僕だけが知ってる君の歌

 ――Rainさんと一緒に歌う曲なら、もっと明るい曲がいい
 ――そんなに、その人と歌いたいんだ
 ――歌いたい

 柚葵の言葉が、俺の心をグサグサと容赦なく突き刺していく。

 文化祭のステージ発表。
 柚葵の声が出ないと気付いた瞬間、俺の頭の中には咄嗟に二つの選択肢が浮かんだ。

 一つは、演奏を中断し、柚葵を連れてステージからはけるという選択。
 だが、それでは観客を困惑させることになる上、柚葵自身もきっとステージの上で歌えなかったことを悔やみ、惨めな思いをすることになるだろう。

 もう一つは、俺がギターの演奏のみを続けるという選択。
 演奏さえ続ければ、「ステージ発表」という形だけはなんとか保つことができる。
 しかしその間、柚葵はステージで棒立ちしていることになり、それもまた、柚葵が望んでいることではないと思った。

 焦りに追われる俺の頭の中に、第三の選択が浮かんだ。

 歌詞は覚えているし、きっとギターを弾きながら歌うこともできる。
 昔、何度も練習した歌だから。

 ――俺がなんとかしなければ。

 俺はギターを弾く手を止めると、一度舞台袖にはけ、置きっぱなしになっていたマイクスタンドを持って再びステージに戻った。俺たちの前に、ステージで弾き語りを披露していた生徒が使っていたものだ。

 俺は、椅子の前にマイクスタンドを設置する。

 震える手でギターをしっかりと握り、もう一度、曲の最初からギターを弾き始める。
 そして、緊張でこわばる喉に力をこめ、歌い始めた――。

 結果として、柚葵も曲の二番から歌うことができ、無事にステージ発表を終えることが出来た。柚葵は今回の発表を通して、自信をつけてくれたようだった。

 でも、そんな柚葵の前向きな気持ちと反比例するように、俺の心の中には暗い影が落ちていた。

 ――Rainさんと歌いたい

 柚葵は、Rainと一緒に歌うことを夢見ている。
 当時のRainの歌声と共に、一緒に歌いたい、と。

 でもごめん、それは無理なんだ。その声で一緒に歌うことはできないんだよ。

 俺は、二年前のことを思い出す。

 Rainという名前を捨て、配信活動をやめた、あの日のことを――。