愛が重すぎる美形の親友に囲いこまれてBLエンド一直線にされました

『飯食べた』『これから寝る』『起きた』と月からは毎日定型文みたいなラインがきた。俺は『えらい』とか『よくできました』とか書かれたスタンプを返した。
 メッセージだと……このまえから悩んでることをそのまま送ってしまいそうだったから。

 ——俺と月の関係って、なに?

 親友。わかってる。でも。

『陽太くんと森本くんって仲いいよね。もしかしてつきあってるの?』

 そんなことないよと俺は言った。近藤さんの問いかけは冗談半分本気半分という感じだった。
 そうだよね、と彼女はぎこちなく笑った。

『男同士だもんね。ごめん、変なこと言って』

 変なこと。男同士は、俺と月がつきあうのは、変なことなんだ。

 彼女に悪意はなかっただろうけど、その言葉は俺の胸をちくりと刺して——


 真夏の太陽は目を開けていられないほどまぶしいのに、俺が見る世界はずっと薄闇のなかにあるみたいだった。
 夕暮れと夜の間。そこで俺は、あの日なくしてしまったなにかを探している。

 なんでもないこととして忘れられた。月とつきあってるの、って聞かれても。中学のときも冗談で言われたことあったし。
 でも俺は彼から告白されている。俺への想いをうちあけられている。

 ——月が俺を好きなのは変なことなんだろうか。

 そんなことない。だれかがだれかを想う気持ちが変なんてあるはずない、って言うのは簡単だけど。

「……月、」

 バイト終わり。店の前の電柱のそばにはだれもいない。
 そのことがやけにさびしくて、俺は小さく零す。

「そんなことない、って言えよ。……」


 そんな毎日がつづいて。八月も終盤になったある日、月から定型文以外の連絡がきた。

『曲できた。来て』と。




 来て、と月に言われたらいつもなら即飛んでいっていた。
 でもそのとき衝撃でぐらりと視界が揺らいで。すぐに行きたいような、行かなくてもいい理由を探したいような気持ちになっていた。

 行かなければ、きっと。
 月との関係は変わらないままでいられるから。

 でもまさかそんなわけにいかない。俺は『いまから行く』と返事をして、スマホだけ持って外にでる。

 午後五時の夏空は明るかった。もこもこと沸きたつような白い雲が青を彩っている。
 俺は小さく深呼吸してから自転車に乗った。

 夜なんて知らないみたいなきらめく光のなかを、月の家まで——




「……痩せた? 月」

 ほぼ一ヶ月ぶりの月の家はなんだか懐かしかった。久しぶりと言って喜ぶ月のおかあさんに挨拶をして、俺は二階の月の部屋のドアを開ける。

 相変わらず部屋は冷凍庫みたいに冷えている。そして、ベッドに座っている月は前に見たときより痩せていた。美形だから凄みがある。

「飯は食ってた。毎日ラインしただろ」
「……そうだけど」
「それより曲。できた。スマホに移したから」

 月が持つスマホにはイヤホンが刺さっていた。俺が花火大会の日に渡した——と言っていいのかどうか——イヤホンだ。

 俺が立ちすくんでいると、月はスマホから顔をあげて「座れば?」と言ってくる。

「隣」
「……うん」

 なんてことない。なんてことない、と思うけど。
 俺のことを好きだと言った親友の部屋で、彼とふたりならんでベッドに座るのは特別な感じがした。——いままではなんとも思わなかったのに。

 心臓が高鳴っているのがわかる。
 俺の緊張を知ってか知らずか、隣に座った俺に月は「はい」とイヤホンを渡してきた。

 耳に挿すまえに俺は尋ねる。

「タイトルは?」
「……あとで言う」

 ぼそっと答えると月はスマホをタップした。一秒たりとも聞きのがさないよう、俺はイヤホンを挿す。

 音が聞こえてきた瞬間、俺は息を呑んだ。

 それは——月が初めて作った曲のイントロをアレンジしたものだったから。
 イントロだけじゃなくて。AメロもBメロも、サビも。ぜんぶ。

 でもアレンジによってべつの曲に生まれかわっていた。
 夏の光を思わせるギターラインに激しいドラムスが重なって、それを重厚感があるベースがまとめあげる。要所で奏でられる高音のキーボードもアクセントになっていた。

 そして——『No tittle』とちがったのは歌が入っていたこと。

 好きになってはいけない相手、じゃない。
 好きになるしかなかった相手への想いを。

 月が、うたっていた。

 俺は気がつくとシャツの胸元を押さえていた。
 切ないくらい激しい月の想い。——俺への想い。それに心臓が反応して痛かった。

 男同士とか。変とか。そんなのどうでもいい。

 ただ、好きだって。
 俺のことが好きだって。

 三分ちょっとのその曲は、俺の世界とか常識とかを変えてしまうくらいの勢いで叫んでいた。

 曲が終わる。スコールが去るみたいに、突然に。

 俺はまだイヤホンを外せなかった。
 隣にいる月は曲が終わったことに気づいて、そっと口を開く。

「——これが、俺のぜんぶ」
「…………」
「陽太にやる。俺には、作曲の才能がある。こういう片想いも曲に昇華できる才能。だから心配いらない。おまえがべつの子えらんだとしても俺はそれを曲にするから。そうやって、乗りこえるから。俺が俺を優先したみたいに……陽太も陽太の幸せをえらべばいい。……もちろん、それまではアプローチしてくけど」

 陽太のスマホからもダウンロードしといて。月はそう言ってスマホを操作する。すこし遅れて、俺のがぽんと通知音を鳴らす。

 イヤホン越しの、音。

 俺はまだシャツを押さえていたけれど——「外す、な」月が手を伸ばして俺の両耳からイヤホンを外した。

 その途端、現実がクリアになるようで。俺は顔をあげられなかった。

 体の左側が、月がいるほうが、なんだかストーブにあたってでもいるみたいに熱くて——

「タイトルは」

 イヤホンを手の中でにぎりしめ、月が言う。

「『アカネ』。花の名前から取った。花言葉は、『あなたの幸せを願う』————」