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こんにゃく芋騒動もありましたが、
風太との日々は今日も平和です。
キスをしたあの日から
何かが急展開を迎えることもなく、
俺の風太ランド上陸もあれっきり。
「――平和過ぎる……。」
洗面所の鏡の前、
歯ブラシを止め、小さく息を吐く。
「うーむ。」
また歯ブラシを動かす。
「朝から心気臭ぇ奴がいるー。」
鏡の端から、
遥人がひょこっと顔を出す。
「うるひゃい。」
「平和であることに感謝しろ。」
「うるひゃい。」
「波乱万丈なんて疲れるだけだぞ。」
あーもー、うるっさいなぁ。
分かってますよ。
水を口に含み、乱暴に吐き出す。
歯ブラシをコップに投げ入れる。
「別に波風立てたいわけじゃないです。」
ふいっと洗面所を後にする。
俺は行くのだ。学校へ。
風太の待つ十字路へ、
昨日も今日も明日も
変わらない俺で行くのである。
余計なことは考えるな。
欲深くなるな。
今を見ろ。
ジジババが俺に
酸っぱいほど言ってきたではないか。
タッタッタッ……
ふむ。今日も軽やかな足音である。
――居た!風太!
今日も十字路に、
鼻の頭を赤くした風太が立ってる。
しかし、
風太はいつも何時から
そこに立っているのです?
先に着いて驚かせたくて
早め早めに出てるけど
未だに勝ててないんですよね。
いつも俺が待たれる側なんだなぁ。
「風太ーっ!」
手を振り、加速する。
振り向く風太は
いつも二カッと笑ってくれるんだ。
赤くなった鼻の頭が
強烈に可愛いのだ。たまらんのだ。
目の前の雪たちよ、どきたまえ。
除雪車が通りますぞ!
「ふーうたーーーーーっ!!」
ゴォォォオオオオ!!
爆速っ。
――グンッ!
後ろから、俺のリュックが引っ張られる。
「誰じゃぁぁい!邪魔すんじゃねぇ!」
「あ。すまん。」
パッと手を離したのは、
バリケードの鷹野だ。
なんだ?どうしたんだ?
「お?鷹野、早くないっすか?」
鷹野は小さく頬をかくと、
俺を木の影に引っ張りこんだ。
「ちょっ……何?なになに?」
「お前、多分、ポンコツだから
伝えに来てやったんだよ。感謝しろ。」
「はい?何の話ですか?」
「浮かれポンチ、よく聞け。
風太が誰かを待つなんて、
――有り得ない。」
「いきなり何を。」
「俺が知る限りでは、
風太が誰かを待ったことなんて
今までに、ない。」
――あ。うん。
わかってるんだ、それ。
知ってるんだ、それ。
風太は、多分、そう。
だから俺は走ってるんだぞ。
毎朝、毎朝。
でも風太より早く着けないんだよ。
「……知ってます。」
「なんだ。分かってたのか。」
「うん。だから……。」
つい眉間を寄せてしまう。
鷹野が慌てたように頭を下げる。
「悪い。余計なことだったよな。」
「いえ。だから……」
鷹野の眉がきゅっと上がる。
俺の顔を覗き込む。
「ん?」
「だから――助けておくれ!!」
「はい?」
「ブハッ!!お前っ……クククッ」
鷹野がバカウケだ。
何がそんなに面白いのか。
「なになに、お前、風太を待ちたくて
少しずつ時間早めてたの?
で、未だに勝てない?アハハハ!」
「笑うな。
俺は真剣に助けを求めてんすよ。」
「一生、勝てねえよ。諦めろ。
風太はずーっと超低血圧男だったんだ。
そいつが毎日早起きして待ってんだよ。
負けるわけねーじゃん。」
鷹野が勝ち誇ったように俺を見る。
次の瞬間、
後ろから冷えた声が聞こえた。
「鷹野ぉー……
余計なことしてるなぁ、お前。」
ひぃ。風太ちゃん。
しかしさすが幼なじみ、鷹野。
悪びれもせず風太に言い返している。
「余計で結構だ。
洞は変態のバカだから、
お前の大好きを
叩き込んでやりたくなったんだよ。」
「確かに煌人はド変態のアホだけど
いつもちゃんと受け取ってるさ。
過保護かよ。」
「過保護にもなる。
こんなド変態が初めての恋人とか
心配で発狂するわ。」
「俺もまさか初めての恋人が
こんなド変態野郎になるとは。
正直、驚いてる。」
「分かってんならいいんだ。」
「鷹野……お前ってやつは。」
風太と鷹野が見つめ合う。
二人、それ以上言葉は要らない。
うん……と頷き合う。

「ちょーっと待て!なんか変!
