僕はあなたの星になる

 翌週から、家から学校までを白百合父(社長)の手配により車で送ってもらうことになり、放課後に学校から芸能事務所まで送ってもらい……帰りも家まで車で移動するという送迎(そうげい)が始まった。

 学校に一台の車が停まって、そこから僕が降りてくるからもちろん注目の的だ。

 しかし僕が注目されているのは文化祭に出てから変わらないから、無理に元に戻ろうとするのは諦めた。全生徒が僕をもう知っている。モデルの卵だって。

 校門まで歩いてくる生徒たちの視線を浴びながら、運転手さんに「ありがとうございます」と伝えて校舎へ向かう。

 グラウンドを歩いていれば「立花〜!」と後ろから駆け足で肩を組んでくる坂下くん。

「びっくりした……おはよう」
「今日からレッスン始まるんだよな〜⁉︎ 頑張れよ〜!」
「……うん。ありがとう」
「初めは芸能事務所なんか興味なさそうだったのに、どういう風の吹き回しだったんだ?」

 全てはそーちゃんにまた振り向いてもらうため。なんて。
 言葉には出来なくて「まあね。やってみたくなって」と口角を上げる。

「応援してんぜ〜!」

 遠巻きに見られるよりは声かけられる方がありがたい。なんとなく人が集まっているのを掻き分けて坂下くんと歩いていく。

 きょろきょろ辺りを見渡せば、そーちゃんが教室の窓から僕を見ていることに気付いた。

(そーちゃん)

 手を振ろうと片手を上げたら、目を逸らされて姿が見えなくなる。
 代わりにそーちゃん以外の窓から僕を覗き込んでいた生徒が「手を振ってくれた!」と騒いで笑顔で手を振返してくれる。

(違ったけど……まあ、いいか)

 苦笑し、もう一度見上げて手を振った。





 *





 放課後からが本番だ。
 同じ運転手さんに乗せてもらい、車で40分ほどの事務所に向かう。

「宣材写真を撮ろうか」ということで初めに体のストレッチから始まる。僕の体はカチカチになっているらしい。

「肩の力抜いて、リラックスして」と言われても、上手く出来ているか分からない。「ポーズはそんな感じ」と決められてから、改めて髪を整えたりメイクアップをする。

 正面からヌッと出てくる大きな手にビクッと固まってしまった。変質者に触られた時の感覚を思い出してしまったから。
 そーちゃんよりも大きな角張った手。
 顔のマッサージをするから手が伸びてくるだけなのに、ギュッと目を閉じてしまう。

「立花くん、マッサージ出来ないよ〜」

 担当してくれる人が困ったように言う。ここにいるのは僕だけではない。僕以外にオファーされた子たちが、同じように椅子に座ってマッサージやメイクを施してもらっている。

 隣のスタジオだって。今もパシャ、パシャ、と終わりなく撮られていく音がする。

「すみません……びっくりしちゃって」
「ゆっくりでいいから、慣れていこうね〜」

 優しい人でよかった。深呼吸を繰り返し顔や肩の力を抜いていく。頬や肩に手が伸びマッサージされていくも「中々力抜けないね〜?」なんて言われてしまう。

「……す、すみませ」
初心(うぶ)で新鮮! こっちも初心に返る〜」

 もたもたしていても超初心者の特権ということで、色々見逃してもらえている……と思う。だって多分慣れていそうな子たちは数分でメイクアップして隣のスタジオに向かう。

 僕は20分程かけてやっとメイクや髪型を完成させる。仕上げてくれた人に「頑張って!」と親指を立てられ「ありがとうございます」と礼を言ってスタジオに向かう。

 最後に振り返ると担当してくれた人は既にまた別のモデルの子のメイクをしていた。

(忙しい……手間取らせちゃ駄目だ……)

 僕には優しくしてくれたけど。内心どう思っていたかまでは分からない。社会人だから、大人の対応をしてくれた。

 しかし、大人が見逃してくれたことでも、同じく隣に並んでいたモデルの卵(未成年)には僕の言動が良く思わなかった見たいで……。