ある日、ゾンビを助けたら。2


“俺も――

 実は、風太が初恋です”


白い息と一緒に
俺の口からブワッと出た言葉。

自分の言葉なんだけど
妙に愛着あります。

照れますね♡


風太と目が合ったまま、
その言葉を噛み締める。


風太が目を細める。

「ふ……知ってるよ。」



「――へ?」



なぁぁあんだとぉぉおお!!



いや、そんなはずはないんだ。
だって俺、言ってないもん。
初めて言ったんだもん。

「うっそだぁ!!」


「嘘じゃねーし。知ってたし。」


「ええー……」

大きく首を振り、前を向く。



はぁーーーー……



深い深いため息をこぼし、
また、歩き出す。


――ポカッ!

俺のツムジが小突かれた。



「痛いでーす。
 やめてくださーい。」


「勝手に拗ねるなよ。
 最後まで聞けよな。
 お前、そういうとこなー。」


「へーへー、どうぞ。
 なんでも聞きますよ。」


「うーわ。やな感じ。」

俺の腰を
風太の脚がゲシゲシと叩く。


「俺は馬ではないんですよ?

 せめて、“ハイヤー!”とか
 言って貰えます?

 そしたら走ってあげても……」





――ブチッ!

ツムジが引っこ抜かれる。



「痛ぇっ!!

 ななな、何すんですか!?」



風太を振り返る。


大きな丸い目が
黙って俺を見つめている。




「……なん、ですか?」




「さっきの言葉。

 ――超~、嬉しかった。

 煌人の“初恋”知ってたのはさ、
 想像できなかったからだよ。」


「想像?」


「うん。
 お前が、俺にするみたいに
 誰かを大切にする姿。

 俺以外には居ねえなー、なんて。

 ……自惚れが過ぎるか?」



ズキューーーーン♡



俺の心の臓が
見事に撃ち抜かれてしまいました。

いや、ずっと
撃ち抜かれっぱなしなんです。



風太が身を乗り出す。

「お前、分かってる?
 俺さ、かなりグイグイ
 落としにかかってんだけど?」


「俺をですか!?
 もうずっと前から落ちてるのに!?」


「ふん、這い上がれないくらいに
 落としたいんだよ、俺は。」



ズドーーーーーンッ♡



「ふふふ、風太、
 何て、恐ろしい子っ!!
 
 スパダリ設定とは聞いてませんが!!」



「は?それ、なんの設定だよ。

 まあ、いいや。

 俺、お前のこと離す気ないから。



 怖気付いたら、



 ――天に召す。」



――ゾワッ……!!


「ゴクッ……。
 風太は、まるで……」


「チーターみたい?」


「え?

 いや……ウツボ?」



「はぁ!?
 なんでウツボなんだよ!?
 取り消せ!今すぐ取り消せ!」





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「おー、
 2人揃って最下位じゃん。」

体育館前では
にやけたバリケードが待ち構えていた。


「うん。たまには、ね。」

ぴょん!

風太が俺の背中から
飛び降りる。



「おっかえりぃ!」

風太に駆け寄り
脇腹を突っつく富士川。


「うわ!やめろやめろぉ!」

ぴょんぴょんと逃げ回る風太。


茄子と鷹野が
腹を抱えて笑っている。


俺もつられて笑う。




はい。
ちょっと待ってください。




「風太、脚は?」



風太が悪い顔で舌を出す。



うわ。やられた!!






――ぐぬぬ。

その顔は場外乱闘です♡





おっと。
そうそう、忘れてました。


「遥人はどうしました?」

あの人、
ほんっと持久走ダメなんですもん。



「え?見てないよ。」

「お前、遥人見た?」

「途中までは。
 その後は分からないな。」



――え?


「俺、ちょっと見てきます!」


「え?煌人!?」
「待てよ!洞!!」


「すぐ戻ります!!」



「俺も!俺も行く!」

「風太は休んでて!!」

風太の声を背中に、
俺はダッシュで裏山へと入っていった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



――居た!!


しゃがみこみ、
途方に暮れる遥人の姿が見える。


加速して駆け寄る。

「遥人!!」


遥人が、
バッと顔を上げる。

「――え。煌人?」


「まったく!まったくまったく!
 無理しちゃダメでしょう!!」


拍子抜けしてるような
遥人の顔に、俺も少し驚く。


「な、なんですか?
 いつもの調子で
 言い返さないんですか?」



「いや、驚いた……から。

 サボってるって、
 思わなかったのか?」



「何言ってんすか。
 遥人も俺と同じでしょう?
 今までを変えたくて
 ここに来たんでしょう?