今、なぜか、
俺の心がポキッと音を立てました。」
二人が揃って、
憐れみの目で俺を見る。
「やめて?その目、やめて?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学校までの道。
煌人と肩を並べて歩く。
鷹野の話をどう思ったかな。
重いかな?
なんて不安が頭をもたげてくる。
煌人はそんなこと思わないって
分かってるくせに、
俺の心はそう思っちゃうんだ。
「煌人、さっきのは鷹野なりの、
なんていうか、親心っていうか、
まあアレだ。気にするな。」
「あ、ちょっとだけ
静かにしてもらえますか?
思いが過ぎると窒息しそうなんで
吐かせてもらいますね。」
「……あ。ごめん。重いよな。」
「風太が早起きしちゃうくらい俺のこと大好きって、最高かよ。可愛いかよ。萌え殺す気かよ。もっかい今すぐチューしたい。けっこう激しいやつ。酸欠必至。」
――はい?
どさくさに紛れて何か聞こえたのだが。
「ふぅ、スッキリィ♡
で?さっき何て言ってました?」
「えっと~……もういいや。」
開いた口が塞がらないままだ。
しかも思い出してしまった。
最高に気持ちよかった煌人とのキス。
あんなの、俺だって毎日したい。
全部ほったらかして、ずっとしてたいわ。
「俺も思いが過ぎるから吐き出そっかな。
空に言うだけだから。
煌人に言ってるわけじゃないから。」
カラッと晴れた青空を指さし、
息を吸い込む。
せーのっ。
「あのキスは気持ちよかった。死ぬかと思った。頭おかしくなるかと思った。そんなのどこで覚えたんだってちょっと嫉妬。今すぐチューしたい。一日中バカになるくらいしたい。」
チラッと煌人を見る。
なんだよ、そのアホ面は。
「ふふん。ざまあ。」
口の端だけで笑ってみせる。
煌人の瞳は今日も真っ黒に光ってる。
そこには、俺しかいない。
微動だりせず、
煌人の視界を独占してるんだ。
それすらも気持ちいい。
俺と視線が絡み合ったまま
煌人がボソッと呟いた。
「俺、オカルト部に
用事があるかもしれません……。」
――あ。
それって……
「奇遇だな。
俺もオカルト部に大事な用がある。」
「それは……奇遇ですね。」
「うん、そうだな。」
一歩、また一歩、雪を踏みしめる。
ほんの少し足音が早くなったのは
気のせいだよね?
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こんにゃく芋騒動もありましたが、
風太との日々は今日も平和です。
キスをしたあの日から
何かが急展開を迎えることもなく、
俺の風太ランド上陸もあれっきり。
「――平和過ぎる……。」
洗面所の鏡の前、
歯ブラシを止め、小さく息を吐く。
「うーむ。」
また歯ブラシを動かす。
「朝から心気臭ぇ奴がいるー。」
鏡の端から、
遥人がひょこっと顔を出す。
「うるひゃい。」
「平和であることに感謝しろ。」
「うるひゃい。」
「波乱万丈なんて疲れるだけだぞ。」
あーもー、うるっさいなぁ。
分かってますよ。
水を口に含み、乱暴に吐き出す。
歯ブラシをコップに投げ入れる。
「別に波風立てたいわけじゃないです。」
ふいっと洗面所を後にする。
俺は行くのだ。学校へ。
風太の待つ十字路へ、
昨日も今日も明日も
変わらない俺で行くのである。
余計なことは考えるな。
欲深くなるな。
今を見ろ。
ジジババが俺に
酸っぱいほど言ってきたではないか。
タッタッタッ……
ふむ。今日も軽やかな足音である。
――居た!風太!
今日も十字路に、
鼻の頭を赤くした風太が立ってる。
しかし、
風太はいつも何時から
そこに立っているのです?
先に着いて驚かせたくて
早め早めに出てるけど
未だに勝ててないんですよね。
いつも俺が待たれる側なんだなぁ。
「風太ーっ!」
手を振り、加速する。
振り向く風太は
いつも二カッと笑ってくれるんだ。
赤くなった鼻の頭が
強烈に可愛いのだ。たまらんのだ。
目の前の雪たちよ、どきたまえ。
除雪車が通りますぞ!
「ふーうたーーーーーっ!!」
ゴォォォオオオオ!!
爆速っ。
――グンッ!
後ろから、俺のリュックが引っ張られる。
「誰じゃぁぁい!邪魔すんじゃねぇ!」
「あ。すまん。」
パッと手を離したのは、
バリケードの鷹野だ。
なんだ?どうしたんだ?
