「ようこそ、いらっしゃいました。魔女様、そして弔い人様」
景色に見惚れていると隣から黒い礼服に身を包んだ初老の男が現れ、深々とお辞儀をする。
「私はヴィーダ。この辺り一帯の領主をしております。以後お見知りおきを」
「こんにちは。俺はイオ、そして隣にいるのは魔女のヒマリです。今回はよろしくお願いします」
「……よろしく、お願いします」
ヒマリはイオの影に隠れながら、小さく挨拶をする。初対面の人と話すのは、どうにも苦手だった。ヒマリの態度にイオは苦笑を漏らし、ヴィーダに「人見知りで……すみません」と謝る。
「いえいえ、問題ありませんよ。こんな辺境の地までお越しくださっただけ、私たちには嬉しきこと。ご覧の通り、雪に埋もれた何もない場所ですが、どうぞごゆっくりお過ごしください」
ヴィーダはもう一度深くお辞儀をするとヒマリたちについてくるように促した。
町の中はとても静かだった。
人の気配は薄く、空気だけが静かに佇んでいる。時折聞こえる風の音すら異質に感じられ、本当に人が住んでいるのか——そう疑いたくなるほどの沈黙がこの街を支配していた。
「冬の魔女様の影響で、人々は家の中にこもっているのです。魔女様の厄災の影響を受けぬように、と」
「冬の魔女の厄災に心当たりがあるんですか?」
「ええ、あります。きっと、弔い人様たちも一目見ればわかることでしょう」
イオとヴィーダの話を聞きながらヒマリはそれぞれの家を観察する。どの家も窓はしっかり閉められており、カーテンも引かれていた。ヴィーダの言う通り、みんな外に出ることはおろか、外を見ることすら忌んでいるようだった。
その時、空からまた一枚の黒い花弁が降ってくる。それは、ひらひらと風に遊ばれるように舞いながら、ヒマリの横を通っていく。一瞬頬を掠めたそれは、ヒヤリと冷たく、教会で嗅いだのと同じ花の香りがした。ヒマリはその香りにつられるように目で追いかける。
花びらはまるで、ヒマリについてこいと言っているようだった。
なんの力か地面に落ちることなく飛び回り続ける花弁をヒマリはじっと見つめる。
どうしてか分からないけど、あの花びらからは自分と同じ——魔女の力を感じる気がする。
(もしかして、あれが……)
冬の魔女の未練なのかもしれない。
そう考えたヒマリは、「イオ」と名前を呼ぶ。しかし、その声は雪に吸い込まれるように消えていった。不思議に思ったヒマリが振り返った時、彼女はさっと顔を青ざめさせた。
振り返った先にはイオもヴィーダもいなかった。
「……イオ?」
もう一度名前を呼ぶが、返事はない。それどころか、つい割くほどまで二人が歩いていたはずの雪の上には、足跡すら残っていなかった。
ヒマリは杖を握る手に力を込める。
「……ここは、どこ?」
いつの間にかヒマリは、たった一人で雪の街に立っていた。
景色に見惚れていると隣から黒い礼服に身を包んだ初老の男が現れ、深々とお辞儀をする。
「私はヴィーダ。この辺り一帯の領主をしております。以後お見知りおきを」
「こんにちは。俺はイオ、そして隣にいるのは魔女のヒマリです。今回はよろしくお願いします」
「……よろしく、お願いします」
ヒマリはイオの影に隠れながら、小さく挨拶をする。初対面の人と話すのは、どうにも苦手だった。ヒマリの態度にイオは苦笑を漏らし、ヴィーダに「人見知りで……すみません」と謝る。
「いえいえ、問題ありませんよ。こんな辺境の地までお越しくださっただけ、私たちには嬉しきこと。ご覧の通り、雪に埋もれた何もない場所ですが、どうぞごゆっくりお過ごしください」
ヴィーダはもう一度深くお辞儀をするとヒマリたちについてくるように促した。
町の中はとても静かだった。
人の気配は薄く、空気だけが静かに佇んでいる。時折聞こえる風の音すら異質に感じられ、本当に人が住んでいるのか——そう疑いたくなるほどの沈黙がこの街を支配していた。
「冬の魔女様の影響で、人々は家の中にこもっているのです。魔女様の厄災の影響を受けぬように、と」
「冬の魔女の厄災に心当たりがあるんですか?」
「ええ、あります。きっと、弔い人様たちも一目見ればわかることでしょう」
イオとヴィーダの話を聞きながらヒマリはそれぞれの家を観察する。どの家も窓はしっかり閉められており、カーテンも引かれていた。ヴィーダの言う通り、みんな外に出ることはおろか、外を見ることすら忌んでいるようだった。
その時、空からまた一枚の黒い花弁が降ってくる。それは、ひらひらと風に遊ばれるように舞いながら、ヒマリの横を通っていく。一瞬頬を掠めたそれは、ヒヤリと冷たく、教会で嗅いだのと同じ花の香りがした。ヒマリはその香りにつられるように目で追いかける。
花びらはまるで、ヒマリについてこいと言っているようだった。
なんの力か地面に落ちることなく飛び回り続ける花弁をヒマリはじっと見つめる。
どうしてか分からないけど、あの花びらからは自分と同じ——魔女の力を感じる気がする。
(もしかして、あれが……)
冬の魔女の未練なのかもしれない。
そう考えたヒマリは、「イオ」と名前を呼ぶ。しかし、その声は雪に吸い込まれるように消えていった。不思議に思ったヒマリが振り返った時、彼女はさっと顔を青ざめさせた。
振り返った先にはイオもヴィーダもいなかった。
「……イオ?」
もう一度名前を呼ぶが、返事はない。それどころか、つい割くほどまで二人が歩いていたはずの雪の上には、足跡すら残っていなかった。
ヒマリは杖を握る手に力を込める。
「……ここは、どこ?」
いつの間にかヒマリは、たった一人で雪の街に立っていた。



