俺、声の出し方を忘れたかもしれません。
「……あの……風太。」
なんだ、このおかしな声は。
掠れてスッカスカじゃないか。
「なに?続き、言ってよ。」
ぐはっ!風太の声が甘い。
鼻血が目から出るかもしれない。
「……っ!!おっ、俺はっ……」
「うん?」
「受けますかっ!?それともっ……」
「――は?」
は?て。大事な確認ですよ、これは。
「だからっ……俺が受けるか、風太が受け……」
――ゴンッ!!
風太のゲンコツが俺の頭に垂直に落っこちる。
「あ、ごめん。なんか無性に殴りたくなった。」
「えーー……」
「お前さぁ……平気なの?」
「えっ、それは……まぁ……風太がそうしたいと言えば俺なりにそりゃ……照れますけども。」
「そうじゃなくてっ!……遥人が俺の事を……その……さ。あーもう!忘れて!こんなの忘れて!」
風太は俺から離れると、ごそごそと布団の中に潜ってしまった。
布団からほんの少し見えるふわふわのつむじ。
あー、そのつむじ好きかも。
俺の言葉を待ってるそのつむじが。
指先でツンッとやる。
「平気じゃないです。嫌で嫌でたまりません。風太を隠すか、あのクソ兄貴のエロい目をぶっ潰すか……」
風太が勢いよく布団から顔を出す。
「やめんか!ゾンビがそういうこと言うな!怖いわ!」
プッと吹き出す俺。
風太はまた目の下まで布団に潜り、くるっとした目だけで俺を見ている。
「煌人ごめん。俺すげーつまらんこと言ってるよな。……俺、もう泊まらなくてもいいな。お前が食われることないし、な。」
「そんなことありません。明日も明後日も、ずーっと風太の隣りで眠りたいですよ、俺は。」
「いい!家に帰るっ!」
風太は今度こそ、頭のてっぺんまで布団に潜ってしまった。
┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
こんなに幸せな朝があるなんて。
俺は一生分の幸せの前借りをしたかもしれません。
じっ……
グハッ!!はわわわ……風太の寝顔っ。
いますぐ保存したいです。でも俺、動けません。
だって俺の身体を風太が抱き枕にしていますーーっ!!
すぅ……すぅ……とそれはもう気持ちよさそうに。
「あっ……やべ。俺と俺が朝からハイテンションッ。」
「う……ん。」
俺の声に風太が少し反応する。
ガサッ……ドンッ。
「ぐわぁ!!」
風太の脚が、元気な俺の下半身に勢いよく乗っかった。
俺の断末魔のような叫びに風太の目がカッと開く。
目の前の俺と目が合うと、ふっと優しく和らいだ。
「あ、おはよ。煌人。」
「煌人?」
「――えっ!?煌人っ!どうした!お前なんで泡なんて吹いてんだ!?」
へぶぅ……ブクブクブクブク。
――コンッ……コンコン……
「開けるぞー。……開けるからな!」
ガチャ。
遠くで遥人と風太の声が聞こえる。
「うわっ……俺の弟、ついに逝ったか。」
「いや違うんだ。俺は何もしてない。起きたらこうなってたんだ。」
「何もしてない?そんなわけなかろう?事件みたいな顔してるぞコイツ。」
「ホントに何もしてないって!」
遥人、聞いてください。
事件はこの現場でありました。
ガクッ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「なあ、風太。」
「おーい、風太。」
「これ教えて、風太。」
「あーもう!風太風太うるっせぇな。」
学校に着いてからずっと、遥人は何かというと俺を呼ぶ。
今日は煌人とまともに話すらしてない。
いろいろ話したかったのに。
ジャレるってやつ?それを俺は強烈に欲してる。
しかし、俺の目の前には遥人。顔は同じようで全然違うし、なにより俺はコイツに興味などない。
「おいおい。あからさまにするなよ。」
「何が。」
「つまんねぇって顔だよ。俺様じゃ不服か?」
「別に。でも強いていえば、お呼びではない。」
俺と遥人に温度の違う火花が散る。
「まずさ、やたら触るのやめてくんね?」
「スキンシップだ。これくらい友達同士でもあるぞ。」
嘘つけ。
バリケードたちだって、後ろから俺の両肩に手を回して頬を寄せようなんてことしないぞ。
ぐっと手のひらで遥人を遠ざける。
聞こえるか聞こえないかの舌打ちが、俺の耳元に落ちる。
てかさ、担任もなんなんだよ。
『洞遥人は、光星くんの教え方が分かりやすいらしいんだ。頼んだぞ。』
頼んだぞじゃねぇよ。
お前がやれ。生徒に託すなあのオッサン。
「風太から俺と同じシャンプーの匂いする。たまんねー。」
「――離れろよ。学校じゃなかったら蹴っ飛ばしてるところだ。」
「おーこわ。しかしキミの彼氏さんはポンコツですか?こんな状況を放置なんてさ。」
「っ!それはお前がっ!」
煌人は今日は欠席している。
この野郎が朝イチで祖父母とやらにチクリやがった。煌人が俺を連れ込んでるって。
そのまま煌人は祖父母に呼び出されて、今に至る。
ホント、嫌な野郎だ。
いますぐボコボコにしてやりたいが、煌人に迷惑はかけられない。
それに。
無理に押しかけたのは俺だし。
無意識に大きなため息が出た。
「俺、ちょっと休憩。帰りまで戻らないから。」
「おや?逃げるのか?」
「うん。俺、お前が無理。キリいいし後は自分でやれ。」

ガタッ。
席を立ち、教室の外に出る。
「あ!おい!」
片付けが追いつかない遥人が声を上げてるが、そんなもん知るかよ。
「風太、待てって!おいバリケード!アイツ、どこに行くっていうんだ!?」
「ん~……図書室。かな。」
バリケードのとぼけた声が遠くで聞こえた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
別棟のずっと奥。
そこにその部屋はある。
――“オカルト部”
(※season1の1-1と3-1参照。)
古びたドアを見上げる。鍵穴をコンッとノックし、ドアの角を軽く蹴飛ばす。
カタッと小さな音がする。
「お。まだいけるじゃん。」
ドアに手をかけ、少し力を入れる。
ガタッ……ガラガラガラ……
中に入り、中央のソファに倒れるように身を任せる。
「ふぅっ……久しぶりに来たな。あ、そうか。煌人と出会って以来か。」
その頃――。
図書室の中をウロウロと歩き回る遥人の姿。
「なんだよ、居ねえじゃん。」
慌ただしく図書室を後にする。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あー、ほんっと参りました。
ジジババのうるさい事よ。
クソ遥人め、後で締め上げてやる。
「もう帰りのHRしかないですね。でもいいのです。制服で風太と歩くことに意義がありますもん!」
ブツブツ呟きながら教室に向かう。
――ドンッ!
「うわっ!すみません!」
ぶつかった相手に深々と頭を下げる。
ふふっ、俺ったら風太のことばかり考えて人様にぶつかってしまいました。照れるぅ♡
「……あ、ド変態。チッ!なんで来たんだよ。」
むむ……このムカつく声は。
顔を上げる。
「クソ……いや、遥人、何してんすか。」
「別に。」
「怪しいですね。風太はどうしました?どうせ付きまとっていたのでしょう?」
「あー、うるせ。居ねぇんだよ。」
「居ないとは?」
「――消えた。バリケードは図書室って言ってたけどどこにも居ねぇの。」
――あ!
遥人を押しのけるように、俺は走り出していた。
「おい!煌人!?」
遥人が俺を呼んでるけど、そんなの知ーらないっと。



