∞8《インフィニティ・エイト》

 私の手首を握っていたソラの手に、力がこもる。

「もう少し警戒しなよ。僕が何もしない、無害な男だと思っているの? 僕はみんなが言うような優しい人間じゃない。善人なんかじゃない。夏美を閉じ込めて、僕だけのものにしたい。泣かせたい。僕以外の男に触れさせたくない。今日だって、リクがいなかったらそうしていた。夏美がリクや他の男の手をとったとしても、奪い取りたい。でも、そんなことしたら夏美に嫌われてしまう」

 ダムが決壊するように、ソラの激情が溢れだす。

 穏やかで優しくて、リクと私が喧嘩したら即座に仲裁に入るような、"みんなのお兄ちゃん"のソラは、ここにはいなかった。

「ソ、ソラらしくないよ」

 これだけの言葉の波を叩きつけられても、私はソラの手を振りほどけなかった。

「僕らしいって、なに? どうするのが僕らしいってことなの? 僕はこんなに醜い気持ちで、今こうして夏美に触れている。僕らしい僕なら、どうするのが正解なの?」

「ソラ……」

 ソラは自分の気持ちを醜いと言うけれど、私にはそう思えなかった。

 大きな木に背中を押し付けられて、ソラを見上げる。

 私を見るソラの瞳は、涙で濡れていた。

「嫌なら突き飛ばせばいい。嫌いだって言えばいい」

「そんなこと、できないよ」

 拘束されているわけじゃないから、逃げようと思えばソラを突き放して逃げられる。

 なのに、逃げるという選択肢は出てこなかった。

 怖いのに、視線をそらせない。

 今のソラから逃げちゃいけないような気がする。