愛が重すぎる美形の親友に囲いこまれてBLエンド一直線にされました


 文化祭一日目は気持ちのいい秋晴れだった。

 レモンに特化した喫茶店というのが話題になったらしく俺たちの店は朝からにぎわっている。
 それどころか来るひとのほとんどが店内やスイーツの写真を撮ってSNSにアップしてくれているみたいで、お客さんの数はどんどん増えていた。廊下に列ができるほどだ。

「田中、つけあわせのミント忘れてる」
「ほんとだ、ありがと! でも俺佐々木な!」

 キャパを超えた来客に接客チームも調理チームも焦るなか、注文を伝えにパネル裏のキッチンに行くと月が佐々木に注意をしていた。

「さすが」と俺は伝票を並べながら月に言う。

「なにが?」
「冷静にみんなのことよく見てるなって」
「料理にミスあったら怒られるの陽太たちだろ。それがいやなだけ」
「……そか」

 俺は微笑みを返し、パネルの向こうにもどる。すると手を上げて呼んでくる男性客がいたのでそのテーブルに向かった。

「お待たせしまし……あ、」

 それはバイト先の元常連の男だった。グラスを割ってしまい、そのお詫びにクッキーとラインIDを書いたメモを渡してきたひと。
 俺が連絡をせずにいたらいつの間にか来なくなっていたんだけど――

 長い前髪のせいで表情がわかりにくい。笑っているけどなんだか底冷えのするような怖さがある。

「ようたくん、久しぶり。そのエプロンかわいいね」
「……ありがとうございます」

 店に来なくなったから完全に油断していた。
 俺が制服で帰るところも見てるから、学校を突きとめるのは簡単だっただろうけど……でも、まさか文化祭に来るなんて。

 俺はメモを取る準備をしたけど男はメニューすら見ていない。
 ふと、このひとの名前すら俺は知らないことに気がついた。あのメモには書いていなかったから。

「レモン喫茶なんて面白そうだから来ちゃったよ。ようたくんが働いてるとこ見たかったし」
「ありがとうございます」
「ね、いつシフト終わる?」
「一時ですけど……」
「よかったら俺と回ろうよ。ここ来るの初めてだから案内してよ、ようたくん」
「いえ、俺は友達と回るんで――」
「そんなのいいじゃん。俺といるほうが楽しいよ」

 この忙しいときにこれ以上かまってられない。「ご注文がお決まりになりましたら——」とテーブルを離れようとしたら手首をつかまれた。

「いいからつきあってよ」
「あの、ほかのお客さんが待ってるので……」
「すみませんけど」

 あ、と思う暇もなかった。月がすばやく俺と男の間に割りこんでくると男の手を弾きおとす。

「スタッフへの迷惑行為はやめてください。これ以上しつこくするなら警察を呼びます」
「は? おまえには関係ないだろ」
「ありますよ。陽太は俺の大事な親友なんだから」
「ちょっ、月――」

 ふたりはにらみあう。
 一触即発の空気に店内の空気がぴりっとしたとき、「あ、谷口(たにぐち)先生! いらっしゃいませ!」と沢木さんが廊下に出ていった。

 谷口はいかつい体育の先生だ。沢木さんが腕をひっぱってつれてきたのを見て、ぎょっとしたように男は顔をこわばらせる。そして無言で店をでていった。
 俺はほっと息を吐きだす。

「まさか学校まで来るとか……って、月?」
「こっち」

 月の手をつかまれたかと思うとキッチンに連れていかれる。「念のため消毒して」と言われて面食らった。

「なんで?」
「なんのバイキン持ってるかわからない」
「そんな言い方よくないって……」

 大丈夫だよ、と言ったけれど月は真剣な表情を崩さない。仕方なく俺はボトルを押してエタノールで指先から手首まで消毒した。

「これでよし」
「やりすぎだと思うけど……でもサンキュ。助けてくれたんだよな」
「あいつあとで殺す」
「やりすぎだから」

 本気でやりそうな月をなだめていると、おーい、と沢木さんが顔を覗かせる。

「森本くんに言われたとおり男の先生連れてきたけど……大丈夫だった?」
「なんとか。タニセンの分は俺が払うから」
「……うん、わかった。陽太くん、平気?」
「ごめん、迷惑かけちゃって」
「いいよいいよ。陽太くん優しいから、ああいうひとって勘違いしちゃうんだよね。どんまい」

 沢木さんはフォローのつもりで言ってくれたんだろうけど、それってけっきょく俺が悪いんじゃないかと思って胸がふさぐ。さっきだって俺がきっぱり断ってれば……

 そう思っていたら「な、陽太」と月が声をかけてきた。

「……ん、なに?」
「まえに陽太はだれにでもへらへら愛想振りまいてるから狙われるんだいい加減にしろ心配する俺の身にもなれって言ったけど、あれやっぱ気にしなくていい」
「そこまで言われてないと思う……でもなんで?」

 月は真剣な顔で言う。

「俺が守るから。陽太に手をだそうとするやつは俺が追いかえす」

 パネルの内側にいた沢木さんや佐々木がそれを聞いて顔を真っ赤にする。もちろん俺も。

「え? やだ、森本くんかっこいー!」
「すげぇ……イケメンにしか許されねえセリフ……」

 月は固まっている俺にひらひら手を振って笑う。

「じゃ、残りがんばろうな。平常心で」
「できるかっ!」

 そのあとはこれといったトラブルなく午後になり、シフトを交代した俺たちはとりあえず腹ごしらえをしようとB組がだしている屋台に行った。月は激辛タコヤキを、俺は普通のを頼む。

「あの調子だと閉会(ラスト)までもたないかも。明日は作る量増やすか」と食事用のテントの下で真っ赤なタコヤキをつつきながら月が言う。
 よくこんなの食べられるよな……。

「どれが一番売れてた?」
「レモンタルトかな。俺が上がるときもうあと四切れしかなかった」
「じゃあそれをメインで作ろっか」

 それにしても、向いてない向いてない言いつつちゃんとそういうところも見ていたらしい。
 なんだか嬉しくなって「ちゃんと見てるじゃん、月」と褒めると「あたりまえ」と返ってくる。

「そしたら陽太に褒めてもらえるから。がんばった」
「……うん、さすが月。えらいえらい」

 手を伸ばして頭をぽんぽん叩いてやる。
 月はされるがままになったあと、「最近母親度上がってない?」とつぶやいた。

「だれが? 俺?」
「陽太以外にだれがいるんだよ」
「そんなことないって」
「ほかのやつにやっちゃダメだからな」
「やるわけないし……」