∞8《インフィニティ・エイト》

 私が最初のループの記憶を引き継がなかったように、ソラだけずっとループの記憶を維持するなんてこともないんだ。

 ソラはループの記憶がリセットされたから、私に告白したこと、何も覚えていない。

 私だけが、あの告白とキスのことを覚えているなんて。

 指先で、自分の唇にそっと触れた。

 昨日、ソラが触れた場所。

 忘れないで、と願うようにくり返していたソラの気持ちが、やっとわかった。

 自分だけがループの中にいるのって、忘れられてしまうことって、こんなに、寂しくて苦しいんだ。

 私はその場に座り込んでしまう。

 泣きたくて、息をするのも辛い。

「夏美。リクのところに行かなくていいの?」

 忘れられるのは、こんなに苦しい。

 悲しい。

 私、リクにも、ソラにも、ちゃんと答えられていないのに。

 本人たちは口にした記憶そのものがリセットされているなんて。

 私は泣きながら、ソラの手を取る。

 ソラはなぜ私が泣くのか理解できていない顔をする。

 困ったように眦を下げて、私を見ている。

 もどかしい。

「忘れないで、ソラ。お願い」

「忘れるって、何を?」

 ここにいるのは、嫉妬心むき出して感情を叩きつけてきたソラではない。

 ソラであることには変わりない。

 同じソラなのに、同じループを越えようと話し合ったソラじゃない。

 ぐしゃぐしゃに絡まりあった頭の中のもやもやが、だんだんと形になる。

 私は走り出した。リクを追いかけて。