ある日、ゾンビを助けたら。2


なんてことだ。
風太が俺に覆い被さろうとしている。

「いや、覆い被さってない。」

「え?はい?」

「モノローグ語ってんじゃねーよ。俺の質問に答えろ。」

――なんてことだ。
結構なイケボで語ってしまった。
さすがの俺も、ちょっと照れますね。


俺の肩を押し付けている風太の腕にグッと力が入る。

だけど――風太。
俺はそんなに綺麗に話せないよ。



いいのか?



「シンプルな質問だぜ?答えやすいだろ?」

皮肉めいた口ぶりだけど、穏やかに揺らめく瞳が俺からの言葉を静かに待っている。

「……あの、俺は……風太が好きなんです。」

風太の眉がピクッと動く。

「それで、えっと、遥人は兄貴なので食うとか食われるとかは……ないですよ?」

いつもはくるんっとしてるそのまつ毛、今は俺に向かってツン……と長く伸びている。

「誰と寝たいか……風太に決まってるじゃないですか。」

「じゃぁなんで遥人の横に行きたがる?」


意識してるわけじゃない。
だが俺の眉がきゅっと寄ってしまう。

風太はさっきから何をいってるんだろう。

「すみません。なんでこうなってるのか俺には分からないのですが。」

押さえられている両肩に目線を投げる。
また、風太の目を見る。

風太の口が小さく舌打ちをする。




「――遥人が煌人にラブだから。」




――カッ!!
俺、強烈に開眼。

「ははは、はい!?ラブ!?そんなことないですよ!ビックリした超ビックリした!はわわわ……鳥肌が……」

「とぼけんな!分かってたくせに。」

風太の腕にグッと力が入る。
そのまま風太は、のしっと俺の腹の上に乗っかった。

「え、ちょっ……」

完全にマウント取られました。
ここがリング上なら、俺はこの後タコ殴りにされるのです。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


風太が俺にぐんと顔を寄せる。
もう少しで鼻先が触れてしまう距離だ。

「なぁ煌人。こんなことなってんのに、なんでお前何もしないんだよ。」

「何も、って……」

「何とでもできるだろ?俺に触れたくねぇの?」



――簡単に言ってくれるな。


そろっと風太の頬に指先を触れる。
すぐにその指を引っ込める。
行き場を無くした俺の指に、風太の指が絡む。

「グズグズしてたら俺からキスすんぞ?」

「えっ。それはダメ。」

「は?なんで?」

「ちゃんとしたいからです。」

「“ちゃんと”はいつ来るんだよ。」

「いつ?――それはいつでもっ!」

「じゃぁやれよ、今。」

「それはちょっと……」




「なぁ。いつまでそれやってんの?いい加減、焦れるんだけど。」



――!?

俺と風太の目がゆっくりと声の方を見る。

俺たちのすぐ横で、遥人があぐらをかいて座っている。

「ギャァァァァ!!」
「うわぁぁぁぁ!!」

「うわっ、耳いてぇ!!揃って叫ぶなよ!!」

遥人が耳を抑える。

「遥人、なんで起きてんですか!?寝たら朝まで起きないのに!!」

風太に制圧されたまんまで叫ぶ。

「いつの話だよ。横でこんなんやられて起きないわけないだろうが。」

「こんなん……とは?」



「写メ撮ってやろうか?」



俺と風太ふたりして、頭のてっぺんからつま先まで目線を滑らせる。

また、目が合う。

「――うわ!!」

俺たちが離れて座るまで、一秒もなかった。


遥人が額に手を当て、大きな大きなため息をつく。

「俺が好きなのは“風太”な。なんで俺がこんな気色悪い弟に恋しなきゃならんのだ。」

風太の顔がパッと明るくなる。

「なんだそっか。好きなのは俺か。」

「――うん。大好きだな。」

「そっか。サンキュ、な。……え?」

風太の目がいつもの倍以上になる。

「え?――て何?俺、最初からずっとそうだけど?煌人は知ってたよな?」

「はい、それはもう。腹の中で熱々のおでんが何杯も出来上がりましたよ。」

「だよな。毎晩、取っ組み合いしてたもんな。今日こそ勝負つけるって言ってたのに、何連れ込んでんだよ、お前。」

「いやぁ……それはその、ねぇ、風太♡」

風太の目は相変わらず見開いたままだ。
ゆっくりと、見開いた目に合わせるように、
口が大きく開いていく。

「え?風太?どうしました?」

「――なんなん!?俺ぜんっぜん分かんねえんだけど!!」



俺と遥人、キョトン。



一拍おいて、遥人が笑いながら風太を見る。

「だから言ったじゃん。お前には乗りこなせないって。コイツ、本当、社会性ポンコツだから。どうせ肝心なとこ話してないだろ。」

「肝心なとこ?」

風太の眉間が寄る。
その眉間を遥人の指が、二度三度撫でる。

「あっ、ちょっと!どさくさに紛れて風太に触らないでください!」

「うるさいな。お前、風太にちゃんと説明しろ。」

遥人はサッと立ち上がると部屋のドアへ向かった。ドアノブに手をかけ、少し振り返る。

「風太、ド変態が嫌になったらいつでも俺に乗り換えてもいいぞ。」


――カチャッ。


パタン。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


遥人は俺に惚れてるとか鳥肌モノの言葉残して出てったし、煌人は隣で固まってる。

小さくパクパクと動く俺の口。

「一体……何がどうなってんだ。」

何があるってわけでもないが、部屋をぐるっと見渡し、ストンと煌人に目線を落とす。

「なぁ、どゆこと?アイツ、裏山でお前にエロいことしてたじゃん。頭の中こんがらがってんだけど。」

口を真一文字にした煌人がそろっと俺を見る。

「あれは~……エロかったのは確かなんですが、“お前はちゃんと分かってんのか?”っていう兄貴からの制裁というか……」

「んん?」

「あーもう。言葉選ぶのはやめです。遥人は、俺が風太の気持ち考えずに、独りよがりでいることを俺に体感させたわけですよ。」

「自分よがり?」

「ええ。俺、風太と居ると欲情が止まらないんで。――欲情が。」

「欲情。」

「風太の可愛い口からその言葉が出ると興奮するので言わないでもらえます?」

煌人の目線が伏せながら俺から逃げる。

あ、こっち向かせたい。
俺を見てて欲しい。


「――じゃあ、なんであの時、お前の手は震えてたんだ?」

真っ黒な瞳が迷いながらも俺を捕える。

「あれは……俺は、俺のことが怖かったんです。自分の手は、今までどれだけ風太を困らせたんだろうか、と。」


なんだよ。
全然、ポンコツじゃないぞ、お前。


「煌人、俺は……っ。
俺はさ、どんな風太も風太だってまっすぐに俺を見てくれたお前がめちゃくちゃ好きなんだ。
どうしようもないくらい好きで、触れたくて。その体温も全部俺のもんだし、香りすら誰にも渡したくない。
俺の欲情は――お前に負けないよ。」







煌人に伝わるだろうか。

この俺の精一杯のストレート。

重くて
潰れそうなほどに

お前に刺さればいいのに――。