「あれこれ考えんな。
したいことすりゃいいじゃん。」
その言葉を吐く風太の目は
俺を真っ直ぐに見つめている。
どういうつもりで言ってるんだ?
俺は、間違えたくないんです。
キミが好きだから。
大好きだから。
「――できませんよ。そんなこと。」
風太を見つめていた目を
二度三度、行き場もなく泳がせる。
もっと触れていたいけど
――我慢です。
スルッと手を離す。
「俺は出来るぞ。そんなこと。」
「え?」
グンッ!!
風太の手が
俺のブレザーを強く引っ張った。
「えっ!ちょっ……と!何を。」
ジタバタしたつもりだけど、
俺の後頭部が
まんまと風太に捕まった。
「風太って……!」
「ぅるせー……」
ふっ……
俺の唇に温かいものが触れ、た?
えっ?
えっ?
ええぇぇーー!?
これでもかというくらい、
俺の目はまん丸に開いてる。
そこには、
風太のうっすらと開いた目がある。
光を通して薄茶色になった瞳が
俺を揺らしている。
くるんとしたまつ毛の
隙間から見えるそれは、
耐え難いほど――綺麗だ。
あ……これは、
マシュマロなんかじゃないや。
柔らかくて温かくて
少し湿っていて
俺の形を確かめるみたいに
小さく動いている。
風太を引き剥がすことすら
俺はもう、どうでもよくなってる。
でも。
でもさ。
微かに甘噛みをし、
その反動に任せながら
風太をそっと引き離す。
「……酷いですよ。」
「酷くてもいいよ。」
「これは俺からしたかったのに。」
「どっちからとか、どうでもいいよ。」
「もっと大切に、したかった。」
「俺はめちゃくちゃ大切に、した。」
悔しいのに、
俺の心は止められない衝動が
ひしめき合っている。
大きくなる度に
それをぎゅうっと抑え込む。
ああ、俺はどうしたらいい?
風太が俺の後頭部をパッと離す。
座り直し、身なりを整えると
俺の肩を押しのけ立ち上がった。
「――風太?」
風太の背に呼びかける。
パンパンとブレザーのほこりを払い、
風太が俺を振り返る。
その顔はニカッと笑った風太だ。
少し安堵する。
「煌人、今日さ、暇?」
「あ、はい。今日はバイトはないです。」
「そうか。今からテーマパーク行くぞ。」
「はい?テーマパーク?
でもこの辺りって、うちくらいしか……」
「あるんだよ。ほら、行くぞ。」
なんですと?
「待って、風太。」
「荷物取ってくるから
先に玄関行っといて。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「あのぅ……
テーマパークはいずこ?」
風太と並んで歩く道は
普通の住宅街だ。
遠くを見たとしても
テーマパークなんてもんは
絶対に、ない。
「いいからいいから。
テーマパークまでもう少しだ。」
「はあ、そっすか。」
何を言ってるんだろう、この人。
さっきはさっきで
勝手に俺の唇を奪い、
あっけらかんとしてますし。
なんなの、この人っ。
俺はもうお婿さんに行けません。
「俺が貰ってやんよ。
つべこべ言うなよ。」
「えっ!
ダダ漏れてましたか!?」
「いや。
どうせ今ごろ
そんなこと考えてんだろうな、と。」
恐ろしい子っ!!
「ほい、着いた。テーマパーク。」
「へ?」
「穴場だぞ。」
風太の指がトントンと表札を叩く。
それを、目でなぞる。
「……光星。」
ん?
光星?
「こっ……ここは!!」
「うん、俺ん家。」
うっわ!!
これが風太ん家の表札っ!!
輝いてて眩しいっ!!
あ、ポスト!!
毎日、文をインしたい!!
そこに咲いてるちっちゃなお花さん。
やあ、はじめまして。
俺、風太の彼氏です。
おや、そこを歩くダンゴムシさん。
やあ、はじめまして。
俺、風太の……
「クスッ……
な?テーマパークだろ?」
「これはまさに、風太ランド♡
マグネット作っていいですかっ!?」
「それは要らんわ。
はい、どうぞ、入って。」
風太が鍵を開け、ドアを開く。
「えっと……」
「あーもう、入れ。」
戸惑う俺の背中を
風太は半ば強引に押し込んだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
未だかつて
こんなに緊張したことはあったろうか。
ゾンビ初デビューでも
身体の奥からくる
カタカタとした震えなんて
なかったのに。
部屋中が風太で
――気絶しそう。
「あの、おうちの方にご挨拶は?
菓子折りもなく、大丈夫でしょうか?」
「菓子折りって。お前は親か!」
「いや、でも。」
「今日は親居ねえし。気楽にしてよ。」
「二人きりぃ!?」
おっと……思わず大声を。
しかし、しかししかし、
だがしかし、
――英語ではbut。
それから、えっと……
「おい、煌人。
目玉飛んでったから拾ってこい。」
「えっ。あ、それは大変!
