僕はあなたの星になる

「はぁっ、はぁ……そーちゃんっ」

 意外と歩く足が速いそーちゃんを追いかけて息を切らす。「そーちゃん」と声をかけてもズンズンと歩いていくスピードは変わらない。聞こえていないのかな。先生が廊下にいないことを確認してから軽く小走りをして、左腕にしがみつく。

「うお。……テルくん。びっくりした」
「何度も、名前呼んだのに」
「ごめん。気付かなかった」

 少し会話しようとすれば、周りにいる生徒たちが噂を流し始める。

『ねぇ聞いた? 立花、白百合(しらゆり)さんの告白断ったらしいよ』
『マジ? 勿体ね〜』
『白百合さん泣いてたって〜。立花の野郎、ちょっとモテ始めたからって酷いこと言ったんじゃないのか?』

 あることないこと話されていく。白百合さんは泣いていなかったし、僕は潔く断っただけ。どうしてこんな短時間で変な情報が出回るのか……否定しようと声をかけようとすれば生徒たちはサッといなくなり、そして遠くから僕を見てヒソヒソと話していく。……居心地が悪い。

「……うざ」

 ダン、と。
 そーちゃんが廊下の壁を拳で殴った。
 実行委員に怒っていた時のように。

「……そーちゃん?」
「単刀直入に聞く。……白百合さんに告白されたのは本当なんだな?」

 皆に聞こえるような大きな声で尋ねられる。噂を晴らしていくように。ヒソヒソ出鱈目(でたらめ)な情報を拡散されるよりは、直接聞いてもらった方が助かる。

 そーちゃんの言葉に僕は「うん」と頷いた。

「告白されて、どうしたんだ?」
「断った」
「どんな言葉をかけて?」
「……恋愛には興味無いから、ごめんって」

 尋ねるそーちゃんの口角が少し上がった。

「……あんなにカワイイ白百合さんに(なび)かなかったんだ」
「カワイイ……確かに、カワイイとは思う。でも……付き合いたいか、と思うと別で……」

 あの時の、告白されても心が踊らなかった理由を確かめていく。

「……白百合さんよりも、僕を見て黙って去っちゃうそーちゃんの方が気になって」

 そーちゃんの目が大きく見開く。
 見た目がヤンキーだけど可愛くて。でもやっぱ怒ると口調も表情も相俟って怖い。
 今はとても可愛い顔をしている。

「……告白は断った。言葉でしっかり伝えた。泣かせてはいないよ。それよりも……僕はそーちゃんに会いたくて、走ってきた」

 周りの人にも伝わったかな。
 変な情報が流されなければいいけど。
 生徒たちの様子を窺えば、気まずそうに目を逸らし歩いて去っていく。

 噂はそのうち自然消滅するだろう。

「……オレに会いたかったの?」

 誰もいなくなった廊下で、そーちゃんが呟く。僕は「うん」と頷き見つめる。

「どうして声かけてくれないんだろうって」
「……だって告白されてたし」
「関係ないのに」
「あ、あるだろ! 邪魔しちゃ悪いなって」
「……でも僕、寂しかった」

 そうだ。
 告白されても心が踊らなかったのは好きではなかったから。そのあと僕を見て去っていくそーちゃんを見て慌てて追いかけたのは。

 僕にはもう興味が無くなってしまったのかと焦ったから。

「……僕が誰かに声をかけられても、変わらずに話しかけてきてほしい」
「白百合さんみたいな突然の告白ならまだしも、体育館裏にいるテルくんに話しかけるのはハードルが高いだろ……」

 なんで。話しかけてよ。
 ()()()()()で、そーちゃんとの時間が減ってしまうのは嫌だ。

 ……こんなこと。
 僕にとってはこんなことでも、告白しに来てくれる女子生徒にとっては一大事だ。ちゃんと受け止めて断らないと。
 でも、面倒臭いという気持ちも少しある。

 ……僕ってこんなに性格悪かったっけ。

 多分、そーちゃんがいなかったらこんな気持ちは抱いていない。恋愛をするよりも、僕はそーちゃんといる時間を増やしたい。

 それが、僕が今恋愛に興味が無い理由だ。

「……告白を受けたら僕はすぐに断る。でも相手が粘って中々切り上げられない時とか……助けてほしい」
「割り込んだらオレが反感買うだろ」
「ヤンキーでしょ? 強引に終わらせてほしい」

 文化祭の帰り、そーちゃんと別れた後1人の男の人に告白された。断ったけど、何度もアタックされて家まで着いてきそうだったのが少し怖かった。

 僕はただのオタクなのだって早く気づいてほしい。

「……オレは基本放課後は写真部にいるから。困った時は連絡して。すぐに駆けつけられるようにするから」
「ありがとう」

 話に区切りがついたところで僕はまた声をかけられるも、相手は肩を竦ませてすぐに走っていってしまった。

 どうしたのだろうと隣を見ると、見た目を大いに生かしたそーちゃんが相手をガン飛ばししていた。

「……怖いよ、そーちゃん」
「でも、もう()()()距離を取らなくていいってわかったから。……厄介な奴らを追い払えるなら、なんだってするよ」

 僕を見て可愛い顔で笑う。
 邪魔しないように、敢えて距離をとっていた。でも僕が寂しいと伝えたから、もう離れることはない。

 次第に告白される回数は減り、そのうちに「王子さまを守る番犬」とそーちゃんは呼ばれるようになった。