“俺も――。実は、風太が初恋です”
白い息と一緒に、俺の口からブワッと出た言葉。
自分の言葉なんだけど妙に愛着あります。
照れますね♡
風太と目が合ったまま、その言葉を噛み締める。
風太が目を細める。
「ふ……知ってるよ。」
「――へ?」
なぁぁあんだとぉぉおお!!
いや、そんなはずはないんだ。
だって俺、言ってないもん。
初めて言ったんだもん。
「うっそだぁ!!」
「嘘じゃねーし。知ってたし。」
「ええー……」
大きく首を振り、前を向く。
はぁーーーー……
深い深いため息をこぼしながら歩き出す。
――ポカッ!
俺のツムジが小突かれた。
「痛いでーす。やめてくださーい。」
「勝手に拗ねるなよ。最後まで聞けよな。お前、そういうとこなー。」
「へーへー、どうぞ。なんでも聞きますよ。」
「うーわ。やな感じ。」
背中に乗ってる風太の脚が、俺の腰をゲシゲシと叩く。
「俺は馬ではないんですよ?せめて、“ハイヤー!”とか言って貰えます?そしたら走ってあげても……」
ブチィッ!
結構な勢いでツムジが引っこ抜かれた。
「痛ぇっ!!ななな、何すんですか!?」
肩越しに風太を振り返る。
大きな丸い目が、黙って俺を見つめている。
「……なん、ですか?」
「さっきの言葉、超~嬉しかった。煌人の“初恋”知ってたのはさ、想像できなかったからだよ。」
「想像?」
「うん。お前が俺にするみたいに、誰かを大切にする姿。俺以外には居ねえなー、なんて。……自惚れが過ぎるか?」
ズキューーーーン♡
許す!そして許す!
俺の心の臓が見事に撃ち抜かれてしまいました。
いや、ずっと、撃ち抜かれっぱなしなんです。
風太が身を乗り出す。
「ねぇ分かってる?俺さ、かなりグイグイ落としにかかってんだけど?」
「俺をですか!?もうずっと前から落ちてるのに!?」
「ふん、這い上がれないくらいに落としたいんだよ、俺は。」
ズドーーーーーンッ♡
許す!全肯定しちゃうっ!
「ふふふ、風太、何て恐ろしい子っ!!隠れスパダリですか!!そんな設定聞いてませんが!!」
「は?それ、なんの設定だよ。まあいいや。俺、お前のこと離す気ないから。怖気付いたら――天に召す。」
――ゾワッ……!!
「ゴクッ……。風太はまるで……」
「チーターみたい?」
「え?いや……ウツボ?食ったら離さないみたいな……」
「はぁ!?なんでウツボなんだよ!?取り消せ!今すぐ取り消せ!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「おー、2人揃って最下位じゃん。」
体育館前ではにやけたバリケードが待ち構えていた。
「うん。たまには、ね。」
ぴょん!
風太が俺の背中から飛び降りる。
「おっかえりぃ!」
風太に駆け寄り脇腹を突っつく富士川。
「うわ!やめろやめろぉ!」
ぴょんぴょんと逃げ回る風太。
茄子と鷹野が腹を抱えて笑っている。
俺もつられて笑う。
はい。
ちょっと待ってください。
「風太、脚は?」
風太が悪い顔で舌を出す。
うわ。やられた!!
――ぐぬぬ。
その顔は場外乱闘です♡
おっと。そうそう、忘れてました。
「遥人はどうしました?」
あの人、ほんっと持久走ダメなんですもん。
「え?見てないよ。」
「お前、遥人見た?」
「途中までは。その後は分からないな。」
――え?
「俺、ちょっと見てきます!」
「え?煌人!?」
「待てよ!洞!!」
「すぐ戻ります!!」
「俺も!俺も行く!」
「風太は休んでて!!」
風太の声を背中に、俺はダッシュで裏山へと入っていった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
――居た!!
