∞8《インフィニティ・エイト》

「…………そういえばリクは、いつの間にかソラのこと兄貴って呼ぶようになっていたね」

「いちいちどっちがお兄ちゃん? って聞かれんの面倒くさいから」

「そっか」

 子どもの頃のリクは、兄貴でなくソラって呼んでいたのに。

 何も言わなくても見分けてもらえることを期待して、諦めて、その結果が今なんだ。


「夏美はいつだって、俺たちを見分けられた。「リクはリク、ソラはソラでしょ?」って。たった一言、呼ぶだけで俺をリクだと見分けてくれる。俺が兄貴のふりして兄貴の席に座ってたって、すぐに気づいて叱るんだ」

 私も覚えている。
 リクはたまにソラの席に座って、ソラのふりをしていた。

「だめだよ、リク。こんないたずらして、先生に怒られても知らないよ? それにソラだってもうすぐ戻ってくるでしょ。席を取っちゃだめ……そう言うだろ。夏美だけは」

「うん」

「嬉しかった。俺が何も言わなくても、俺と兄貴が別だってわかってくれることが。だから、夏美の一番になりたかった」

 ああ、そっか。

 リクは見分けて欲しかったんだ、みんなに。

 私はソラとリクとずっと一緒にいたから、一声だけでもすぐわかる。

「夏美だけなんだ。俺が兄貴みたいな優秀なやつじゃなくても、がっかりしないのは」

「……うん。リクはリクだもん。野菜が嫌いで、人の好き嫌いも激しくて、でも、足がすごく早くて、明るくて。同じのは顔だけで、ソラとは別の人間だもの」

「俺は、……夏美のそういうところにずっと救われんだ」
 
 リクは泣きそうな顔で笑う。

 胸の内を伝えあい、私とリクはただの幼なじみでい続ける道を選んだ。

 そして翌朝。

 また、八月八日がめぐってきた。