∞8《インフィニティ・エイト》

 手荷物検査の金属探知機を抜け、ゲートの向こう側に出た瞬間。

 先に通っていた母さんが夏美と腕時計を見比べて笑った。

「なに?」

 ニヤニヤと意味ありげな顔をしている。

「ねえねえ夏美。いつからソラくんと付き合っていたの?」

 思わず足を止める。

 後ろから来た旅行客とぶつかりそうになって、慌てて通路のはしに避ける。

「ちょっと待って、母さん。なに言ってるの?」

「だって、ソラ君と居たいって日付がかわるまで一緒にいて。恋人じゃないなんて言わないわよね」

「違わな………いけども!」
 
 ループの話をしたところで、ループを感知していない人にとって一昨日は八月七日で昨日は八月八日。

 私とソラとリクが八回も八月八日をくり返した末に、昨夜ようやく告白したなんてわかるわけもない。

 あまりにもファンタジーすぎて、夢を見たんだろうなんて言われかねないよ。

 それに、恋人になったと同時に遠距離だから、恋人になったという感覚が薄い。

「しかも贈り物が腕時計よ?」

 母さんの視線がソラの腕時計に向かう。

「やるわねソラ君。遠距離のなんたるかをわかっていて抜かりないわ。福岡に着いたらお赤飯炊かなきゃ」

「…………どういう意味?」

「さあね? 鈍感すぎるのも考えものね、夏美。これはソラ君も苦労するわ。わたしも早く秋良さんに会いたくなっちゃった」

 母さんは笑って歩き出す。

 私は首を傾げながら、腕時計をぎゅっと握った。

 私はまだ知らない。

 ── 腕時計を恋人に贈るのには、

「同じ時間を共有したい」

「永遠の愛を誓う」

 という意味があることを。