僕はあなたの星になる

「テルくーん!」

 翌日の放課後。それぞれ皆が部活に向かう中、ヤンキーぽい見た目をしているが人懐っこい笑みで両手をブンブン振るそーちゃんを見かける。やはりヤンキーではない。
 そう思ったが、僕がちんたら帰る準備をしていると「ちょっと来いヤァ!」と一喝した。……僕は理解してるからいいけど、初めて見たクラスメイトは僕が恐喝されてると思い込んでしまう。

「おい、大丈夫か⁉︎ センセー呼ぶか⁉︎」
「立花、変な奴に目をつけられたんじゃないだろうなあ?」

 僕自身空気の存在だと思っていたのに坂下くんや矢野くんに声をかけられた。それほどヤンキーぽい見た目が強烈だったのだろう。
 僕は苦笑し「大丈夫。あの人写真部なんだ。今日誘われて」とだけ伝えて彼の元へ向かう。坂下くんたちは不思議そうに僕を見つめていたけれど無視して歩いていく。

「テルくんっ、あのね! 今日ね、色々準備して来たんだ!」

 両手にたくさんの荷物を抱えながらそーちゃんはにこにこ楽しそうに言う。今日を待ち侘びていたのはわかる。彼はどのように僕を輝かせてくれるのだろうか。

(……あまり期待はしないけれど)

 昨日と同じ部室に入るも、他の部員は見当たらない。キョロキョロしていれば「今日はボク……オレ専用に予約したんだ」と教えてもらい「ここ座って!」と椅子を用意される。

「ワックス使ってもいい?」
「えっ。……僕は使い方あまり知らないけど、そーちゃんがやってくれるなら……」
「よっしゃ! じゃあ、メイクとかもいい?」
「……そーちゃんがやってくれるなら」
「服も用意したんだ!」
「……写真部というより、プロデュースじゃん……」

 見て見て、と机の上に今日使うスプレーやメイク道具、そして服を並べられる。

「……本気なんだね」
「ウン! テルくんをモデルに写真撮って、大賞狙うぞー!」

 綺麗なものというのはてっきり自然なものかと思っていたが、人間でもいいんだ。ふーん……と思いながらそーちゃんの動きを見つめていれば「ちょっと濡らすね」と霧吹きで髪を濡らしていく。その後にドライヤーで分け目を作りながら乾かしていき、視界の眩しさに目を閉じる。ある程度整ったあと、そーちゃんはワックスを手に取り馴染ませてから「触るよ?」と僕に一言断りを入れる。勝手に触ってもいいのに。

「うん」
「えへへ、楽しみだなあ……」

 僕の背後に立って。スッと、両手が僕の前髪を掻き上げる。いつも狭い視界が一気に広くなり、どこを見たら良いのかわからず目を彷徨わせる。

「そうそう。こんな感じ。綺麗な顔してるのに、もったいないよ」

 そーちゃんはそう言いながら髪型を作っていく。僕は目の前に鏡がないからどうなっているかわからない。それでも、安心感があった。触れ方が丁寧で、痛くないから? 出会って2日目なのに。見た目がヤンキーだけど中身は可愛い人だから?

「……うん。イイ感じ!」

 そーちゃんは満足そうに頷いている。「見てもいい?」とスマホで見ようとすれば「まだ待って!」と言われる。

「テルくんをアッと言わせるから!」

 そのまま、髪型を見せないままメイク作業に入る。下地を塗り、不自然にならない程度にファンデーションを塗り、アイブロウで眉を整え、アイラインをスッと引き……されるがままになっているが、僕は今どうなってしまっているんだろうか。

「……出来た! 次はね、制服から着替えてほしくて」
「まだ見せてくれないの」
「最後までのお楽しみ!」

 意地悪をされているわけではない。ニコニコ、ヤンキーらしからぬ可愛い笑顔だ。思えば、その金髪の髪型も整えられていて毎朝そーちゃん自身で髪型を決めて来ているのだろう。陰キャの僕は寝癖を治す程度だから大違い。陽キャ集団にも入れそうなのに、何故写真部にいるのだろう。

