愛が重すぎる美形の親友に囲いこまれてBLエンド一直線にされました

 二学期のはじまり。陽太と隣の席になれたらいいな、と思って効果があるらしい虹の写真をトークルームの背景にした。

 おまじないとか俺らしくないし、実際は男の列と女子の列が交互に来るようにするだろうからありえないけど。でも、まあ、なんとなく。

「——陽太!」

 始業式の朝、駐輪場に自転車を止めるともう陽太のがあった。
 彼がいつ来たかもわからないのに、まだ追いつけるかもしれないと思って俺は昇降口まで駆けだす。そして階段を上っている陽太の背中を見つけて声をかけた。

「月?」
「おはよ。今日は陽太のが先だったか」

 久々の陽太の制服姿。ほぼ家に引きこもってた俺はともかく、陽太も夏休み前とそんなに変わってない。たしか日に焼けない体質だって言ってたっけ。

 陽太とは会おうと思えばいつでも会えるけど今年の夏は特別だった。陽太のために作曲中は会わないようにしてたから。
 でも——それで、俺たちの距離が遠くなることなんてない。

 そう思ってたけど。

「……ごめん。今日委員会に顔だすから、先行く」
「え、」

 俺の顔を見ずに陽太はそう言うと階段を走ってのぼっていった。俺はその場に取りのこされる。

 そのときはまあそういうこともあるかな、と思った。でも。

「陽太、今日帰りどこか——」
「ごめん家の用事! またな!」

 始業式のあとのLHRもさくさく終わって、まだ夏休みの延長みたいな弛緩した教室の空気のなかで俺は陽太の席にいく。

 ちなみに席替えではやっぱり隣にはなれなかった。でも一列近づいたから、ちょっと前進。
 でも新しい陽太の席に俺が行くなり陽太は教室を飛びだしていってしまう。

「はあ……?」

 俺は陽太の席の横に立ちつくした。
 ……まさか。いや、そんなの考えたくないけど。

「森本、おまえたまにはみんなで遊びにいかない?」
「陽太がいないから行かない」

 陽太の前の席にいる上田だか下田だかの誘いを断り、俺は憮然とした気分で教室をでる。
 蝉の声が耳についてうるさかった。にぎやかな教室と同じくらい。

 まさか、とは思ったけど——

「陽太、今日の帰り——」
「バイト。ごめん」
「明日は?」
「カラオケで練習する。……その、まだ月には聴かせられないから」

 俺がどう誘っても陽太はそんな調子だった。遊びにいってくれないし一緒に帰ってくれないし目も合わせてくれない。

 もう間違いなかった。
 俺は陽太に避けられてる。

 ——なんで?

 心当たりは……そりゃ……ないわけじゃないけど。でも告白してからも陽太は俺の『親友』でいてくれてた。なのになんで突然?

 いつからだろう。たぶん、俺が陽太のための曲を聴かせたあの日からだ。あの日から陽太は俺を避けるようになってしまった。

 ——ひょっとして、『アカネ』が趣味に合わなかった……?

 陽太は俺にがっかりしたんだろうか。でもそれを直接言えなくて気まずいことに……

 いやいや、と俺は首を振る。

 そんなわけない。だって俺、天才だし。リテイクなんてまず食らわないし。今回は陽太のために持てるすべてのテクニックを使ってとっておきの曲にして……

 ひょっとして、それがやりすぎだった? 描きこみがエグすぎる絵みたいにどこをどう見ればわからない感じになってた……?

 まずい。だったら、陽太とちゃんと話して修正しないと。

 ——もうひとつ、もしかしたら陽太は『アカネ』というタイトルに隠した秘密と俺のうそに気づいたかもしれないと思ったけど、普通の男子高校生は花言葉なんてまず知らない。そっちは考えなくていいだろう。

 俺は陽太に電話したけど繋がらなかった。ラインで『曲、気に入らなかった?』と送る。

『ならどこが悪いか教えて。いまから修正すれば間に合うから』

 返事がきたのは夜。いつも陽太のバイトが終わる時間——ほんとは前みたいに迎えにいきたかったけど、陽太に嫌われたくなかったからいけなかった——になってからだった。

『そんなことない。すごくいいと思う。お世辞とかじゃなくて、いままで聴いた曲のなかで一番好きだよ』

 ならなんで、と俺は入力して止まった。
 ——ならなんで俺のこと避けんの。曲のせいじゃなかったらなに?

 聞きたいことはなにも聞けずに。
 俺は『なんかあったら遠慮なく言って』と返した。ああ、弱気になってるな、とその文面を見て自分で感じた。


 +++


 うちのクラスの出しものはレモン喫茶に決まった。フードもドリンクもレモンを使うこと以外はスタンダードな喫茶店。

「レモン嫌いなひとはどうするの?」と委員長に聞かれた発案者の子は「ほかの店行けばいいと思う」と言っていた。まあそのとおりだけど。

 接客と調理をだれがやるか話しあっているとき、今度は俺の前の席になった上田が「陽太ってレストランでバイトしてなかった?」と聞いてきた。

「してるけど……」
「なら調理やれば?」
「俺がやってるのホールだよ。接客」
「じゃあ接客な。委員長、陽太は接客! ついでに俺もそっち!」

 なぜか上田に決められてしまった。俺としてはレモンを使ったフードメニューにも興味あったけど……バイトで慣れてるし、まあいいか。

「なんで上田も一緒なの?」
「え、いいじゃん。陽太と一緒だとなんか上手くいきそうじゃん?」
「まあ、わからないことあれば教えるけど」

 月は調理にまわされていた。
 次は接客と調理に分かれて、接客チームは自分たちの制服と店内のレイアウトを考えることになる。

 でも俺は上の空だった。

 夏休みが明けてから月の顔をまだ一度も見れてない。
 なんでかはわからない。でも月が近くにいると体が熱くなって、いま絶対俺変な顔してると思って、適当な口実でそこから逃げだしていた。

 こんなのよくないのはわかってる。でも。

 ——なんだろ、この気持ち……?

「女子はウェイトレスの服でいいじゃん、黄色のやつ。男はぶっちゃけなんでもいいし。陽太もそう思わん?」
「……困るな……」
「え!? 却下……!?」