いつか、君を忘れても。~私の旦那さまは、私の知らない“幼馴染”?~

 この街で最も大きな屋敷。
 ――『藤堂屋敷』。
 昔、藤堂(とうどう)家の人が住んでいたそう。
 今は、私たち美波(みなみ)家の別荘だ。
 本邸は、都にある。
夏葉(なつは)。……お父さんが、話、あるんだって」
「そうなの?うん、分かった」
 家族の仲は良好。
 お姉さまは、今、中級貴族の方と結婚している。
 中級貴族というのは、地方の一国を治めている貴族のことだ。
 相手は、ここ、藤堂屋敷がある場所を治めている高階(たかしな)家の次男・(とおる)さん。
 優しくて、朗らかな人。
 お姉さまとは、幼い頃からの友人。
 私も、幼い頃、よく一緒に遊んでいた“らしい”。
 ……私は、覚えていないから。
 幼い頃、ある事故に遭った私は、頭を強くぶつけて、記憶を失ってしまった。
 お父さまも、お母さまも、これからまた思い出をつくっていけば良い、と言ってくれた。
 お姉さまも、いっぱい楽しいことしようね、と言ってくれた。
 お兄さまも、記憶がなくなっても、家族だと言ってくれた。
 ……でも、私には、まだ脳に障害がある。
 そのせいで、たまに記憶がなくなってしまうことがあった。
 全ての記憶がなくなるわけではない。
 でも、お出かけした記憶とか、友達とお揃いで買った髪飾りとか。
 そういうものを忘れてしまった。
 いろんな人に、申し訳ないと思った。
 ……私だって、愛する人と結婚したい。
 でも、そのせいで、大切な人を傷つけてしまうなら――。