる。

「んん!?」

風太の手が俺の唇に何かを押し当てている。
なんと!!風太の唇ではないと!?
じゃぁ、これはなんだ!!

風太の手を掴み、自分の目でしかと確かめる。

「……。」

小さなヤドカリと目が合った。

「ヒィ!!コイツはいつぞやの!!」


風太がニカッと笑う。

「コイツ、俺の宝物。いつもポッケに入れてんだ。」

「忌々しい……そいつは打ち捨てて、俺の手をポッケに入れてみませんか?」


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――教室。

窓際の席から、風太を眺める。

あ、また誰かに話しかけられてる。
あ、肩を触られた。
ゆるっふわっと華麗にかわして、穏やかに座る。

その後ろ姿から聞こえる。


『誰だ、お前。』


クスッ……

うん。俺もその人、誰か分かりません。
どこから湧いたんでしょうな。

クスクス……



――トンッ。
俺の机を遥人の指が叩く。

「なん、ですか?」

「俺、アイツ気に入った。」

ピクッ……。
――来たな。
嫌な予感がリアルになって俺に迫ってる。

「アイツって、誰ですか?」

「言わせる~?……光星風太。」

視界のピントを、風太から遥人へと移す。
俺にそっくりな顔が口の端だけで笑ってる。

その口元から目へ、視線をスライドさせる。
遥人の目は、笑ってない。

「そうですか。でも、やめてください。」

「俺の自由じゃん。」

「そうであっても。です。」

「彼、活きがよくて可愛いね。あと、いい匂いする。」

首を傾け、俺を覗き込んでニヤリと笑う。
机の上にある遥人の指を払い除ける。

「それ以上、変な目で見たら――殺す。」

「おー、怖い怖い。」

遥人がパッと両手を上げた。


なんだ?
なんなんだ?
あんなに気に入らないって態度に出しておいて、気に入っただと?


――ふたりに何があった?


そうだ。遥人の転校初日、朝のHR中にふたりが席を外して――その後からだ。

俺だって何となく気にはなってた。

風太の様子が良くも悪くも変わったから……。