イオとハルキは第二課のある階層まで来る。そこはまるで小さな戦場のようで、いろんな紙や人の声が行き交っていた。その様は「相変わらずだな、ここは」とハルキがあきれるほどだった。
長寿である魔女が眠ることはよくあることではない。だが、今回のように魔女が眠ると第二課は必然的に忙しくなる。魔女の未練によって引き起こされる異変は、生前の魔女が持っていた力によって規模が変わる。力のある魔女が眠ればその後始末も一筋縄ではいかない。異変が完全に収束するまで、数ヶ月を要することさえあった。
また、第二課は魔女を有する国や町の対応も含めて全てを担っている。《レクイリス》の中でもある意味でブラックな職場の一つでもあった。
「でも、ようやくこの間、大きな案件が終わったところなんですよ」と疲れた様子で笑うと、ハルキは「これでか……?」と信じられないものを見るようにもう一度第二課の惨状を見渡した。
「イオ。おかえりなさい」
その時、二人のそばに軽い足取りで近づいてきた女の子がいた。その子は銀色に光るボブの髪を揺らし、紺碧の瞳でじっとイオを見つめる。整った顔には、感情らしい感情がほとんど浮かんでいない。身長はイオよりも少し低く、全身を真っ黒なワンピースで包み、先が曲がった杖を持っていた。
女の子の名前は長野ヒマリ——第二課で働く魔女だ。
「やぁ、ヒマリ。仕事は終わった?」
「全然。仕事が終わってもすぐに次の仕事が入ってくるから、終わりが見えない」
イオが笑いかけるがヒマリは無表情のまま淡々と状況だけを報告する。
その様子を見ていたハルキが何かを察したように肩を竦めた。その時、ヒマリはようやくハルキのことに気がついたように視線を向ける。疲れ切ったように目の下にクマを作った、背の高い男に見覚えがあるような気もする。けれど、ヒマリにはハルキという名前が出てこなかった。
「……誰?」
「おいおい、数ヶ月前にも会ってるだろ」
「ヒマリ、ハルキ先輩だよ」
ハルキは呆れたように眉を下げ、隣ではイオが仕方なさそうに口元を緩めていた。イオの紹介でヒマリはようやく名前と顔が結びつく。「あぁ、あの人」と呟けば、「あぁ、じゃねぇよ」とわざとヒマリの髪の毛をぐしゃっと掻き回す。それでもやっぱり、ヒマリはハルキのことをよく覚えていなかった。
長野ヒマリは感情を失った魔女として《レクイリス》では少しばかり有名だった。もっとも、ヒマリ自身にはその自覚がない。嬉しい時は嬉しいし、腹が立つ時は腹も立つ。今だって、イオが書類に半を押してくれないことにちゃんんと困っている。——ただ、それが顔に出ないだけだ。
ヒマリが笑わない代わりにイオが優しく微笑む。
「そうだ、仕事をやってくれてありがとうね。困っていることはない?」
「イオが書類にハンコを押してくれないから仕事が滞ってる」
「あはは、それは大変だ。今すぐ、僕も仕事に戻るよ」
二人の会話を聞きながら、ハルキはほうっと息を吐く。
「先輩はどの人に相談に来たんですか? 必要があれば呼んできますけど」
「あぁ、いや、大丈夫だ……俺は、お前たちに仕事を頼みにきたんだよ」
ハルキの返答にイオは目を丸くする。
「冬の魔女が、お前たちを呼んでいるそうだ」
長寿である魔女が眠ることはよくあることではない。だが、今回のように魔女が眠ると第二課は必然的に忙しくなる。魔女の未練によって引き起こされる異変は、生前の魔女が持っていた力によって規模が変わる。力のある魔女が眠ればその後始末も一筋縄ではいかない。異変が完全に収束するまで、数ヶ月を要することさえあった。
また、第二課は魔女を有する国や町の対応も含めて全てを担っている。《レクイリス》の中でもある意味でブラックな職場の一つでもあった。
「でも、ようやくこの間、大きな案件が終わったところなんですよ」と疲れた様子で笑うと、ハルキは「これでか……?」と信じられないものを見るようにもう一度第二課の惨状を見渡した。
「イオ。おかえりなさい」
その時、二人のそばに軽い足取りで近づいてきた女の子がいた。その子は銀色に光るボブの髪を揺らし、紺碧の瞳でじっとイオを見つめる。整った顔には、感情らしい感情がほとんど浮かんでいない。身長はイオよりも少し低く、全身を真っ黒なワンピースで包み、先が曲がった杖を持っていた。
女の子の名前は長野ヒマリ——第二課で働く魔女だ。
「やぁ、ヒマリ。仕事は終わった?」
「全然。仕事が終わってもすぐに次の仕事が入ってくるから、終わりが見えない」
イオが笑いかけるがヒマリは無表情のまま淡々と状況だけを報告する。
その様子を見ていたハルキが何かを察したように肩を竦めた。その時、ヒマリはようやくハルキのことに気がついたように視線を向ける。疲れ切ったように目の下にクマを作った、背の高い男に見覚えがあるような気もする。けれど、ヒマリにはハルキという名前が出てこなかった。
「……誰?」
「おいおい、数ヶ月前にも会ってるだろ」
「ヒマリ、ハルキ先輩だよ」
ハルキは呆れたように眉を下げ、隣ではイオが仕方なさそうに口元を緩めていた。イオの紹介でヒマリはようやく名前と顔が結びつく。「あぁ、あの人」と呟けば、「あぁ、じゃねぇよ」とわざとヒマリの髪の毛をぐしゃっと掻き回す。それでもやっぱり、ヒマリはハルキのことをよく覚えていなかった。
長野ヒマリは感情を失った魔女として《レクイリス》では少しばかり有名だった。もっとも、ヒマリ自身にはその自覚がない。嬉しい時は嬉しいし、腹が立つ時は腹も立つ。今だって、イオが書類に半を押してくれないことにちゃんんと困っている。——ただ、それが顔に出ないだけだ。
ヒマリが笑わない代わりにイオが優しく微笑む。
「そうだ、仕事をやってくれてありがとうね。困っていることはない?」
「イオが書類にハンコを押してくれないから仕事が滞ってる」
「あはは、それは大変だ。今すぐ、僕も仕事に戻るよ」
二人の会話を聞きながら、ハルキはほうっと息を吐く。
「先輩はどの人に相談に来たんですか? 必要があれば呼んできますけど」
「あぁ、いや、大丈夫だ……俺は、お前たちに仕事を頼みにきたんだよ」
ハルキの返答にイオは目を丸くする。
「冬の魔女が、お前たちを呼んでいるそうだ」