 今の遥人は、サボるわけないです。

 ほら、手!!」


遥人の目の前に、
右手を差し出す。


「あぁ……サンキュ。」

そっと俺の指先を握る。


「うん。ほら、立って。」


「……。」


「遥人?」


――グンッ!!

不意打ちで引っぱられる。


「ぅわっ!!」

ドサッ。


なんてことだ。
遥人に抱きかかえられてしまった。


――悪夢だ。


一刻も早く離れたい。



「もう!何してくれてんすか!!
 こんな状況で絡むの禁止!!」

遥人の胸についた手に
力を入れる。


「煌人、待って。」

グイッ。

立ち上がろうとする俺を
遥人がまた引っ張った。


「なに?
 もしかして立てませんか?」


「……いや。」



「遥人、なんか変ですよ?

 ――うわっ!!」







えーーー!?
何がどうなった!?

俺、遥人に……


抱きしめられてるーーーーー!!


「ヒィ……なんのつもり?」




「お前は、俺のだ。」




「……は?」


俺の目だけが
忙しく周囲を見渡す。

裏山の雪景色って綺麗だなぁ。


いや、今そんなこと
思ってる場合ではないのだ。


コイツ、頭おかしくなってる。

まさか、酸欠か?
そうだ。遥人は酸欠だ。

――持久走を頑張ったから!!


「いやいやいやいや。
 ないないないない。

 しっかりしろ!遥人!!」

遥人の胸を力いっぱい押す。


同時に、遥人の腕が
俺の背中を引き寄せる。



ポスンッ。



うわーーーーー!!
さっきより
しっかり収まってしまった!!

目玉飛び出るぅぅ……



俺の頬に
遥人の声が響いてくる。

「しっかりしてるさ。」



「してないしてない。
 ド変態を抱きしめてますよ?
 遥人の嘔吐案件ですよ!!」


「あー、それは、
 ときめき過ぎてオエッてやつな。」


つつっ……

遥人の指が
俺の背中を滑っていく。


「うわっ!!
 ちょっ、やらしく触んな!!

 今、俺、
 奥歯ガタガタいってます。

 マジ、離して……っ!!」


精一杯、身体を捻り抵抗する。
拳で遥人の胸を叩く。


「離すわけねーじゃん。」


「――世紀末が来た……。」


「ひどいなぁ。喜べよ。」


あわわわわわ……
どうしよう、どうしよう。
どうしたらいい?

頭の中で
唐揚げが山ほど揚がってます!!



「もう観念しろよ。」

遥人の指先が
俺の脇腹へと回り込む。



「ちょっ……と!
 マジで、いい加減に……」

ああ……情けない。
俺の脚が
カタカタと震えて止まらない。


助けて。

助けて。


風太――。




――グンッ!!


突然、
物凄い力で後ろに引っ張られ
俺は、そのまま尻もちをついた。



「――へ?」



――ダンッ!!

俺の視界を遮るように
力強く踏み込む脚。



まばたきする間もない。


目線を上へと滑らせる。



――金色の髪が揺れる。











全てが
スローモーションのようだ。



「はぁっ……はぁっ……」



「……ふう、た?」



その背中は
めちゃくちゃに怒っている。

「遥人!!なにやってんだ!!」


驚くような、腹からの声。

金色の髪が大きく揺れる。



「煌人!!このバカ!!
 だから俺も行くって言ったんだ!!」



「タイムリミットか。」

遥人が小さく息を吐く。

さっと立ち上がり、
パンパンとジャージを払う。


「あーあ、邪魔入っちゃった。
 つまんねーの。

 続きはまた今度な、
 隙だらけの弟くん。


 ――あ。

 ちなみに、俺、
 持久走ぜんっぜん平気。」


「えっ……。」


「プッ……可愛いアホ面。」

俺たちを残して
遥人は普通に裏山をおりていった。


風太が、
遥人の後ろ姿を睨みつけている。




ちょっと待って……

やだ……

これ、絶対……



――怖い!!



俺、何も悪くないけど、


多分、


――怖い!!