僕だけが知ってる君の歌

 『今後は気を付けます。今度そらさんからオフ会誘われることがあったら、絶対本人かどうか確認します』

 「そら」宛に柚葵から送られてきたメッセージを見て、俺はふと考える。
 もし、オフ会で俺が目の前に現れたら、柚葵はどう思うだろうか。
 きっと目を丸くして驚くだろう。それか、「どういうこと?」と戸惑うかもしれない。

 柚葵の「そらさんとオフ会中」という投稿を見た時は本当に驚いた。
 添付された写真から、カラオケ店を突き止めることができたのが不幸中の幸いだった。

 俺になりすまして、柚葵に手を出そうとしたあのクソオヤジには、心底腹が立つ。
 あの時の怯えた柚葵の表情を思い出すと、心が痛んだ。

 ――俺が柚葵を守りたい。

 そう強く思った。
 柚葵がピンチの時、一番に頼ってもらいたい。
 柚葵が悲しい思いをする前に、その手を引いて危険から遠ざけてあげたい。
 柚葵が不安なときは、俺が……

 そこまで考えて、俺は頭を振る。

 あの入学式の日から、俺の頭の中は柚葵でいっぱいだった。

 最初はただの高揚感だった。

 入学式に遅刻して、学校までの道をダッシュしているときに、ふと聞こえてきた歌声。
 聞き覚えのある、まっすぐで綺麗な声。
 遊具の上で、空を見上げ、俺の大好きな歌を歌う男の子の姿を見て、俺は心臓が破裂しそうなくらい大きく鼓動が鳴っていた。

 その歌を聞いた瞬間に、「柚だ」と気付いた。

 同じ学校、しかも同じクラスだと知り、本当に嬉しかった。絶対に仲良くなりたいと思った。
 俺は柚が中学時代、苦労していたという話を配信で何度も聞いていた。
 だからこそ、俺が柚を救いたいと思った。

 俺は柚が、本当は凄く喋り上手で、明るくて、魅力的な人間だと知っている。
 歌が上手いってことも、学校で俺だけが知っている。
 だから、柚の隣にいるべきなのは、絶対に俺だと思った。

 そして同時に、俺は、最初に自分が「そら」だと明かさなかったことを後悔していた。
 時間が経てば経つほど、言い出しづらくなる。
 それに、もしかしたら柚の中では理想の「そら像」があるかもしれない。
 もし、そらが俺だと知ったら、がっかりするんじゃないか、と余計な心配が頭をめぐる。

 『まあ俺は柚と会うことないだろうけどね』

 そう返信を送ってすぐ、「あぁ、また正体を明かすタイミングが延期されたな」と俺はため息をついた。