愛が重すぎる美形の親友に囲いこまれてBLエンド一直線にされました

 月はほんとうに一日で三分ほどの曲を作った。横から見てても異常な集中力で。
 完徹だったけど今回だけは見逃すことにした。

 梅雨明けとともに夏本番って感じの暑さがやってきて、俺たちは毎日、太陽に背中を焙られながら自転車を漕いで学校に向かった。あと何日で夏休み、とふたりで数えながら。

「夏といえば」とようやくクーラーが解禁されて涼しくなった教室で俺は言う。カーテンを閉めても暑い窓際の自分の席を避けて、通路側の月の机の横に立って。

「プール」
「クーラーの効いた部屋でアイス」と月がノートの隅に落書きしながら返す。

「山でキャンプ」
「クーラーの効いた部屋で昼寝」
「……夏フェス」
「クーラーの効いた部屋で漫画」

 月が描いている絵はシロクマ(動物)がシロクマ(鹿児島名物)を食べている絵だった。ネット発の音楽クリエイターは絵も上手いイメージがあるけど、月もその例に漏れず上手だ。MVはいつも外注なのがもったいない。

 俺はその隣に太陽を描きながらつぶやく。

「月って夏きらいだよな」
「好きなわけなくない? 外にいるだけで死ねる暑さだぜ。こうやって毎日学校来てる俺をだれか褒めてほしい」
「えらい」
「どうも」
「……花火大会、大丈夫そう? うちの二階からも若干見えるっちゃ見えるし、家で過ごしても」
「でも祭りはべつ」
「倒れるなよ……?」

「陽太こそちゃんと休みもらった?」と月が念を押してくる。もらったよ、と俺は答えた。もう三回くらいされた確認だ。

「人手が足りないからって言われても絶対シフト入るなよ。陽太ってそういうところあるからさ」
「大丈夫だよ。むしろ、花火大会の日ってお客さんあんまり来ないんだって。みんな屋台でご飯済ませるからかな」
「あー、屋台もいいよな。ずらっと並んでるの好き。祭りって感じで。俺、あんず飴予約」
「ちょっと渋くない?」

 月が祭りが好きなのは意外だった。人混みなんていやだとか言って引きこもってそうなのに。
 そう思って、この時季はヒロインズと夏の予定を立てるのに忙しくて月のことをぜんぜん見れていなかっただけだと気づく。……反省。

「当日晴れっかなぁ……」

 彼はシロクマ(動物)の横にてるてる坊主を描く。台風は来てないし大丈夫でしょ、と俺はもう一体てるてる坊主を増やしながら言った。




 ――そして夏休みがはじまって、花火大会当日。

 花火は七時半からで、待ちあわせは七時だ。
 女の子とデートするときと同じくらい服装に悩んで、髪形に悩んで、持っていくバッグに悩んで――イヤホンの箱が入るものとなると限られるけど――俺は家をでた。駅まで自転車で行っていつもの駐輪場に止める。

 月はもう待ちあわせた改札前にきていた。
 ガードパイプによりかかって物憂げにウォークマンをいじっている彼はファッションモデルみたいで、通りすぎる女のひとたちが彼をちらちら見ている。

 ……こんな格好でよかったかな。もっと大人っぽいほうがよかったかも。
 自分が彼とはつりあわないことを自覚しながら、俺は思いきって「月」と声をかける。

「あぁ、陽太」

 音楽を聴いていても俺の声は聞こえたらしい。彼はイヤホンを外して――
 それがいつもとちがうイヤホンであることに気づいて、彼に駆けよった俺は固まる。

 あれ?
 月、いつも黒いやつ使ってなかった?

 彼が首から下げているイヤホンは青色だった。「この時間でもぜんぜん涼しくならないな」と言う彼に、俺は「……イヤホン変えた?」と尋ねる。
 うん、と月はこともなげに答えた。

「このまえついに断線しちゃってさ。でも外で使ってるやつにしては長く使えたほうかな」
「……そう、なんだ」
「そうそう。好きなアーティストとのコラボモデルなんだけど、重低音が響いていい感じ。壊れて即買ったよ、俺人混みだと音楽ないとだめだからさ」

 行こうぜ、と俺をうながして月は駅前の大通りへと歩きだす。今日は歩行者天国になっていて両側にずらりと屋台が並んでいる。

 俺はイヤホンが入っているショルダーバッグを肘で背中のほうに押しやり、「そうなの?」と月の隣まで行って尋ねた。

「なんていうか、聴こえすぎちゃう感じ? 会話とか物音とか。でもそういうのって基本ノイズじゃん。だからずっと聴いてると気分悪くなるんだよな」
「……知らなかった」

 三年も一緒にいるのに。彼が授業中以外はいつも首から下げているウォークマンとイヤホンにそんな意味があったなんて。
 申しわけなく思っていると、「そりゃ陽太は知らないっしょ」と月が言ってくる。

「俺、陽太と一緒にいると平気だから」
「え?」
「なんかわかんないけど、陽太が隣にいてくれると人混みでもイヤホンなくて平気なんだよね。なんでだろ? 陽太が癒しオーラ放ってるからかな」
「……でてる? そんなの?」
「でてる。そんなの」

 でも、そういう事情があるなら自分でえらびたいよな。最初から間違ってたんだ、俺の選択は。

 ――アホだなあ……。

 あらかじめ月にちゃんと確認しておけばよかった。思わず溜め息をつきそうになるのを堪えていると、「どした?」と急に月が立ちどまって顔を覗きこんできた。

「え?」
「なんか元気ない。大丈夫? 熱中症じゃないだろうな」

 と彼は俺の額に手のひらをあててくる。こんなに蒸し暑いのに彼の手はつめたくてどきっとした。

「ん、べつに熱はないか。でも具合悪いならもう帰る?」
「……ううん、平気。ちょっとぼうっとしただけだから」
「ならいいけど」

 ちょっとでも変だったらすぐに言えよな、と月は言いきかせるように俺に言う。
 なんだかいつもと立場が逆だ。うん、とすこしさびしい気持ちでうなずく。

 月の首から下がっている新品のイヤホンと、歩くたびに肘にぶつかるもう渡せないイヤホンの箱。

 それは俺と月の関係を暗示してるように思えた。

 俺がいなくても月はひとりでやっていける。月にはもっとふさわしいひとがいる。
 俺がいても邪魔になるだけだって――