――パチ。
俺、開眼。
白い天井。
横には、カーテン。
あぁ、保健室?
「蘇生したか、おバカゾンビ。」
風太の声だ。
声の方へ目線を流す。
風太のまんまるな目が俺を映している。
「風太の目に映ってる俺って、かなりのイケメンですね……」
ぼそっと口をついて出る。
風太のまるい目が更にまんまるになる。
「はーー、あっきれた!」
クッ……と笑う。
「俺、なんでまた保健室?」
「覚えてないのかよ。なんか知らんけどぶっ倒れたから、バリケードたちがここまで運んだ。」
「そうですか。バリケードたちが……。」
バリケードたち……
――あ。
「マシュマロ!マシュマロはどうなりました!?」
「鷹野のオヤツのことか?」
「オヤツ!?」
「あいつの大好物なんだよ。元気になるって言ってさ。」
「大好物!?そして元気に!?」
ワナワナ……
「あんのインテリ眼鏡め、風太のマシュマロリップが大好物だと?しかも元気に?」
「えっと……ちょっとよく分からないな。お前、まだ呆けてんのか?」
風太が俺の顔を覗き込む。
眉を寄せ、心配そうだ。
――ムズッとする。
そのクソ愛おしい頬を両手で掴む。
「ぅわ!いきなりなんだよ!離せ!バカ!」
猫パンチの如く、風太パンチが繰り出される。
頬を掴んだまま引き寄せる。
スッ……
鼻先を風太に寄せる。
「えっ、ちょっ、お前っ……」
ググググ……。
風太が手のひらを俺の頬に押し付ける。
「離せって言ってんだろーが!!」
怒号と共に、風太の指が俺の頬を思い切りつねった。
――ギュウゥゥゥ!!
「いってぇぇぇえええ!!」
頬を押さえ、枕に向かってのたうち回る。
肩で呼吸をしながら、風太が怒鳴る。
「やるならちゃんとやれよな!!」
「へ?」
「大事なことだろ!!勢いでやるんじゃねぇよ!!俺は……っ、そういうのが……っ、ものすごく……っ、大っっっ嫌いだ!!」
――ズドーン。
あ。
隕石降ってきた。
“大嫌い”という隕石が。
俺のバカ。
こんなの、風太がまた、俺の手からするりと逃げてしまう。
風太のブレザーの袖をキュッと掴む。
「風太っ、お願いです。行かないでください。」
風太のまつ毛が掴んだ袖へと、ゆっくり伏せる。
小さく、二度、上下する。
その瞳が、すっと俺を捉える。
「――どこに行くって言うんだ?お前どうかしてるぞ。なんだよ、どうした?」
「え……。」
風太は変わらず俺のベッドのすぐ側に、丸椅子に腰掛けていた。
立ち上がろうという素振りもなく、だらっと少し脚を開いてそこに座っている。
「風太……逃げないんですか?」
「ブハッ!なんだその顔。まずそのアホそうな口閉じろ。」
「あ、はいっ。お口はチャックします。キュッ!」
「そんで、話を聞け。」
「はいっ。」
耳に小指を突っ込みゴソゴソッ。
よし、耳、開通。
「悩みがあるなら言え。溜めるな。暴走するな。一人で無茶するな。分かる?」
「はいっ。」
「もう、一人で頑張らないで。――俺はお前の彼氏なんだろ?」
「はいっ。……は、はいっ!?」
「違うのか?」
ちょーっと待ってくださぁぁいっ!!
今、それ言う!?
また俺、危険天然記念物になってしまいますよ!!
「違わない!……です!――でも、今は、そういうこと、言わないでください。」
「なぜに?」
「えっと……その……あっ、そう、そうそう。付き合おうってまだ言ってません。」
俺を見据える瞳が、一瞬の間もない速さで、ぐんっと距離を詰める。
「あわわわ、風太っ……!」
目を逸らす。
「こっち見ろ。」
渋々、風太を見る。
丸くて大きなその瞳には、ゆらゆらと俺が映っている。
そこの俺、風太の瞳の中で呑気に揺れてんじゃねぇよ。
そこの俺と、ここの俺、同じ俺なのになんでこんなに違うんだ。
「なぁ、煌人。――俺と付き合ってよ。」
「えぇっ!!それっ……俺っ……えぇ?」
「俺は、お前の彼氏になりたい。」
「待って!!」
バッ!!
俺の手が風太の口を塞ぐ。
風太がすぐさま俺の手をひっぺがす。
「ぷはっ……!何のつもりだよ!」
「だって、それは俺に言わせて欲しいです。」
「え。やだ。お前にはこの権利はやらん。」
「ななな、なぜですか!?……俺だって言いたいのに。なのに、何、お先に失礼みたいに言ってんすか!」
「早いもん勝ちだから。俺のが早かったもん。もたついてる奴には権利やらん。」
“もたついてる奴には”
ああ、痛々しい。
全くもってその通りです。
「完全……敗北です。」
「ざまあ。」
風太がフフンと鼻で笑う。
うわ……
ゆるふわじゃない方の王子が俺に降りてきた。
「あの……俺の彼氏の風太さん……話したいことがあります。だがしかし、俺の彼氏の風太さんに話していいものかどうなのか。ねぇ、俺の彼氏の風太さん?」
「言えよ。俺、聞くから。」
なに?もう。
クソ可愛い顔して頼りがいあるのは、反則ですっ。俺の彼氏の風太さん。
チラッと風太を見る。
そこに居る俺の彼氏の風太さんは、いつもと変わらない瞳で俺を見ている。
くるっとした可愛い瞳で。
俺の話なんて本当に風太にしていいのだろうか。
だって……
俺、
変態だし……。
ごめんね、風太。
やあ、はじめまして。
俺、風太の彼氏のド変態さんなんです。
風太が小さく息を吐く。
肩が揺れただけで、非常に可愛い。
クソ困る。
「煌人、俺、お前の話が聞きたい。」
「ぬわぁーー!!」
「うわ!ビックリした!急に叫ぶなよ、なんなんだよ。」
「すみません。すみませんったらすみません。風太が可愛くて愛しくて。困ったことに俺は今、好きが溢れてお札を刷る機械みたいになってるんです。」
「ブハーッ!!」
風太が吹き出した。
腹を抱えて涙流して、ヒィヒィ言ってる。
何がそんなに面白いのか。
「真面目な話なんです。笑わないでくださいよ。」
「だってお前っ……お札を刷る機械って!!ダハハハ!!あかん、無理!!わけ分からんのに分かっちゃうの無理!!」
お腹を抱え、脚をパタパタ、ふわふわの髪が小さく揺れて……まるでオモチャのようだ。
「風太、笑うの止めないと担いで連れて帰りますよ?」
「別にいいよ。……クククク。ダメだ止まらねぇ……クックック」
ああ、もうダメだ。
――ギシッ……
ぎゅうぅぅぅぅっ。
風太の小さく揺れる肩に顎を乗せ、思い切り抱き寄せる。
ふわっと香る風太のシャンプーの香りに、
俺はベロンベロンに酔ってしまうよ。




