僕の気持ちも知らずに、夏美はすうすうと静かな寝息を立てて眠っている。
……キス、してみたいな。
恋人なら、こういうときキスしたって許される。
でも告白する勇気はない。
拒絶されたら、もう友だちですらいたくないと言われたら、平静でいられる自信がない。
結局、僕は静かに息を吐いて、伸ばした手を引っ込めた。
クローゼットからブランケットを出して、夏美の肩にかける。
なんだかミルクに似たいい匂いがする。
夏美は制汗スプレーやコロンをつけないから、これは夏美本人の匂いだ。
このまま時が止まってしまえば、誰にも邪魔されずに二人きりでいられるのに。
はやる鼓動をなんとか落ち着かせて、教科書のページをめくる。
試験範囲の文言に目を通してもぜんぜん頭に入ってこない。
早く起きてくれないと、僕が保たない…………。
三十分ほどで夏美は目を覚ましたけれど、勉強にならなかった。
それからしばらくして、夏美の祖父が亡くなり、引っ越しが決まる。
居心地の良い関係を失いたくなくて、告白するのを恐れていたことを、心の底から後悔した。
告白する勇気が持てないまま、夏美が引っ越す前日……八月八日がおとずれた。
今をなくしたくなくて。 END
……キス、してみたいな。
恋人なら、こういうときキスしたって許される。
でも告白する勇気はない。
拒絶されたら、もう友だちですらいたくないと言われたら、平静でいられる自信がない。
結局、僕は静かに息を吐いて、伸ばした手を引っ込めた。
クローゼットからブランケットを出して、夏美の肩にかける。
なんだかミルクに似たいい匂いがする。
夏美は制汗スプレーやコロンをつけないから、これは夏美本人の匂いだ。
このまま時が止まってしまえば、誰にも邪魔されずに二人きりでいられるのに。
はやる鼓動をなんとか落ち着かせて、教科書のページをめくる。
試験範囲の文言に目を通してもぜんぜん頭に入ってこない。
早く起きてくれないと、僕が保たない…………。
三十分ほどで夏美は目を覚ましたけれど、勉強にならなかった。
それからしばらくして、夏美の祖父が亡くなり、引っ越しが決まる。
居心地の良い関係を失いたくなくて、告白するのを恐れていたことを、心の底から後悔した。
告白する勇気が持てないまま、夏美が引っ越す前日……八月八日がおとずれた。
今をなくしたくなくて。 END



