ある日、ゾンビを助けたら。2


「……もっと?」

「うん。もっと。」

「――to be continued.」


「……なんか言った?わぁ次どうなるんだろぉ♡とか言うと思うか?乞うご期待なんて嫌なんだけど。」

なんだよ、煌人。勝手に途中でやめてんじゃねぇよ。普通にイライラするわ。

でも、ちょっと自分に引く。
俺、こんなに飢えてたっけ?

「風太、俺、アレ持ってないんすよ。それにアレもないし。」

「アレとアレとは?」

「それは、ほら、じゅ……」

「じゅ?」

「じゅっ……準備っ……ですっ!まさかこんなスペシャルがあるとは予測もしてなかったものでして。」

「準備?――へぇ。お前、まさかのロマンチストだな。」

「え?準備がロマンチック配属なんて聞いた事ないんすけど?」

何を言ってるんだか。コイツは時々訳の分からんことを言う。

しゃーねぇな。

「わかった。今すぐやろう、準備。」

「はぁーっ!?可愛い顔してえげつないですね。」


こうとなったらフットワークも軽い。
身なりを整え、煌人の腕を掴み上げる。

「ほら、立て!付き合ってやんよ。」

「マママ、マジで言ってます!?」

「つべこべ言うな!俺はもう待てん!」

「……えっとPayPay足りるかな。」

「んなもん数百円の話だろ!ほら行け!今すぐ行け!」


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俺は今、何故か百均の前にいる。
なぁ、俺のハムちゃん。なぜ百円均一なんだい?

「……行くならドラストでは?」

「あ?アホか。ここに山ほどあるわ。選びたい放題だぞ。」

風太が鼻で笑う。
いつの間にかカゴ持ってるし。
まあ、いいか。とりあえずついて行こ。


「煌人はピンクかぁ?それともブルーかぁ?」


ガバッ!!
風太の口を後ろから塞ぐ。

「ななな、何を大きな声でっ!!どっちでもいいですよ!そんなの!」

風太が俺の手をむしり取り、チラッと目線をこっちへ投げる。

「なんだお前、おもろい顔。目から鼻から蒸気出てんぞ。」

エスカレーターが、長い。
この珍獣を連れて歩くのが、こんなにスリリングだとは……。
またいつ何を叫び出すか分からん。

ムギュ、と後ろから風太の口を塞ぐ。


「ベロベロベロ~♫」

手の中で風太の舌が踊る。

「ヒィッ……やめんかっ!」





――で?これは何だ?

「あのぅ……何を買うつもりで?」

「ハートバルーンだけど。」

でしょうね。
目の前にいっぱいハートがありますね。
よりどりみどりでわぁ楽しい♡(棒読み)

何考えてんだ、この子。

しかし、しかしだ。
風太の後頭部がめちゃくちゃ喜んでる。
それ見たらもう、バルーンでいいかなって思う。うん。


アレとアレ?

え?なんですか、それは。

卑猥な俺よ、さらば。


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風太と二人、部屋を見渡す。


「いや~、百均ってすげぇですね。風太の可愛いお部屋が、更にこんなにスウィートに♡」

「ふふっ。だろ?俺もちょっとこれはアガるわ。」

そう言いながら、重なったバルーンをずらす風太が強烈にクッソ可愛い。
ハートの中に埋もれてる。
ヤバい。
これは相当ヤバい。

「なぁ、お前がどうしてもって買った鳩バルーンはどうすんの?」

「それはもちろん、ハートたちのど真ん中に2羽向き合って配置ですとも。」

「ふーん。――あ、チューさせちまお。」



ぎゃぁぁぁぁああ!!

愛の象徴がーーーっ!!

向き合うことを飛び越えて、キッ……キスしちゃうだと!?

けしからんな。
いや、けしからん。
何もかもがけしからん。



「風太はすっかりデコレーションに夢中ですね。」

小さくつぶやき、床に腰を下ろす。

細めた目線の先には、バルーンを少し動かしては半歩下がり、首を左右に傾げる風太がいる。

風太の髪が、バルーンと一緒に小さく揺れる。
ちっちゃな声で、うーん、もうちょいこうかな、って後頭部の向こうから聞こえてくる。


その姿が

――すごく愛しいです。


俺、この先ずーっと、24時間年中無休で眺めてられます。



「もう、すっかり夜ですね。」

ふと、口をついて出た。

ちょこちょこと動き回っていた風太の頭が、ピタリと止まる。

「……あのさ、煌人。」

「ん?」


パッと風太が振り向く。

「帰っちゃうのか?俺、一人ぼっちになっちゃうよ。」


「ーー!!」




チクタク……

チクタク……




「――ブハァァッ!!ゼェゼェ……しっ……死ぬかと思った。息すること忘れたじゃないですか!今日の風太は反則ばかりですね。」

「反則はお前じゃね?俺の事こんなんにしといてさ、まさか帰るっての?」


ほぼ、脅し!


「どうすんの?俺を残して帰んの?このまま居るの?」


退路を塞いで選択を迫るとは。

――恐ろしい子っ!!

可愛すぎて、鬱!!
あ、これはちょっと言ってみたかっただけです。

でも俺だってやられっぱなしではいられません。

「風太は俺にどうして欲しいのですか?」

風太の口元がきゅっと真一文字。
大きくまばたきをしながら、泳いだ目をチラッと俺に向けてくる。


あー、もう負けでいいです。
ちょろい?どうとでも。


「今夜、俺を泊めてくれますか?」

キラキラとした瞳が柔らかく笑う。

「しょーがねぇから泊めてやんよ。」

「そう?じゃ、お邪魔します。」

スマートに言いましたけど、心の中では、鼻から大量出血してます。
俺は今日、何回死にそうになったろうか。
今なお動く、強き心臓に、もう足を向けて寝られませんて。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


浮かれた部屋で一人佇む俺ですが、ニヤニヤが止まりません。

「風太が風呂ってる間に――。」

ゴソゴソとポケットを探る。
出した握りこぶしをそっと開き、つい口の端で笑ってしまう。


ガタッ……
テーブルの上に登り、天井に指を這わせていく。時折、手元のスマホを確認する。

「うーん?ちょっと違うか。」

こんな独り言は、仕方ない。


遠くで、シャワーが止まる音が聞こえる。
慌ててテーブルからおり、電気を消す。

足音が近づいてくる。

トクトクトク……
俺の鼓動がスキップしてる。


――ガチャッ。

「ぅわぁっ……!!」

風太の可愛い声が響く。

「すっげ!!すっげ!!なに!?すっげ!!マジすっげ!!」

「アハハハッ!!風太の語彙が死んでますよ!」

「だって!これっ!だってさぁ……!星空じゃんっ!!超可愛いっ!!」

「どやぁ!」


――ドンッ。
ポカポカと湿った柔らかい髪が俺の胸に飛びこんで来る。

すぐさま大きな瞳を俺に向ける。


「なんで!?なんでこうしたの!?」





子供みたいな風太の目。

飲み込まれそうで怖いのか、
それとも俺が飲み込む方なのか、
ドキドキが走り出す。

抑え込むように、すうっと息を吐く。

「これなら、明日の夜もその次も、ずっと残りますから。」


言い終わると同時に

風太の唇が俺に触れた。