ある日、ゾンビを助けたら。2

人生初の風邪に勝ちました。

無敵の俺は伝えるんだ。
風太に。今日こそは――。


「今日こそはっ!!シャキッと!シャキッとしなさい!」
鏡の中の俺に人差し指を突き立てる。

というのも、あれから一週間が経とうとしている。
なんだかんだチャンスはあれど、大切なことを伝えるというのは、タイミングが……難しい。

風太、キミって人はすごい。
あんなにサラッと“俺、お前が初恋だわ”って。“ド変態のお前が大好きだ”って。
どうやって口から出したんですか?

俺の口は風太を前にすると、なぜか貝のように固く閉じてしまって。
出すものと言えば“砂”……しかない。
くっ……


┈┈┈
┈┈┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「なんだよ煌人、朝から仏頂面してさ。」

「べっつに。」

なんで仏頂面って……
そりゃアレっすよ。
砂しか吐けない俺なんて、いっそ酒蒸しにでもしてくれっていう。


風太の肩の向こうから、ひょっこりと遥人が顔を出す。

「アホ弟、同じ顔で変な顔すんなよ。迷惑だ。」

「遥人!?なんで俺と風太のモーニングラブロードにお前が居るんだ!」

「なんでって。お前と同じ家から学校までこの道しかねーじゃん。勝手に気持ち悪い名前つけんじゃねえよ、ド変態弟め。」

「朝から俺挟んで喧嘩すんなよ。なんか濃いわ!」

呆れ顔の風太を挟んで、三人並んで歩く。
キュッキュッと、足元の雪は今日も軽快な音を立てる。

教科書を開きながら風太と話している遥人を、横目でじとっ……と見る。

“邪魔だなぁ……コイツ”

そっぽを向いて小さく舌打ちをする。

「コラ煌人。舌打ちするな。仕方ないだろ。遥人は前の学校と進みが違うんだから。」

「いや、遥人はですね……」

チラッ。
風太の向こう側から、遥人が舌を出して笑っている。
目つきがとても意地悪だ。

くそぅ……
進みが違うとか、そんなの遥人には痛くも痒くもないのに。

“ねぇ風太、聞いてください!遥人は海外で飛び級だったんで実はもう高校生やんなくてもいいんですよ!だから放置で結構!”

今それ言ったら、俺の負けだ。

「……なんでもないです。」

ふん!
思い切りそっぽを向い歩く。




「――……で、これは、はつこい……」


――ゴンッ!!
電信柱に頭から突っ込む。

「何やってんだ?アホ弟。」

「大丈夫か?煌人」

「今……っ、今……っ、なんと?」

「ん?あぁ、祖母が孫の初子にお菓子を出して“初子いかが?”と言ったところの話だよ。なに?煌人もここ分かんねぇの?」

「初子。」

「うん。初子。」

不思議そうに俺を見つめる風太の向こうから、遥人が口パクで何か言ってる。

ん?なんだよ?

“は・つ・こ・いかが?”ニヤリ。


カチーン!!
俺の鼻から蒸気ブシャーーーッ!!


「煌人、話聞いてる?」
「もちろんです!」
「なんか顔、変じゃね?」
「変じゃないです。鼻からも何も出てないです。」

精一杯の笑顔で答える。


┈┈┈
┈┈┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


――教室。

「あーだりぃな。なんで裏山持久走なんだよ。」
「冬といえば持久走だ、って。裏山が持久走用に舗装されてるのがムカつく。」
「変なとこに金使いやがって。忌まわしい風習、誰が始めたんだか。」

バリケードたちが着替えながら、口々に文句を垂れる。
そんな中、風太だけが上機嫌だ。

「持久走、待ってました!」

「光星は体育ポンコツなのに持久走はチートなんだよな。」
「そそ。見事なポンコツ。なのにモテるの意味わからん。」
「まあまあ、そう言わずに。光星にはこれしかないんだから。」

