愛が重すぎる美形の親友に囲いこまれてBLエンド一直線にされました


 せっかくなら月の曲を完璧にうたいたい。なので俺は家で時間を見つけてはボイトレ動画を見て勉強した。体力づくりのためのランニングもはじめることにする。

 うちの文化祭は九月下旬だ。あと三ヵ月。
 月に喜んでもらえるようしっかりやらなくちゃ。

 そんなことを思っていたある日、文化祭のステージにでたい生徒は七月末までに申しこむようホームルームで説明があった。機材をレンタルする関係でしめきりがはやめらしい。

 とりあえず昼休みに職員室で用紙を一枚もらってきて、上から順に自分のぶんを書きこんでいって――『ユニット名(あれば)』という欄にシャーペンを止めた。

「陽太、それってあれ?」
「うん、あれ」

 俺の席まで月がやってくる。そして俺の手が止まっているところを見て「あ、そか」とつぶやいた。

「まだ決まってなかったな。なににする?」
「ヒカルとヨータ」
「お笑いコンビみたいだから却下」このまえあなたが言ったんですが。「なんかさ、俺たちならではのがいいよな」

「それって?」
「知らん」

 無責任め……。

「図書室で辞書とか見てみようかな」と俺は用紙を裏返して席を立つ。月もくっついてきた。

 図書室は授業で必要になったときしかこないので辞書がどこにあるかわからない。
 カウンターで聞いて、入り口から見て正面奥の棚に向かっていると途中で一本棚の番上にある本を取ろうとして背伸びしている女子を見かけた。

「大丈夫?」と俺は彼女の横に立つ。あ、はい、と眼鏡をかけた小柄な女子は驚いたように応える。

「俺が取るよ。これ?」
「あ、その隣の――」

「これだな」と俺の横から伸びてきた手が彼女が指さした本を取った。はい、と月が眼鏡の子に渡す。

「おどおどしてないでさっさとだれかに頼めよ」
「……すっ、すみません……!」

 彼女はまぶしそうに月を見上げ、何度も頭を下げると逃げるように去っていった。

「サンキュ、月」
「……考えてみりゃ本好きの眼鏡っ子って陽太のヒロインにいなかったな。あっぶな……」
「なにぶつぶつ言ってんの?」
「そういやあの男もう店来てない? 大丈夫?」

 グラスを割ったお詫びのクッキーにラインIDをつけてきたひとだ。

「うん、いまのところ。ちょっと悪いことしたかな」
「そんなわけないだろ絶対連絡するな来たら即警察呼べ」
「言いすぎだって……」

 そのあとも本棚の陰からでてきた女子にぶつかりそうになったり(ぎりぎりのところで月が俺の体をひっぱってくれた)、なにげなく開いた本に女の子が書いたっぽい手紙がはさまっていたり(月が『忘れものです』とカウンターに持っていった)となにかイベントが起きそうな気配はあったけれど特になにもなく、俺は目的の国語辞典を取りだす。

「じゃ、俺英語な」と月は英和辞典を取りだした。いい言葉がないか、四人掛けのテーブルに向かいあわせに座って調べていく。

 ――俺たちならではってなんだろうな……。

 明石陽太。森本月。……月と太陽、とか? ちょっとかっこよすぎる? 月はこれくらいかっこよくてもいいだろうけど、俺がちょっと背負えないかな……。

 月と太陽を表す言葉で『日月(じつげつ)』というものがあるらしい。じつげつ。うーん、今度はちょっと渋い?

 悩んでいると月が「陽太、これとかどう」とスマホを見せてきた。いや辞書の意味。

「ルニ……なに?」

 辞書サイトみたいで、そこには『lunisolar』という言葉が表示されている。
 俺が小声で読み方を聞くと「ルニソラー」と月もひそひそ声で教えてくれる。

「月と太陽を基準にした暦体系――って言われてもよくわからないけど、ラテン語の月と太陽を組みあわせた言葉なんだってさ。俺たちっぽくない?」
「……すごい月、こんなのよく見つけたな」
「もっと褒めろ」
「すごい。最高。おしゃれ。え、もう決まりじゃんこんなの」

 俺ひとりだったら十年かかってもたどりつけなかった言葉だ。「はやく書いちゃお!」と俺は月をうながす。

 担任の先生に申込用紙を渡して、一歩前進。
 浮かれた気分のままに、放課後、俺は「月、カラオケ行かない?」と彼を誘う。今日は月曜なのでバイトはなしだ。
「いいね」と月も乗り気になってくれた。

 駅前のカラオケボックス。さっそく『サマスト』の新曲をうたった俺に、「やっぱ陽太の声きれいだよな」と向かいのソファに座る月が言ってくれる。

「高音もきれいに伸びてるしさ。いいよな。ずっと聴いてたくなる」
「褒めすぎだって」

 そういう月も歌はうまい。音程なんてまず外さないし、それでいてどんな曲もドラマチックにうたいこなせる。俺とはちがってすこしハスキーな声も聴いていてどきどきする。

 ……どきどき。いや、これはうまい歌を聴いてどきどきするってだけで……。

「なんか口のなかべたべたしてきたから陽太の飲ませて」
「新しいの取ってくればいいじゃん。ったく……」

 レモンスカッシュを飲んでいた月がウーロン茶が入った俺のコップに手を伸ばす。
 間接キス? いやいや。向きがちがうし。

 ……なにひとりであわててんだろ、俺。

「あ、月、月の曲うたっていい?」
「いいけど95点以上取れなかったら失格な」
「月の曲難しいんだよなー」

『月世界』の曲もいくつかカラオケに入っている。俺はうたいやすそうという理由で『Rainy sunday』を入れて、イントロが流れだしてからこれは片想いの曲だと思いだした。
 好きになっちゃいけない相手を好きになってしまったひとの――

 気づいていないふりをしながら俺はうたいはじめる。月の顔を見れない。

 俺が好きだとはっきり言った彼とこんなふうにふたりでいて、彼が作った片想いの曲をうたって、それでも気づいてないふりをしている俺はきっとずるいんだろう。かすかに声が震えた。

「……あ。やば、88だって」
「やーい、失格」

 採点結果は88点。微妙な数字だ。

 ――俺は月を傷つけたかもしれない。まだ彼の顔を見れないままウーロン茶を飲んでいると、テーブルに頬杖をついて月が言った。

「好きといって」
「えっ?」
「――と、透きとおってって韻踏んでるんだよ。気づいてた?」

 俺は落としそうになったコップをつかみなおしながら答える。「あ、そうなんだ。いま気づいた」

「やーい、失格」
「るさい……」

 俺の気持ちはどこにあるんだろう。
 月のことは好きだ。もちろん。でも彼とつきあって……その先のことがうまく想像できない。

 もしつきあったら、漫画とかドラマの恋人みたいにキスをしたりふれあったりするんだろうけど。
 そのとき俺はどんな顔をしているんだろう。
 恋愛漫画のヒロインみたいに……幸せそうな顔をしているんだろうか。

「…………」

 考えこんでから俺は自分がなぜかヒロイン側で想像していることに気づき、待て待て、と首を横に振る。なんで俺が女の子側なんだ。そりゃ月はかっこいいけど……

「なにひとりで赤くなってんの、陽太」
「月がかっこいいのが悪いんだろ……!」
「……いま俺責められてる? 褒められてる? どっち?」
「るさいっ!」