……俺は、それでいい。少なくとも、今は
そう思ったところで。
「そろそろ出る?」
長谷部がパフェを食べ切ったお腹を摩りながら言った。
「ん」
俺も残っていたウーロン茶を飲み干す。
会計を済ませて店を出ると、外は思っていたより涼しかった。
「じゃ、帰るか」
『ん』
並んで歩き出そうとした、そのとき。
「……あれ?」
長谷部が足を止めた。
『どうしたん?』
「いや、あそこ」
長谷部の視線を追う。
少し離れたところに、見覚えのある姿があった。
『……瀬良?』
その隣にいるのは。
彼の姿を見た瞬間に、胸の奥が少しだけざわついた。
さっきまで考えていた相手が、目の前にいる。
……なんやろ。
さっきまでとは、少し見え方が違う。
「声かける?」
『……んー…どうしよ』
だからこそ声をかけ辛かった。
そう話している間にも、瀬良がこちらに気づいた。
「あ、深町!」
ぱっと顔が明るくなる。
その顔を見た瞬間。
……やっぱり、好きやな。
自覚したばかりの気持ちは、思っていたよりずっと簡単に顔を出した。
「こんなとこで何してんの?」
『こっちの台詞やけど』
「俺は慧と飯」
『俺らも』
長谷部が軽く手を挙げる。
それから、久世を見る。
「えっと……」
「あ、久世です」
「長谷部です、よろしくね」
「よろしく」
「……深町くん、だよね?こないだ会った時は挨拶できなかったから」
『あ、ごめんなさい、あの時は…』
「いやいや、俺も塾前で余裕なくて」
『全然…えっと、実は瀬良にはよく聞いてて』
「こちらも噂にはかねがね……」
と向かい合ってペコペコ会釈をし合った。
短いやり取りを終えて、長谷部が何気なく聞いた。
「ちなみに久世くんって、どこの学校?」
「鷹見だよ」
「ああ!」
長谷部が声を上げた。
「そこか!」
「知ってる?」
「知ってる!めっちゃ頭良いとこだよね!」
「まぁ否定はしません」
「否定しないんだ(笑)あとね〜普通に友達がいる」
「え、誰?」
「植松ってヤツ。知ってる?」
「いやぁ、知らないなぁ。一緒のクラスになったことないのかも」
「そっかぁ…え、そういえばさぁ、そいつから聞いたけど、確か、もうすぐ文化祭だよね?」
「うん、再来週かな」
「やっぱり!」
長谷部は少し考えるように顎に手を当ててから、笑った。
「俺、誘われててさ。その日ちょうど休みだし遊びに行こうと思ってたんだよね」
『え、なんで俺ら休み?』
「来月の創立記念日の日にやるんだよ」
瀬良が教えてくれて納得する。
『夏休み直前なんやな、瀬良も行くの?』
「うん、そのつもり」
その答えを聞いた瞬間。
長谷部が、チラッと俺を見る。
「じゃあ、環も一緒に行こうよ」
『……え』
突然名前を出されて、戸惑った。
「せっかくだし」
『え、でも俺、全然関係ないのにいいんかな』
「瀬良も行くんだろ?」
「うん」
「じゃあいいじゃん」
長谷部はそう言って、俺の肩を軽く叩いた。
……なんか。
妙に押しが強い。
ちらっと瀬良を見る。
「深町も来る?」
不安そうな表情しながら、瀬良にそう聞かれて。
断る理由なんて、なかった。
『……じゃあ、行く』
「決まり!」
長谷部が満足そうに笑った。
久世も「じゃあ、当日待ってる」と笑っている。
その隣で、瀬良も嬉しそうに笑った。
……文化祭。
瀬良と。
長谷部と。
それから、ケイくん…改め、久世。
2人で行くわけじゃない。
それでも。
今日みたいにたまたまじゃなくて、ちゃんと約束して休日に瀬良と会える。
そう思うと。
少しだけ、楽しみだった。
ーーただ。
長谷部が、あのとき何を考えていたのか。
俺はまだ、知らなかった。