「うるっさいなぁ。たまには俺だって体育楽しんでもいいじゃん。」


ふふ。ホントに嬉しそうだ。

風太が俺にピシッと指を指す。
「煌人。俺、先に行くからな。」

「あぁ、はいはい。え?そんなにチートなのですか?」

バリケードに目線を投げる。

「ついて行こうなんて思うなよ?」
「酸欠で死ぬぞ?」
「裏山なんて誰も助けてくれないからな。」

ほう。
そんなにか。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「よーい……スタート!!」

一斉に走り出す足音。
生徒の数だけリズムが違う。
その音が重なり合う。


タタンッ――……


軽やかな音を立てながら先頭に飛び出したのは。

「おお、風太。」

目を見張る。

金色の髪がふわっと揺れ、ブレることなく足を踏み締めている。

――眩しいなぁ♡
捕まえにいっちゃおっかな。
酸欠になるくらい、なんのその。


「へぇ。なんか見違えるな。」

む……遥人。

「前、見ないでください。」
「いや、前見なきゃ走れないじゃん。無茶言うなよ。」
「目を閉じてみてはどうですか。」
「好戦的でダサいな、アホ弟。」
「どうとでも。これからダサくなるのは遥人でしょ。」
「う……言い返せねぇ。頃合い見て抜けるさ。」

遥人はスポーツも勉強も、なんなら料理だって、器用にこなす。
唯一ダメなのが持久走だ。

「プッ……性格にも出てますね。コツコツと地道にペースを守ることができない。」

「煌人、お前。」

「そして――飽きっぽい。」

くたばれサインを見せ、俺は遥人を置いてスピードを上げた。


みんなを次々に追い越し、集団を抜ける。

「あらま。風太見えませんね。」

更に加速する。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


――ん?あれは……。


「え、風太?」

「おー来た来た。煌人~。」

風太が木にもたれながら、俺に向かってヒラヒラと手を振っている。

「はぁっはぁっ……ゴクッ……はぁ……っ……どうしたんですか?」

「へへ、雪で滑って脚がつった。」

庇うように脚を少しあげ、眉を下げて笑っている顔は寒そうだ。

「なんで少しでも引き返さないんですか!身体が冷えるでしょう!」

風太の目が驚いたように丸くなる。

「……あ、うん。だって……」

「だって、なんです?」

「俺のすぐ後は絶対煌人が来ると思ったから。じゃあ、待ってようかなって。」

「――ズキュン♡よし、許す。」

風太の足元に、背中を向けてしゃがみこむ。

「ほら、乗ってください。これ待ちだったんでしょう?」

「あ、バレた?悪ぃな。そこの脇に、下に降りる小道あるんだ。」

「じゃぁ、そっちから下りましょう。」

「さんきゅ。」

戸惑うこともなく、風太は俺の背中に乗っかった。それがとんでもなく嬉しすぎる。

あと……

「気のせいですかね。なんだか首元抱きしめてません?」

「うん。抱きしめてるよ。こんなの抱きしめるしかないでしょ。」


――むぐっ。
俺の心臓が跳ねてしまうではないか。


「風太は凄いですね。」

「ん?なにが?」

「さらりと真っ直ぐに伝えてくれるところが。こないだから、俺の心臓が持ちませんよ。」


ボソッ……
「さらりじゃないよ。」

「え?なんか言いました?」

「さらりじゃないって言ったんだ。」

「でも……」

「俺、言ったよな。お前が俺の初恋だって。前みたいに意地張って大切な瞬間を逃したくないんだ。」

「大切な瞬間?」

「俺の気持ちが溢れる瞬間。全部、お前にぶつけたい。――大好きだから。」

「風太……。」

「もう、夏みたいなの嫌だから。やらずに後悔するなら、間違いなくやっちまった方が全然いい。」


俺の足が止まる。


「お?なんだよ、どうした?ほら行くぞ。煌人レッツゴー。」

風太が足をブラブラさせる。

「風太、俺……」

後ろの風太を振り返る。
すぐ近くに風太の瞳がある。

ピントを合わせるのが大変だ。





その瞳を捕らえる。


「俺も――実は、風太が初恋です。」


うそっ……
さらっと俺の口から出やがった!

ビックリ。