「お?鷹野、早くないっすか?」
鷹野は小さく頬をかくと、
俺を木の影に引っ張りこんだ。
「ちょっ……何?なになに?」
「お前、多分、ポンコツだから
伝えに来てやったんだよ。感謝しろ。」
「はい?何の話ですか?」
「浮かれポンチ、よく聞け。
風太が誰かを待つなんて、
――有り得ない。」
「いきなり何を。」
「俺が知る限りでは、
風太が誰かを待ったことなんて
今までに、ない。」
――あ。うん。
わかってるんだ、それ。
知ってるんだ、それ。
風太は、多分、そう。
だから俺は走ってるんだぞ。
毎朝、毎朝。
でも風太より早く着けないんだよ。
「……知ってます。」
「なんだ。分かってたのか。」
「うん。だから……。」
つい眉間を寄せてしまう。
鷹野が慌てたように頭を下げる。
「悪い。余計なことだったよな。」
「いえ。だから……」
鷹野の眉がきゅっと上がる。
俺の顔を覗き込む。
「ん?」
「だから――助けておくれ!!」
「はい?」
「ブハッ!!お前っ……クククッ」
鷹野がバカウケだ。
何がそんなに面白いのか。
「なになに、お前、風太を待ちたくて
少しずつ時間早めてたの?
で、未だに勝てない?アハハハ!」
「笑うな。
俺は真剣に助けを求めてんすよ。」
「一生、勝てねえよ。諦めろ。
風太はずーっと超低血圧男だったんだ。
そいつが毎日早起きして待ってんだよ。
負けるわけねーじゃん。」
鷹野が勝ち誇ったように俺を見る。
次の瞬間、
後ろから冷えた声が聞こえた。
「鷹野ぉー……
余計なことしてるなぁ、お前。」
ひぃ。風太ちゃん。
しかしさすが幼なじみ、鷹野。
悪びれもせず風太に言い返している。
「余計で結構だ。
洞は変態のバカだから、
お前の大好きを
叩き込んでやりたくなったんだよ。」
「確かに煌人はド変態のアホだけど
いつもちゃんと受け取ってるさ。
過保護かよ。」
「過保護にもなる。
こんなド変態が初めての恋人とか
心配で発狂するわ。」
「俺もまさか初めての恋人が
こんなド変態野郎になるとは。
正直、驚いてる。」
「分かってんならいいんだ。」
「鷹野……お前ってやつは。」
風太と鷹野が見つめ合う。
二人、それ以上言葉は要らない。
うん……と頷き合う。

「ちょーっと待て!なんか変!
今、なぜか、
俺の心がポキッと音を立てました。」
二人が揃って、
憐れみの目で俺を見る。
「やめて?その目、やめて?」
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学校までの道。
煌人と肩を並べて歩く。
鷹野の話をどう思ったかな。
重いかな?
なんて不安が頭をもたげてくる。
煌人はそんなこと思わないって
分かってるくせに、
俺の心はそう思っちゃうんだ。
「煌人、さっきのは鷹野なりの、
なんていうか、親心っていうか、
まあアレだ。気にするな。」
「あ、ちょっとだけ
静かにしてもらえますか?
思いが過ぎると窒息しそうなんで
吐かせてもらいますね。」
「……あ。ごめん。重いよな。」
「風太が早起きしちゃうくらい俺のこと大好きって、最高かよ。可愛いかよ。萌え殺す気かよ。もっかい今すぐチューしたい。けっこう激しいやつ。酸欠必至。」
――はい?
どさくさに紛れて何か聞こえたのだが。
「ふぅ、スッキリィ♡
で?さっき何て言ってました?」
「えっと~……もういいや。」
開いた口が塞がらないままだ。
しかも思い出してしまった。
最高に気持ちよかった煌人とのキス。
あんなの、俺だって毎日したい。
全部ほったらかして、ずっとしてたいわ。
「俺も思いが過ぎるから吐き出そっかな。
空に言うだけだから。
煌人に言ってるわけじゃないから。」
カラッと晴れた青空を指さし、
息を吸い込む。
せーのっ。
「あのキスは気持ちよかった。死ぬかと思った。頭おかしくなるかと思った。そんなのどこで覚えたんだってちょっと嫉妬。今すぐチューしたい。一日中バカになるくらいしたい。」
チラッと煌人を見る。
なんだよ、そのアホ面は。
「ふふん。ざまあ。」
口の端だけで笑ってみせる。
煌人の瞳は今日も真っ黒に光ってる。
そこには、俺しかいない。
微動だりせず、
煌人の視界を独占してるんだ。
それすらも気持ちいい。
俺と視線が絡み合ったまま
煌人がボソッと呟いた。
「俺、オカルト部に
用事があるかもしれません……。」
――あ。
それって……
「奇遇だな。
俺もオカルト部に大事な用がある。」
「それは……奇遇ですね。」
「うん、そうだな。」
一歩、また一歩、雪を踏みしめる。
ほんの少し足音が早くなったのは
気のせいだよね?