「はい、これ! これに着替えてほしい!」

 手渡されるのはサイズの大きい、白色のシャツ。それと、黒いズボン。

「……制服のままでも良くない?」

 僕の率直な意見は「ダメ!」と即却下された。

「いいから着替えて! 誰も入ってこないように見張りしておくから!」
「……わかったよ」

 更衣室でもない場所で制服を脱ぐ背徳感に(さいな)まれながら、着替えていき。

「……どうかな?」

 外で待機しているそーちゃんに声をかける。扉を開け、中に入ったそーちゃんは僕をまじまじと見て……顔をきらきらさせて。

「はわわ、昨日の王子さまだ!」

 と声のトーンを上げる。

「王子さまって」
「ボクの目に狂いはなかった! テルくん、顔出したら本当に人気者になると思うよ!」
「アッ、僕そういうの望んでないので……」

 部室は小さなフォトスタジオにもなっている。「ここに立って!」と言われたのはよく見る背後に大きな紙がある場所。指定された場所に立ち、どうすればいいのか分からず指示を待っていれば「もっと自然体で!」なんて言われる。

「……いや、髪型も変えてメイクもして、服装も変えた僕が自然体なんて、無理だよ」
「むむ……なんか、見た目はいいんだけど、立ち姿が良くない」
「え」
「もっと背筋伸ばす! 猫背にならない! 表情は堂々として!」

 被写体って大変だ。ただ撮られるわけではないのだ。そーちゃんの指示された通りに動いた瞬間パシャ、と視界が真っ白になった。目の前にある照明が光った。不意打ちで撮るのやめて。

「ま、眩しい……」
「目閉じない! 瞬きしない! 目開けて!」
「注文が多いよ……」

 かれこれ3分。体感30分。「終わり!」と切り上げられよろよろと椅子に座り込む。

「こんなに体力使うとは思わなかった……」
「うん、良い。綺麗。かっこいい。でも……なんか、違う……」
「え〜! こんなに頑張ったのに⁉︎」

 そーちゃんは撮った写真を見返しながら顔を顰めている。……やっぱ、ヤンキーらしくない。

「そーちゃん」
「ん?」

 顔を上げて僕を見る瞬間の顔を、僕のスマホでパシャリと撮った。

「わ! なに?」
「……間抜けな顔、ゲット〜」

 画面には気の抜けた、目はきょとんとして口は半開きなそーちゃんがいた。

「……はは、かーわい」
「……、――!」

 パシャ、とフラッシュが焚いた。僕が間抜けなそーちゃんの顔を見て笑っている顔を撮られた。

「……この顔。この自然体。……これだよ! 昨日感じた美しさは!」

 ガッツポーズして喜んでるけど。……あれだけ撮ってたのに、気の抜けた1枚の方がいいっていうのか?
 今までの苦労を返せ……と内心思いながら「見せて」と言う。

「……綺麗に撮れてるでしょ」

 そーちゃんが満足げに見せたものは。

 スマホの画面を見てるから目は伏せられてるけど、笑っている横顔の男がいた。……これが……僕?

「…………」
「テルくん。これ、コンテストに出しても良い……?」

 そーちゃんが聞いてくる。
 僕には写真のことはわからない。何が良いのかなんてわからないけれど。テーマが『綺麗なもの』で僕の横顔が当てはまると思うのなら。

「……いいよ。多分、僕だって誰にもわからないと思うし」

 どれもこれも全部そーちゃんがプロデュースしてくれたものだから。前髪があるのとないのとで、だいぶ印象変わった。メイクしたのに不自然ではないし、服も相俟って大人っぽいからだろうか。

 そーちゃんは有言実行で、本当に僕の横顔をコンテストに応募したのだった。