えっと、どこですか?」
床に少し這いつくばり
きょろきょろと見回す。
「ないですよ。
風太、どっちへ飛んでいきました?」
「クッ。ホントお前はバカだな。」
トン……ッ。
あったかい重さが
俺の背中に乗っかる。
そこから俺の中に
低いトーンが響いてくる。
「バカ。
目玉が転がってくわけないだろ。」
――あ。
捕まった……。
「あの……ごめんなさい。
今日なにかと刺激が強すぎます。」
今度は俺の心臓が
どっかに転がりそうだ。
痛いくらい
俺の中で暴れてる。
背中の風太がクスクスと笑う。
「すんげぇ、音。」
――プツン。
這いつくばってる身体を起こす。
ずり落ちた風太が、
床に尻もちを着いた。
「いってぇ……。
急に起き上がるな……」
言葉を待たずに
上から被さるように
風太を床へ押し付ける。
「えっ!?ちょっ……煌人っ……」
風太の目が
高速で瞬きを繰り返す。
目線を絡ませながら
ニヤッと笑ってみせる。
「形勢逆転、ってやつですね。」
「お前……なんか様子が……」
「これを待ってたんでしょう?」
風太の口が
きゅっと噛み締められる。
だけど、目だけは合ったまんま。
強く、熱く、
俺を見つめて離さない。
「うん。ずっと待ってたぞ。」
俺の前髪を
風太の指がなぞっていく。
髪に神経なんてないのに
ゾクゾクが止まらない。
「風太は待ってくれてたんですね。」
「ああ、そうだよ。
待ちくたびれちゃったぞ。」
前髪に触れていた指先が
俺の頬を伝っていく。
すうっ……
――ピタ。
その指が、俺の口元で止まった。
また動き出す。
今度は
俺の唇の縁をなぞる。
ふと、その指に目線を落とす。
そしてまた、二人、目線を絡める。
「何、してるんですか?」
「ふ……。
さっきのはノーカンでもいいぞ。」

「ノーカン?」
「うん。
正直、俺も煌人に奪われたい。」
頭の中でクラッカーが鳴ってる。
何だかもう、
ワチャワチャとしてるんだ。
俺の意思なんて関係なく
あちこちが勝手に動くんだよ。
ほら、俺の手が
風太の手首を握ってしまった。
ほら、今度は
その指先に唇を当ててしまった。
ほら、俺の唇が勝手に
風太の指先を味わってる。
俺の顔に、風太の熱い吐息がかかる。
声にならない吐息が――。
したいことすりゃいいじゃん。」
その言葉を吐く風太の目は
俺を真っ直ぐに見つめている。
どういうつもりで言ってるんだ?
俺は、間違えたくないんです。
キミが好きだから。
大好きだから。
「――できませんよ。そんなこと。」
風太を見つめていた目を
二度三度、行き場もなく泳がせる。
もっと触れていたいけど
――我慢です。
スルッと手を離す。
「俺は出来るぞ。そんなこと。」
「え?」
グンッ!!
風太の手が
俺のブレザーを強く引っ張った。
「えっ!ちょっ……と!何を。」
ジタバタしたつもりだけど、
俺の後頭部が
まんまと風太に捕まった。
「風太って……!」
「ぅるせー……」
ふっ……
俺の唇に温かいものが触れ、た?
えっ?
えっ?
ええぇぇーー!?
これでもかというくらい、
俺の目はまん丸に開いてる。
そこには、
風太のうっすらと開いた目がある。
光を通して薄茶色になった瞳が
俺を揺らしている。
くるんとしたまつ毛の
隙間から見えるそれは、
耐え難いほど――綺麗だ。
あ……これは、
マシュマロなんかじゃないや。
柔らかくて温かくて
少し湿っていて
俺の形を確かめるみたいに
小さく動いている。
風太を引き剥がすことすら
俺はもう、どうでもよくなってる。
でも。
でもさ。
微かに甘噛みをし、
その反動に任せながら
風太をそっと引き離す。
「……酷いですよ。」
「酷くてもいいよ。」
「これは俺からしたかったのに。」
「どっちからとか、どうでもいいよ。」
「もっと大切に、したかった。」
「俺はめちゃくちゃ大切に、した。」
悔しいのに、
俺の心は止められない衝動が
ひしめき合っている。
大きくなる度に
それをぎゅうっと抑え込む。
ああ、俺はどうしたらいい?
風太が俺の後頭部をパッと離す。
座り直し、身なりを整えると
俺の肩を押しのけ立ち上がった。
「――風太?」
風太の背に呼びかける。
パンパンとブレザーのほこりを払い、
風太が俺を振り返る。
その顔はニカッと笑った風太だ。
少し安堵する。
「煌人、今日さ、暇?」
「あ、はい。今日はバイトはないです。」
「そうか。今からテーマパーク行くぞ。」
「はい?テーマパーク?
でもこの辺りって、うちくらいしか……」
「あるんだよ。ほら、行くぞ。」
なんですと?
