白百合さんは、僕たちが趣味で写真家とモデルごっこをするには勿体無いと思ったようで。
「年に3回、スタジオ貸すから撮り続けてよ」と言われた。
「撮った写真をSNSに載せて、2人だけの世界を作るの。確かに被写体は色んな人に撮られるべきだし、写真家もなんでも撮れるようにするのがいいだろうけど……これはこれで需要あると思うから。やってみて」
「は、はあ」
「あ、スタジオのレンタル料はいただくわよ」
「それは勿論……なんだけど。白百合さん、どうして僕たちにこんなによくしてくれるの……?」
疑問だった。
形だけかもしれないけど一度は告白を断り、事務所にオファーされたけど1日で終了することになり……僕はまあまあ面倒な人間なはずなのに。
「……惚れた弱みよ」
「ん? ホレ?」
「はぁ〜……わたしが先に好きだったのになあ」
深くため息をついて、こちらを見て苦笑する白百合さんに。「え⁉︎」と大きな声を出してしまう。
「白百合さん⁉︎ 文化祭から僕を認知したわけじゃなかったの⁉︎」
「立花くんは影が薄いオタクってよく言われていたけれど。……去年、意地悪な女子生徒に足引っ掛けられて提出書類を廊下にばら撒いちゃった時……拾って『大丈夫?』と声かけてくれたのは立花くんだったのよ。覚えてない?」
「う、うーん……?」
そんな記憶が。あったような、なかったような……?
必死に思い出そうとすれば「白百合さん、テルくんの記憶力はあまりないと思う。ボクを痴漢から助けてくれた過去も覚えてないみたいだし」とそーちゃんが言う。
「そう。残念ね」
「ごめん……」
「ま、それはいいわ。2人が大人になって小さな事務所作ったら、是非ホワイトリリーと契約して欲しいな。スタジオもメイク室も全部貸すから。勿論2人だけの空間でね」
将来が楽しみだなあ、と言いながら白百合さんは去っていった。
「……」
「テルくん。ボク、白百合さんを去年から知ってるんだけど。もっと陰キャだったんだよ。今は髪染めててふわふわな可愛い感じだけど、去年は……黒髪長くて、重そうで」
「そうだったんだ」
「助けたこと覚えてない? 白百合さん、多分テルくんに振り向いてもらいたくて、頑張ってすごく可愛くなったんだと思う……」
「……そうか〜」
なんとなく、覚えてる。廊下に大量の書類をぶち撒けちゃった女子生徒がいたから、通り過ぎるついでに拾い集めた。そこにいた子は、もっと根暗な感じの……。
「あれが、白百合さん……」
「……ボクが、テルくんを奪っちゃった」
少し申し訳なさそうにそーちゃんは俯く。
でも恋愛って、そういうことだと思う。好きな人が被ったら、必ずどちらかは破れる。そこに良いも悪いもない。
タイミングと、勇気があるか。
勿論、勇気を出しても断られる可能性だってある。
恋愛って、本当に奥深い。
「……どのみち、僕は白百合さんが眼中になかったから、そーちゃん一筋だったよ。気付くのに時間がかかったけれど」
「……うん」
「罰の悪い顔しないで。僕たち結ばれたんだよ」
そーちゃんの元へ歩み寄り、微笑む。こちらを見上げるそーちゃんは……コクッと頷いた後、僕に抱きついた。
ヤンキーなのはやっぱり見た目だけ。
怒るとちょっぴり怖いけど。
「テルくんが好き。テルくんを撮る時間も大好き。……この時間が仕事にもなるならどんなに幸せか……」
僕たちはその場で2人で共有する、画像をメインにアップするSNSアカウントを開設した。
*
『モデル 立花輝紀』
『プロデュース兼カメラ 藍田創一郎』
説明欄には短く2人の名前。
ホワイトリリーのスタジオを借りて纏めて写真を撮り、投稿は定期的に少しずつアップしていく。
