僕だけが知ってる君の歌

 柚葵と別れ、帰宅した俺は、ギターを手に取った。
 柚葵に渡すため、譜面を作らないといけない。

 以前、柚葵にも指摘されたが、ギターを弾くのは久しぶりだった。
 入学式の日、柚葵と出会ってから、もう一度ギターを弾きたくなったのだ。

 ――俺のギターで、柚葵が歌ってくれたら。

 そんなことを考えているうちに、新しいギターが欲しくなった。だから、バイトをして買おうと決意した。

 前に、柚葵に歌を録音してほしいと頼んでいたが、まだそのデータは送られてきていない。そのため、以前柚葵が歌ってくれた曲の一節を、記憶から呼び起こす。
 たしか、こんな感じだったか。
 頭の中でメロディ―を思い浮かべながらギターを弾いてみるが、記憶が曖昧になっていることも相まって、音を合わせづらい。
 ならば、自分で口ずさみながら弾こうと、唇を開きかける。

 「……」

 しかし、声が出ない。

 俺は開きかけた唇を、ぎゅっと結んだ。

 ――やっぱり、歌えない。