「待って、風太。」
「荷物取ってくるから
先に玄関行っといて。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「あのぅ……
テーマパークはいずこ?」
風太と並んで歩く道は
普通の住宅街だ。
遠くを見たとしても
テーマパークなんてもんは
絶対に、ない。
「いいからいいから。
テーマパークまでもう少しだ。」
「はあ、そっすか。」
何を言ってるんだろう、この人。
さっきはさっきで
勝手に俺の唇を奪い、
あっけらかんとしてますし。
なんなの、この人っ。
俺はもうお婿さんに行けません。
「俺が貰ってやんよ。
つべこべ言うなよ。」
「えっ!
ダダ漏れてましたか!?」
「いや。
どうせ今ごろ
そんなこと考えてんだろうな、と。」
恐ろしい子っ!!
「ほい、着いた。テーマパーク。」
「へ?」
「穴場だぞ。」
風太の指がトントンと表札を叩く。
それを、目でなぞる。
「……光星。」
ん?
光星?
「こっ……ここは!!」
「うん、俺ん家。」
うっわ!!
これが風太ん家の表札っ!!
輝いてて眩しいっ!!
あ、ポスト!!
毎日、文をインしたい!!
そこに咲いてるちっちゃなお花さん。
やあ、はじめまして。
俺、風太の彼氏です。
おや、そこを歩くダンゴムシさん。
やあ、はじめまして。
俺、風太の……
「クスッ……
な?テーマパークだろ?」
「これはまさに、風太ランド♡
マグネット作っていいですかっ!?」
「それは要らんわ。
はい、どうぞ、入って。」
風太が鍵を開け、ドアを開く。
「えっと……」
「あーもう、入れ。」
戸惑う俺の背中を
風太は半ば強引に押し込んだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
未だかつて
こんなに緊張したことはあったろうか。
ゾンビ初デビューでも
身体の奥からくる
カタカタとした震えなんて
なかったのに。
部屋中が風太で
――気絶しそう。
「あの、おうちの方にご挨拶は?
菓子折りもなく、大丈夫でしょうか?」
「菓子折りって。お前は親か!」
「いや、でも。」
「今日は親居ねえし。気楽にしてよ。」
「二人きりぃ!?」
おっと……思わず大声を。
しかし、しかししかし、
だがしかし、
――英語ではbut。
それから、えっと……
「おい、煌人。
目玉飛んでったから拾ってこい。」
「えっ。あ、それは大変!
えっと、どこですか?」
床に少し這いつくばり
きょろきょろと見回す。
「ないですよ。
風太、どっちへ飛んでいきました?」
「クッ。ホントお前はバカだな。」
トン……ッ。
あったかい重さが
俺の背中に乗っかる。
そこから俺の中に
低いトーンが響いてくる。
「バカ。
目玉が転がってくわけないだろ。」
――あ。
捕まった……。
「あの……ごめんなさい。
今日なにかと刺激が強すぎます。」
今度は俺の心臓が
どっかに転がりそうだ。
痛いくらい
俺の中で暴れてる。
背中の風太がクスクスと笑う。
「すんげぇ、音。」
――プツン。
這いつくばってる身体を起こす。
ずり落ちた風太が、
床に尻もちを着いた。
「いってぇ……。
急に起き上がるな……」
言葉を待たずに
上から被さるように
風太を床へ押し付ける。
「えっ!?ちょっ……煌人っ……」
風太の目が
高速で瞬きを繰り返す。
目線を絡ませながら
ニヤッと笑ってみせる。
「形勢逆転、ってやつですね。」
「お前……なんか様子が……」
「これを待ってたんでしょう?」
風太の口が
きゅっと噛み締められる。
だけど、目だけは合ったまんま。
強く、熱く、
俺を見つめて離さない。
「うん。ずっと待ってたぞ。」
俺の前髪を
風太の指がなぞっていく。
髪に神経なんてないのに
ゾクゾクが止まらない。
「風太は待ってくれてたんですね。」
「ああ、そうだよ。
待ちくたびれちゃったぞ。」
前髪に触れていた指先が
俺の頬を伝っていく。
すうっ……
――ピタ。
その指が、俺の口元で止まった。
また動き出す。
今度は
俺の唇の縁をなぞる。
ふと、その指に目線を落とす。
そしてまた、二人、目線を絡める。
「何、してるんですか?」
「ふ……。
さっきのはノーカンでもいいぞ。」

「ノーカン?」
「うん。
正直、俺も煌人に奪われたい。」
頭の中でクラッカーが鳴ってる。
何だかもう、
ワチャワチャとしてるんだ。
俺の意思なんて関係なく
あちこちが勝手に動くんだよ。
ほら、俺の手が
風太の手首を握ってしまった。
ほら、今度は
その指先に唇を当ててしまった。
ほら、俺の唇が勝手に
風太の指先を味わってる。
俺の顔に、風太の熱い吐息がかかる。
声にならない吐息が――。



