∞8《インフィニティ・エイト》

 貸してくれた上着からソラのにおいがする。

 安心するにおいだ。

 ゆっくりと紅茶を飲むと、だんだんと冷えていた体が温まってきた。

「……いつもありがとう、ソラ」

 上映中だから、他の人の邪魔にならないように小声でお礼を言う。

「夏美。上着があっても辛いようなら、我慢しなくていいからね」

「うん」

 ソラは静かに微笑んで、スクリーンに視線を戻した。

 映画の物語はついに佳境に突入した。

『時間が許すなら、友だちになれた君たちと、ずっと楽しく暮らしていたかった。一緒に、卒業したかった』

 転校生の男の子の体は病に侵されていて、日に日に弱っていく。

 笑顔も消えて、病室に横たわる。
 みんなでお見舞いにいって、彼もがんばって闘病したけれど、卒業式を待たずに虹の橋を渡った。

『せっかく友だちになれたのに、こんなのあんまりだよ。もう会えないなんて。二十歳にもならないうちに、終わるなんて。神様はどうして彼にこんな意地悪をするんだ』

『……そんなふうに泣くな。泣いたって、還らないんだ。一番悔しかったのは、ぼくらでなく彼だろ。ぼくらはまだ生きている。生きてここにいる。いつ終わるかわからないからこそ、一所懸命に生きるんだ』 

 やがて映画が終わり、シアター内が明るくなる。

 開始前はつまらなそうにしていたリクは、ボロ泣きしていた。

「うっ、……そんなのって、ねえだろう……まさか、病気療養のためとか……、もう治らないなんて、そんな」

「……安易に軌跡で治ってハッピーエンドじゃないところが、リアルだよね」

 泣きはらしたリクに反して、ソラは落ち着いている。

 客席からもすすり泣く声が聞こえてくる。

 ハンカチを差し出すと、リクは「悪ぃ」と小さく言って、涙を拭った。