僕はあなたの星になる

「立花くん。変な人に目をつけられるくらいなら、わたしの事務所に来ない?」

 午前中はそーちゃんとたくさん眠ったため精神は(ほとん)ど回復した。ついでに保健室で昼食を済ませてから2人で廊下に出たら扉の前には白百合さんがいた。

 そして言われたのが「事務所に来ない?」である。ちょっとよくわからない。

「『ホワイトリリー』っていう芸能事務所知らない?」
「……聞いたことはある……色んなアイドルや俳優を生み出している大手事務所。……ん? ホワイトリリーって……」

 ホワイトリリー=白百合。

 ……え⁉︎

「白百合さん、モデルなの⁉︎」
「どちらかといえばわたしはマネージャーの方かな。そのうちは社長になるかもしれないけど」

 寝起きだからかもしれないけど、夢を浮遊しているような話だ。白百合さんはホワイトリリーっていう芸能事務所と関係してるんだ。

「ほぇ〜……」
「ほぇ〜じゃなくて。実はわたしのパパ……社長が、文化祭で拡散された立花くんを見つけて『事務所にほしい』って言われたんだけど。ちょっとモテたからって恋愛に興味なさそうなのも週刊誌に撮られて炎上しなさそうで良いなって。立花くんさえ良ければ、今度正式に社長から契約の話を持ってくるけど」

 白百合さんに告白されたのはトラップだったわけだ。もしあの時調子に乗って頷いていたら事務所勧誘の話はなかったということだ。

「もし僕が告白されて頷いてたら白百合さん付き合ってたの?」
「それはそれ。これはこれ。わたし、カッコいい男子と付き合いたいのは本当だし。まあ、立花くんはわたしなんて眼中になさそうなのはわかってたけど」
「そうなの?」
「当たり前じゃん。わたしが話してる時もチラチラ後ろにいる番犬を見てて……カワイイわたしを無視するの⁉︎ って腹立ったの覚えてるから」
「ご、ごめん……あはは」

 適当に笑って誤魔化せば白百合さんは頬をぷくって膨らませている。カワイイ。でも感情はそれだけ。

 クイクイッと制服の袖を引っ張られる。振り返るとそーちゃんが少し拗ねた顔で僕を見上げている。白百合さんと話して置いてけぼりだったからかな。

 上目遣いで、ヤンキーなのに甘えたで。
 ああ、可愛い。抱きしめたいな。
 なんて。

「変質者、まだ捕まってないみたい。気をつけて。もし……事務所入ってくれるなら、立花くんの通学は車で送迎(そうげい)するようにもなるし、安全になる。悪くない話だと思う。返事はすぐじゃなくて良いから、考えてみて」

 僕が何か返す前に「スマホ出して」と言われ連絡先を交換し「じゃ」と手を振って去っていく。スマートである。

「……なんだったんだ?」
「スカウトだよ、テルくん」

 一言で簡潔に教えてくれるそーちゃん。でも、その表情は明るくはない。

「……どう思う?」
「……。それは、テルくん自身が決めることだよ。ボクが指図(さしず)出来る話じゃない」
「でも、そーちゃんの意見も聞きたい」
「ボクは……」

 そーちゃんは口を開いて何かを言いかけ、閉じて僕を見上げる。

「テルくんがやりたいならやってみるべきだと思うな」

 そう言って、微笑む。
 いつも見る笑顔とは違う。
 なんか、作り笑いみたいな。

 ……その笑顔は、なんだか嬉しくない。

「本心で言ってる?」

 何か隠してない?
 ベッドの中ではあんなにお互いの本心を曝け出していたのに、今は偽りの言葉を並べられているようだった。
 そーちゃんの意見が聞きたいだけなのに。

「午後の授業、そろそろ行かないと」

 僕の質問には返さず、そーちゃんは歩き出してしまう。

 僕はその背中を見つめるだけで……反対方向に歩き出す。教室に戻ったら。

「なあ! 芸能事務所にスカウトされたってマジなの⁉︎」

 開口一番坂下くんに大きな声で尋ねられ、クラスの注目の的となった。