木の根元にしゃがみこみ、途方に暮れる遥人の姿が見える。加速して駆け寄る。
「遥人!!」
遥人が、バッと顔を上げる。
「――え。煌人?」
「まったく!まったくまったく!無理しちゃダメでしょう!!」
拍子抜けしてるような遥人の顔に、俺も少し驚く。
「な、なんですか?いつもの調子で言い返さないんですか?」
「いや、驚いた……から。サボってるって思わなかったのか?」
「何言ってんすか。遥人も俺と同じでしょう?今までを変えたくてここに来たんでしょう?今の遥人は、サボるわけないです。ほら、手!!」
遥人の目の前に右手を差し出す。
「あぁ……サンキュ。」
「うん。ほら、立って。」
「……。」
「遥人?」
――グンッ!!
不意打ちで引っぱられる。
「ぅわっ!!」
ドサッ。
なんてことだ。遥人に抱きかかえられてしまった。
悪夢だ。一刻も早く離れたい。
「もう!何してくれてんすか!!こんな状況で絡むの禁止!!」
遥人の胸についた手に力を入れる。
「煌人、待って。」
立ち上がろうとする俺を、遥人がまた引っ張る。
「なに?もしかして立てませんか?」
「……いや。」
「遥人、なんか変ですよ?――うわっ!!」
えーーー!?何がどうなった!?
俺、遥人に……
抱きしめられてるーーーーー!!
「ヒィ……なんのつもり?」
「お前は俺のだ。」
「……は?」
俺の目だけが忙しく周囲を見渡す。
裏山の雪景色って綺麗だなぁ。
いや、今そんなこと思ってる場合ではないのだ。
コイツ、頭おかしくなってる。
まさか、酸欠か?そうだ。遥人は酸欠だ。
――持久走を頑張ったから!!
「いやいやいやいや。ないないないない。しっかりしろ遥人!!深呼吸しろ!」
遥人の胸を力いっぱい押す。
同時に遥人の腕が俺の背中を引き寄せる。
ポスンッ。
うわーーーーー!!
さっきよりしっかりと収まってしまった!!
目玉飛び出るぅぅ……
俺の頬に遥人の声が響いてくる。
「しっかりしてるさ。」
「してないしてない。ド変態を抱きしめてますよ?遥人の嘔吐案件ですよ!!」
「あーそれは、ときめき過ぎてオエッてやつな。」
つつっ……
遥人の指が俺の背中を滑っていく。
「うわっ……ちょっ、やらしく触んな!今、俺の奥歯がガタガタいってます。マジ離して……っ!!」
精一杯、身体を捻り抵抗する。
拳で遥人の胸を叩く。
「離すわけねーじゃん。」
「――世紀末が来た……。」
「ひどいなぁ。喜べよ。」
あわわわわわ……
どうしよう、どうしよう。
どうしたらいい?
頭の中で唐揚げが山ほど揚がってます!!
「もう観念しろよ。」
遥人の指先が俺の脇腹へと回り込む。
「ちょっ……と!マジでいい加減に……」
ああ……情けない。
俺の脚がカタカタと震えて止まらない。
助けて。
助けて。
風太――。
――グンッ!!
突然、物凄い力で後ろに引っ張られ、俺はそのまま尻もちをついた。
「――へ?」
――ダンッ!!
俺の視界を遮るように力強く踏み込む脚。
まばたきする間もない。
目線を上へと滑らせる。
――金色の髪が揺れる。

全てがスローモーションのようだ。
「はぁっ……はぁっ……」
「……ふう、た?」
その背中はめちゃくちゃに怒っている。
「遥人!!なにやってんだ!!」
驚くような、風太の腹からの声。
金色の髪が大きく揺れる。
「煌人!!このバカ!!だから俺も行くって言ったんだ!!」
「タイムリミットか。」
遥人が小さく息を吐く。
さっと立ち上がり、パンパンとジャージを払う。
「あーあ、邪魔入っちゃった。つまんねーの。続きはまた今度な、隙だらけの弟くん。――あ。ちなみに俺、持久走ぜんっぜん平気。」
「えっ……。」
「プッ……可愛いアホ面。」
俺たちを残して遥人は普通に裏山をおりていった。
風太が遥人の後ろ姿を睨みつけている。
ちょっと待って……
やだ……これ、絶対……
――怖い!!
俺、何も悪くないけど。
多分、この後超ー怖い!!