初めは小さなアカウントで、細々とやっていくつもりだった。しかし白百合さんや坂下くん、矢野くん、写真部の皆がフォローしてくれて学校中に知られて。次第にフォロワーはじわじわ増えていく。
やはりそーちゃんの腕はプロ並みだ。
僕が僕じゃないみたいだった。
コメントも知ってる人から、だんだん知らない人のものが増えていく。
『立花くん、白い衣装が百合みたいに似合って綺麗』
『派手じゃないんだけど、見つめていると心が安らぐ感じ……なんだか、海に眠る真珠みたい』
『マジかっけ〜! そろそろサインとか考えるべきでは⁉︎』
1人だけは誰が投稿してるのか分かり苦笑しながらコメント欄をスクロールしていけば……たまに現れる不快な言葉。
『どこ住み? 幾ら? キスしたいな』
「……」
結局あの変質者は捕まっていない。最近はそーちゃんが家まで送り届けてくれるから安心しているけど。
初めてホワイトリリー事務所を利用してから2回目の撮影。あれから4ヶ月が経ち、休憩の合間にSNSを眺めて、落ち込む。
気持ち悪いコメントが増えて来た。
もちろんフォロワーが監視して通報してくれるが、フォロワーの数が増えていくほど、色んな人が僕を見てくるから。
「はぁ……」
「コメント欄、閉じようか」
同じく険しい顔でコメント欄を眺めていたそーちゃんが言う。
それが1番楽。でも……見てくれる心優しい人たちの言葉が届かなくなるのも嫌だ。
「僕が投稿してるって思われてるのかな。実際にアップしてるのはそーちゃんなのに。どう見てもこれ、僕宛てだよね……」
「メインで映るのはテルくんだからな……そうだ」
そーちゃんは何かを思いついたように新しい投稿をした。
夜空の衣装を纏った僕の画像と共に投稿される言葉。
『このアカウントの管理は全て藍田創一郎が行っています』
「……わ」
「テルくんに嫌な言葉をぶつける輩は、オレが許さねーからな」
可愛い顔でニヤリと笑うそーちゃんに、不覚にもドキドキした。
効果はあるのか、それ以降の投稿には変なコメントが付かなくなった。
「そーちゃんの存在、大きい……」
「任せときなって!」
休憩が終わり、僕はまたそーちゃんと向き合う。
フォロワーが求める花になったり、真珠になったり。人それぞれ僕を例える言葉が違うのも面白い。
SNSの活用は高校卒業した後も、改めて職業として運用することになった。
……ということを、高校2年生の僕たちはまだ知らない。
「年に3回、スタジオ貸すから撮り続けてよ」と言われた。
「撮った写真をSNSに載せて、2人だけの世界を作るの。確かに被写体は色んな人に撮られるべきだし、写真家もなんでも撮れるようにするのがいいだろうけど……これはこれで需要あると思うから。やってみて」
「は、はあ」
「あ、スタジオのレンタル料はいただくわよ」
「それは勿論……なんだけど。白百合さん、どうして僕たちにこんなによくしてくれるの……?」
疑問だった。
形だけかもしれないけど一度は告白を断り、事務所にオファーされたけど1日で終了することになり……僕はまあまあ面倒な人間なはずなのに。
「……惚れた弱みよ」
「ん? ホレ?」
「はぁ〜……わたしが先に好きだったのになあ」
深くため息をついて、こちらを見て苦笑する白百合さんに。「え⁉︎」と大きな声を出してしまう。
「白百合さん⁉︎ 文化祭から僕を認知したわけじゃなかったの⁉︎」
「立花くんは影が薄いオタクってよく言われていたけれど。……去年、意地悪な女子生徒に足引っ掛けられて提出書類を廊下にばら撒いちゃった時……拾って『大丈夫?』と声かけてくれたのは立花くんだったのよ。覚えてない?」
「う、うーん……?」
そんな記憶が。あったような、なかったような……?
必死に思い出そうとすれば「白百合さん、テルくんの記憶力はあまりないと思う。ボクを痴漢から助けてくれた過去も覚えてないみたいだし」とそーちゃんが言う。
「そう。残念ね」
「ごめん……」
「ま、それはいいわ。2人が大人になって小さな事務所作ったら、是非ホワイトリリーと契約して欲しいな。スタジオもメイク室も全部貸すから。勿論2人だけの空間でね」
将来が楽しみだなあ、と言いながら白百合さんは去っていった。
「……」
「テルくん。ボク、白百合さんを去年から知ってるんだけど。もっと陰キャだったんだよ。今は髪染めててふわふわな可愛い感じだけど、去年は……黒髪長くて、重そうで」
「そうだったんだ」
「助けたこと覚えてない? 白百合さん、多分テルくんに振り向いてもらいたくて、頑張ってすごく可愛くなったんだと思う……」
「……そうか〜」
なんとなく、覚えてる。廊下に大量の書類をぶち撒けちゃった女子生徒がいたから、通り過ぎるついでに拾い集めた。そこにいた子は、もっと根暗な感じの……。
「あれが、白百合さん……」
「……ボクが、テルくんを奪っちゃった」
少し申し訳なさそうにそーちゃんは俯く。
でも恋愛って、そういうことだと思う。好きな人が被ったら、必ずどちらかは破れる。そこに良いも悪いもない。
タイミングと、勇気があるか。
勿論、勇気を出しても断られる可能性だってある。
恋愛って、本当に奥深い。
「……どのみち、僕は白百合さんが眼中になかったから、そーちゃん一筋だったよ。気付くのに時間がかかったけれど」
「……うん」
「罰の悪い顔しないで。僕たち結ばれたんだよ」
そーちゃんの元へ歩み寄り、微笑む。こちらを見上げるそーちゃんは……コクッと頷いた後、僕に抱きついた。
ヤンキーなのはやっぱり見た目だけ。
怒るとちょっぴり怖いけど。
「テルくんが好き。テルくんを撮る時間も大好き。……この時間が仕事にもなるならどんなに幸せか……」
僕たちはその場で2人で共有する、画像をメインにアップするSNSアカウントを開設した。
*
『モデル 立花輝紀』
『プロデュース兼カメラ 藍田創一郎』
説明欄には短く2人の名前。
ホワイトリリーのスタジオを借りて纏めて写真を撮り、投稿は定期的に少しずつアップしていく。
初めは小さなアカウントで、細々とやっていくつもりだった。しかし白百合さんや坂下くん、矢野くん、写真部の皆がフォローしてくれて学校中に知られて。次第にフォロワーはじわじわ増えていく。
やはりそーちゃんの腕はプロ並みだ。
僕が僕じゃないみたいだった。
コメントも知ってる人から、だんだん知らない人のものが増えていく。
『立花くん、白い衣装が百合みたいに似合って綺麗』
『派手じゃないんだけど、見つめていると心が安らぐ感じ……なんだか、海に眠る真珠みたい』
『マジかっけ〜! そろそろサインとか考えるべきでは⁉︎』
1人だけは誰が投稿してるのか分かり苦笑しながらコメント欄をスクロールしていけば……たまに現れる不快な言葉。
『どこ住み? 幾ら? キスしたいな』
「……」
結局あの変質者は捕まっていない。最近はそーちゃんが家まで送り届けてくれるから安心しているけど。
初めてホワイトリリー事務所を利用してから2回目の撮影。あれから4ヶ月が経ち、休憩の合間にSNSを眺めて、落ち込む。
気持ち悪いコメントが増えて来た。
もちろんフォロワーが監視して通報してくれるが、フォロワーの数が増えていくほど、色んな人が僕を見てくるから。
「はぁ……」
「コメント欄、閉じようか」
同じく険しい顔でコメント欄を眺めていたそーちゃんが言う。
それが1番楽。でも……見てくれる心優しい人たちの言葉が届かなくなるのも嫌だ。
「僕が投稿してるって思われてるのかな。実際にアップしてるのはそーちゃんなのに。どう見てもこれ、僕宛てだよね……」
「メインで映るのはテルくんだからな……そうだ」
そーちゃんは何かを思いついたように新しい投稿をした。
夜空の衣装を纏った僕の画像と共に投稿される言葉。
『このアカウントの管理は全て藍田創一郎が行っています』
「……わ」
「テルくんに嫌な言葉をぶつける輩は、オレが許さねーからな」
可愛い顔でニヤリと笑うそーちゃんに、不覚にもドキドキした。
効果はあるのか、それ以降の投稿には変なコメントが付かなくなった。
「そーちゃんの存在、大きい……」
「任せときなって!」
休憩が終わり、僕はまたそーちゃんと向き合う。
フォロワーが求める花になったり、真珠になったり。人それぞれ僕を例える言葉が違うのも面白い。
SNSの活用は高校卒業した後も、改めて職業として運用することになった。
……ということを、高校2年生の僕たちはまだ知らない。



